常識や概念が通用しない程度の能力
主人公の能力長い上にチートっぽい響き。
上手く使えば全能力無効化スキル。
通用しないって言葉が能力による矛盾を屁理屈こねて説明できるであろう安全策
夜の空に満月と星空が光る。
幻想郷の夜空はとても美しく、聖はそれを眺めることがとても好きだった。
この幻想郷に来てすでに6年の歳月がたつ。
この世界が自身のいた世界であるかもわからない、外に出る方法はあるようだが、慧音母さんを残してでていけるわけもない。
決してそれは前世の家族と再び出会うことをあきらめたわけではない、この世界での家族も同様に大切だということだ。
縁側に座って、意味もなく右手を月に掲げる。
この体になってから、最初は絶体絶命の危機に瀕したが、母さんと出会うきっかけにもなったのだ、その点に関しては不満はない、……しかし、この体は何故薄黒いのだろうかと聖は考える。
――ふと、聖は何かに気付いた。
「……肌の色がいつもより、黒い……?」
……いや、気のせいだろう。
月光の下とはいえ夜だ、黒く見えることなんて当然のことなのだから。
気にし過ぎだろう、さっさと部屋に入って眠らなければ――。
そう考えた時だった、聖の中で何かが蠢いたのは。
しかし聖は至って冷静だった、それもそのはずだ、聖にとってその感覚は生前からも起こっていた、この肉体になってからその感覚は少し変わったような気もするが、そこまで不安になることでもない。
体が熱くなり寝付けなくなる、被害でいえばその程度のことだ。
さっさと布団に入り目をつぶれば、次の日にはいつもと変わらない、そう思って歩き出すが、この日ばかりは違った。
「あ―――うぁっ」
呻く、いつもとは違う。
熱さが広がっていき、その熱をさらに高めていく。
沸騰した鍋の中のお湯のように、それは噴出していく。
「かあ、さ……」
「聖!?大丈夫か聖!」
目の前がかすれていく、世界が薄れていく。
意識が薄れていき、ブラックアウトする――。
「聖!?大丈夫か聖!」
慧音がゆするが、聖は荒い呼吸のまま目を開けることはなかった。
満月、それは妖怪にとって恩恵を受けることができるときであり、それは慧音も例外ではない。
その姿はいつもの姿とは変化し、角の生えたような姿となり、まさしく人外のそれだ。
それもそのはずだ、彼女は半獣であり、聖獣と呼ばれはすれど妖怪の一種であるハクタクでもある。
聖の異能については慧音は理解していた。
妖力といったものは身近なために、聖の力の一部としてあることは知っていた。
しかし聖は何事もないように普通に生活していたじゃないか、そう考えた後に、自分の考えの甘さを痛感して、地面を殴りつける。
殴られた地面は轟音を立てて抉れるが、慧音は気にせずに聖をどうにかしようと考えを巡らせる。
「……何やってんだ?」
真剣な表情をして、妹紅が顔をのぞかせ、その視線を聖へと移す、そして目を丸くした。
「この力……まさか聖は」
「違う!この子は、聖は人間だ……人間から生まれたんだ、だから」
「でも、妖怪へと変貌しているのでしょう?」
慧音と妹紅ははじかれたように声のした方向を見る。
空間に亀裂が起こり、そこから顔を出したのは金髪の美女。
――八雲紫、慧音も妹紅もその存在と名前を知っていた。
八雲紫はふわりと亀裂から飛び立つと、月明かりに照らされながら優雅に降り立った。
そのまま聖へと視線を向けると、荒い呼吸が静かになり、苦しそうな表情が楽になる。
慧音と妹紅はその様子に胸をなで下ろし、八雲紫へと視線を移す。
「初めまして、八雲紫と申しますわ」
「妖怪の賢者様、か……」
「紫でいいわよ?」
「では、紫様と、……聖の体に何が起こったのですか」
そう淡々と、それでもそこから焦りが分かる様子で慧音が問いかけてくるのを見て、紫は「お堅いわねぇ」と頬に手を当ててため息をつく。
その後、聖について説明を始めた。
「いうなれば、彼は『ありえない存在』……もう少し詳しく言えば『人間でありながら人間になれない存在』かしら」
「ありえない存在……!?」
妹紅がそう言い放ち、ジロリと紫を睨む、御託は良いから率直に話せ、そう視線で訴えかけてきていた。
その様子に紫は再度ため息を放つと、本題に入ることにする。
「彼の能力よ」
「能力……?」
「名前を付けるなら、『常識と概念が通用しない程度の能力』かしら」
そのつけられた名前に二人は息を飲んだ。
「……『常識と概念が通用しない程度の能力』だと……思い当たる節がないわけではないが……」
「説明しなさい……!」
眼光を鋭くした妹紅が慧音へと説明を要求する、すでに平常時の口調ではない彼女の有無を言わせない雰囲気に、慧音は深刻な面持ちで頷き、聖の過去を説明する。
浅黒い肌、銀髪の髪、そんなものを持ってしまったために父親に捨てられた過去を。
「そもそも、3つになるときから、書物を読み漁っていることに驚いたが、能力の所為だったのか」
勝手に納得する、事実はまったく違うのだが、慧音にとって知らぬことだった。
唯一真実の知っている紫はそのことを訂正することはおそらく永遠にないだろう。
「――それはいいのよ、重要なのはその能力によって人間には持たざる能力を持っているために、彼は苦しんでいるのだから」
「持たざる能力、つまり妖力ということか」
「少し違うわね」
そういって紫は指を折ながら説明を始める。
「一つ目は霊力、巫女の力と言えばわかりやすいかしら、二つ目は気、人であれ生命ある万物ならすべて持ちうる力、三つ目は妖力、これは理解してるわね、そして魔力、魔法使いが使用する力」
そして五つ目。
「五つ目の力は神の力、大ざっぱに言ってだけど、この五つがあるから彼の肌の色や髪の色は変貌し異様な姿となったのじゃないかしら」
「し、しかし今までは何もなかったのですが」
「恐らくだけど、今までは人間であろうとする本能が満月で増幅する妖力に対して対抗勢力となっていたんじゃないかしら、でも成長するにつれて増幅する量は増加していった」
それでこういう結果になったのよ、そう紫はいって聖を見る。
「ならば霊力や気を習得すればいいのですか……」
「そうね、妖怪になりたくなければね、まぁ妖怪になれば理性を保てるか不安なものだけどね」
「……つまり鍛えればいいのか……?」
「聖!?」
弱いかすれ声で聖はそう言い放つ。
聖の意識が回復したのをみて、紫はちょうど慧音の体で隠れる場所へと移動する。
「そうね、まぁオススメは博麗神社かしら」
「じゃあ」
「だけど鍛えるという選択肢は貴方の未来を広げることは理解していてね、それは当然不幸な方にもね、不完全で力及ばず妖怪になってしまうということもありえるかもしれないわよ」
「……俺は妖怪であったとしてもどうでもいい」
「……」
「俺は、自分自身を、大切な人を護りたい、努力を踏みにじるような理不尽から」
「……そう」
「……そういえば、えっと」
「八雲紫、紫でいいわ」
「……紫さん、どこかであったかな、声だけだけど知っているような気がする」
扇を取り出し、顔の表情を八雲紫は隠し。
「いいえ、会ってないわね」
そう淡々とした口調でそう返した。
「……そう……」
そういった後に、聖はすやすやと寝息を立てる。
その様子に慧音と妹紅は安心したあとに、視線を八雲紫がいた方向に向けるが、そこに影も形もありはしなかった。
薄暗い空間の中、八雲紫は無表情で見上げる。
「……彼の力は、この世界で中立の力」
平坦な声でそう言い放つと、目の前に亀裂を生みだして彼女はその亀裂へと飛び込んでいく。
満足した