見えない絆と見えない愛
「一つお願いがあるのだけどいいかしら」
「はい、なんでしょうか?」
掃除も終わり、修行場へと向かおうとする聖へと声をかける姿がある、紅魔館の主にして吸血鬼の少女、レミリア・スカーレットだ。
それに反応する聖はレミリアへと丁寧にお辞儀をして内容を聞く。
すると「妹と遊んでくれないかしら?」という内容だった。
妹、というと、この紅魔館とは数年とはいえかなり深い付き合いがある筈、なのだが聞いたことが無い。
――あぁ、そういえば師匠がそれっぽいことをいっていたような気がする。
「それで、その妹様とは?」
「フランドール・スカーレットよ、金髪で赤い服を好んできるわね」
「どのあたりに居られるので?」
「地下にいるわ、後はパチェに聞けばわかると思うわよ」
そう言った後に「あと、一週間後でいいから」と付け足して去っていった。
一週間後、か。
何か相手方に用事でもあるのだろうか、そう思うが、少し考えてみて冷や汗が流れる。
嫌な想像が生まれてしまった――いや、一番信憑性のある可能性というべきだろうか。
妹ということだから吸血鬼だ、ということは力は強い。
舐めてかかって、ビンタで頭を吹き飛ばされるかもしれない。
――まずは情報収集か。
そう思いパチェリー師匠と美鈴師匠の二人に話を聞くことにする。
「あ、え、えーっと妹様の遊び相手に任命された、……ははは」
美鈴師匠から乾いた笑いを向けられた。
『あ、ダメだ、死ぬなこいつ』みたいな目を一瞬向けられた気がするのだが気のせいなのだろうか、気の所為であってほしい。
「いや、まぁ大丈夫だと思いますよ?」
「えっとどんな人なんですか?」
「うーん、感情にブレがありますね」
……どんな人なんだよ。
「レミリア様とのご関係はどうなんですか?」
「尊敬したり、しなかったり?」
――ダメだ、次いこう。
パチュリー師匠――と咲夜さんだ。
用があったのか、向かうと一緒にいた。
「フランのこと……ね」
まただ、養豚場から車に乗せられていく豚をみるような目を向けられたような気がする――いや、気がするだけだッ。
「妹様ですか、遠目にしか見たことが無いですね」
「えっと、じゃあ師匠、どんな方なんですか?」
「色々とブレがあるわね、怒ったり冷徹だったり、無邪気だったり、感情の振れ幅が大きいといえばいいかしら」
「……えーっと不安定でいいんですか」
「そうね、その言葉で正確だと思うわ」
「……それでレミリア様とのご関係は?」
「そうね、尊敬してたり蔑んでたりするわね」
「不安定……でいいんですね」
「そうね」
――あれ、なんだろうな、とってもヤバイ気配がするぞ。
たとえるならいつ爆発してもおかしくない爆弾みたいな感じがするぞ。
「あーえっと能力とか持ってますよね」
「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力をもっているわ」
「……なんですか、そのラスボスみたいな能力は」
絶望感しか感じない。
「せ、聖はその、妹様の遊び相手に任命されたんだ、ですよね?」
「大丈夫よ、能力的には破壊する概念を無効化するわ――まぁ吸血鬼の力は無効にできないんだけれどね」
情緒不安定、いきなり怒り出して顔面パンチで頭がはじけ飛ぶ、なんて可能性があるのか。
うーん、死にそう!すごい死にそうでなんだか笑えてきた!
「ハハハッ!よーし俺全力で遊んじゃうぞー!」
「せ、聖、壊れないで、気持ちはわかるけど……」
「大丈夫よ、たまに興奮しすぎて破壊するまで攻撃をやめないとかあるけど、……あ、ごめんなさい、死ぬかもしれないわ」
――えぇ、そうですね、思いましたよ。
その言葉を聞いた瞬間『あ、俺死んだなー』なんて。
えぇ、もう俺の人生が走馬灯となってね。
水に沈められたり、土に埋められたり、炎の中を歩かせたり、滝を木の板が木くずになるほどに落ちる速度をはやめてそこに放り込まれたり。
そんな中、死にかけても必死で生にしがみついてきたっていうのにこのときばかりは頭が破裂して死ぬイメージが湧き出していくんですよ。
えぇ、もう……もう死ぬな、俺。
「へぇいへぇい!カモンカモン!」
一週間後、妹様と初対面となる本日。
レミリア様がみたのは反復横跳びしながら手を叩き、『Come on!Come on!Hey!Hey!』と言い続ける聖の姿である。
「……聖、何かしらそれ」
「殴られても避けられれば大丈夫なんです!つまり反復横跳びを極めて残像拳にすれば……!」
「……パチェ、咲夜、聖が何をいっているのかわかるかしら」
「……申し訳ありません」
「とりあえずヤケクソなだけで意味はないと思うわ」
「……そう、よしフランの所においてくるわよ」
鬼畜の所業。
「されど我は悪魔が主に遣われし人ならざる身、引くという言葉はは永久の彼方に置いてきた、さぁ参りましょう、これが俺の鎮魂歌だ!」
「……フランより聖のほうが気がふれてるわね」
「そうね、とりあえず行きましょうか」
「御意」
「……いきなり真剣な顔をしないでほしいわ」
どうしろと。
――まぁいいか、とりあえずさっさと妹様と会ってみないとわからないものだし、会ってから考えよう。
まぁ逃走する準備はしておくべきだろう、死にたくはないし。
レミリア様と共に向かうと、大図書館前で咲夜さんを置いていく。
大図書館の掃除を任され、自分もいくつもりだったのか少々困惑した後に了解した。
「何故かわかるかしら?」
「死ぬ可能性があるからですか?」
「えぇ、時を操る能力ははっきりいって最強の部類だけど、フランは遠距離だろうと普通に破壊するから、正直抗えないのよ、そうなると破壊される前に破壊する能力を止めなきゃいけないのだけど、現状の咲夜には無理ね、というわけでおいてきたわ」
「えぇっと、私は何故でして?」
「能力の干渉を受け付けない、死なないわ、フランの動きは直線的で素人同然なのよ、避けることに集中すればいくら吸血鬼の攻撃であろうとも避けることができるわ」
……すこし光明が見えてきた。
よかった!何も考えてないわけじゃないんですね!いったらたぶんグングニられると思うので言いませんが。
そのままついていくと、大きな扉の前でレミリア様は足を止める。
おそらくここがフランドール様の部屋となるのだろう。
軽くノックして、声をかけたかと思うとすぐに部屋へと入る。
「あ、お姉さま」
「フラン、おはよう」
「おはよう、お姉さま……えっと」
「彼は紅魔館の執事――といっても見習いだけどね、聖よ」
「聖です、よろしくお願いします」
吸血鬼ジョークなのかはわからないが、今は夜に入ったばかりだ。
挨拶を交わすと妹様は視線をこちらへと向ける。
「人間?」
「え、えぇまぁ一応」
「生きている人間なんて初めて見た」
「ちなみに聖の血は本気で不味いわ、そこらへんの土を食べるほうがまだ楽園に思えるほどに不味いわ、というより不味すぎて怒りを覚えるわ」
「やめてください死んでしまいます」
主に精神的に。
「じゃあ後はよろしく」
「お姉さま、いっちゃうの?」
「えぇ、後は聖と遊んでもらいなさい」
「……うん、わかった」
そう会話をした後、レミリア様は去っていった。
なんというか、姉妹のような会話なのに姉妹らしい感じがしない。
温かい何かがあるような気もするが、冷え切った何かがある。
「うーん、遊びますか!」
「……うん」
「Hey!Hey!Come on! Come on!」
テンション上げて、寂しそうな顔を無くさなきゃな!
結果。
三度死んだと思った。
そして間もなく四度目が訪れそうだ。
「あはははは!きゅっとしてドカーン!」
そうして爆発が起こる。
能力的にはおそらく俺の肉体が粉砕することになるんだろうが、俺の能力の所為で破裂しないし壊れない。
だが痛い、この能力は概念の影響だけを打ち消すらしい。
すでに超能力によって石を持ち上げ攻撃をぶつけられると攻撃を喰らうが、超能力の干渉下にはおかれないことは理解していた。
しかし新たなることがわかった。
恐らくこの能力は圧力をかけることにより破壊することなのだろう、つまり能力としては破壊という結果を生み出すものだ。
つまり破壊と言う結果そのものの能力であり、それを無効化しているのみなのだ。
つまり破壊されないけど圧力はかけられる!
つまり痛い。
「あはは、本当に壊れないんだ!すごいすごい!」
無邪気になってくれたことは嬉しい限りです。
半分後悔をしてはいますが。
――さすがに五度目は嫌なので、鬼ごっこ(ただしたまに死にかける)をやめて、停止する。
「うん?どうしたの?」
「能力の干渉をやめていただきたい」
「でも壊れないでしょ?」
「結構痛いんですよ、例えるなら――」
「例えるなら?」
「銀歯で銀紙を噛むくらい」
「なにそれ?」
――うん、自分でもどうかと思った。
吸血鬼に虫歯を前提とした話をするなんて。
「うーん、爪と肉の間に木の棒が突き刺さるみたいな」
「あぁ……」
わかってくれましたか。
「じゃあ能力はやめるね、でもはしゃいじゃうと使っちゃうかも……」
「わざと出なければいいですよ、できるだけ抑制していただければ」
「うん!」
というわけで鬼ごっこである。
俺は狭い室内なので全力で避けているのだが、これが意外に修行になる、直撃→死亡に直結しているので手を緩めることはないし。
そんなこんなで本日の遊び相手は終了。
「じゃあ、私はいきますね」
「また、来てくれる?」
「えぇ、いつでも」
そういって笑顔を向けると、少し嬉しそうに妹様は笑った。
「意外に普通でした、五回死にかけましたが、はしゃいでくれたようで」
「えぇ、無邪気な声が聞こえてきたわ、聞くのはいつ振りかしら……」
「あれ?昔はどうだったんですか?」
「……フランの能力は破壊する能力よ、私みたい運命といった目に見えない形ではなく、目に見える形で大きな影響を及ぼしてしまう、その上でフランははしゃいでしまうと無意識にその能力を使ってしまう、それで周りはフランに恐れて近づかないようになってしまった、私ぐらいなものよ、フランと一緒に遊んでいたのは」
「へぇ、仲の良い姉妹なんですね」
「私はそのつもりよ、まぁでもフランがはしゃいでしまって私の頭を半分吹き飛ばした後に部屋に閉じこもってしまったのだけど、その上で自らを抑制し続けて――情緒不安定になっていった、子供が子供らしい思考を抑え続けていれば少しずつズレが生じるのよ、でも私がフランといっしょにいようとすればするほど、あの子はどこかへいってしまう」
――だから、一緒にいられない。
「抑圧された感情が爆発すると濃密な好奇心の塊となる、それを狂気と呼ぶの、だからたまにフランは狂気に包まれてしまうことがある、――聖、貴方なら能力に干渉されない、だからフランもあなたが横にいても逃げようとはしない、そしていれば少しずつ子供らしくいられるし、抑圧し続けた気持ちも発散される、感情のコントロールができれば能力のコントロールだってできるようになるかもしれない――その時は、フランといっしょに紅魔館のみんなで遊べるわね」
「……全力で、がんばらせていただきます」
「――お願いね」
レミリア様は、冷徹なお方でもあり優しいお方でもあります。
母さん、俺はなんだかここに入れて本当にうれしいです。
「まぁ四百年以上ひきこもられてるとたまにフランのこと忘れてたりするけどね」
「おい」
――おい。
「妹様の能力の対処法?手の中に目を召喚された瞬間に瞬動で近づいて叩き落とせばなんとかできます」
「とりあえずそれができるのは美鈴師匠くらいじゃないですか?」




