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居場所

ジャスト、二週間ぶり。

暴走と、居場所。

この二点がやりたかっただけでここまできた。

魔法の森、日の光の入らない薄暗い森の中、聖は開けているというのに薄暗い広場のような場所に突っ立っていた。


「……はは」


笑い声は力なく。

そのまますとん、と膝を地につけて、前のめりになって地に手のひらを付けた。

現状把握を聖は本能で拒絶する、しかしそれでも押し通さなければならない。

このままでは何もかも無駄だ、いや、何をやろうが無駄になる確立のほうが高い。

なんてことだ、努力が無駄になるのは何度も食らおうともなれない。

いや、慣れてしまったときが人間として崩壊してしまったときなのだから、慣れていないという事実は喜ばしいことなのか。

あの後、この場にいたら慧音母さんの立場が危うくなることを理解したので、人里の遠くに行こうと出口へと向かった。

思考は停止し、亡霊のようにフラフラと外へと向かう聖に一人の影が現れた。

太郎だった。

太郎はいつも通りの中二病のような回りくどい言い方で言い放ったのだ。

「暴走するお前が怖いのだ」と。

そういって彼は聖に背を向けて歩いて行った。

それは太郎にとって、励ましの言葉に他ならなかった。

暴走するお前が怖いのだ、暴走しなければ怖くないと言っているのだ。

つまり暴走しないように努力しろ、そう彼は言った。

しかし、ごめんな太郎。


「俺、殺される確率が高いよ……」


この幻想郷は力関係が明確だ、強いものが権力が強いし、権力が強いからこそ力も強い。

暴走し、妖怪の賢者と呼ばれる八雲紫や、姉である妹紅でさえも手こずったとされる者を生かしておくわけもない。


「……それはないわよ?」


突然としてかけられた言葉に声の方向から離れるように飛びながら、視線を向ける。

そこには――そこには


「……だ……?あったことがありましたか?」


「さぁ、会ったことも有ったかもしれませんし無かったかもしれませんわ」


妖艶な存在感を持つ金髪の女性。

そして、何か矛盾したような子供らしさを兼ね備えたような、存在自体が不明瞭な女性がそこにいた。


「……いや、なんていうか」


「わからないということは、どうでもいいということではないのかしら」


「……いや、初対面でない可能性があるというのに忘れたでは失礼ではないでしょうか」


「最初の一言で、既知の仲であれ忘れていたと言っているようなものじゃない?」


「初対面じゃなければ、すいませんでした、それで……それはないとは?」


「貴方は死なないわよ――私が護るから」


どっかのアニメでみたなぁ、なんて言葉だった。

だが言葉はハッキリとしており、その言葉からは絶対的な自信を感じさせる。

まさか、この人は。


「八雲紫様ですね」


「そして貴方の命の恩人ね、それと……紫でいいわ」


「では紫様、と」


「血のつながりがなくても蛙の子は蛙ね……」


「……?」


「いえ、今はどうでもいいことね」


そういって紫様は指先をこちらに向ける。


「――二年上げるわ、力を我が物にしなさい、その力を持って弱きものを護り、強きものに勝ち、許す心を持ちなさい、それなら貴方の命は私が保証するわ」


「……有難く」


そういうと、紫様は満足した笑みを浮かべて発生した亀裂へと体を沈み込ませていた。

真っ当な存在を拒む森、魔法の森。


「いいねぇ」


これほどまでに人を傷つけることのない場所というものは、最高の立地だ。

妖怪の山という選択肢もあるかもしれないが、あそこは上下関係も幅広い。


「まずは家だな!……」


そう言葉にして、再度地に膝を付けた。

建築学とかしらねぇよ……


「あら、こんにちは」


「……え、あぁ、こんにちは……アリスさんでしたか」


「えぇと、聖くん、だったかしら」


声をかけられる、何かと突然声をかけられるのが多い日だ。

そこにいたのはアリス・マーガトロイド、人里で人形劇を時たま開催する魔法使いだ。

ふわふわと人形が宙に浮いており、人形の一体が俺の頭をポンポンと撫でる。


「人里のほうで異様な気配がしたから、様子を窺おうと思ったのだけど」


「あぁ、それ俺です」


「……え?」


魔法の森に住む魔法使い、関わるかはわからないが、言っておいた方がいいかもしれない。

……少し、怖いが。

自らのことを説明し、二年の猶予を得たことを説明する。

それを聞いたアリスさんの反応は、というと。

優しい笑みを浮かべただけだった、驚くとか恐怖とかはなかった。


「じゃあ家が必要なのね」


「え、えぇまぁ」


「手伝ってあげるわ、魔法の練習にもなるわね」


「……怖いとか、ないんですか?」


「魔法使いが怖がってちゃ、研究何てできないわよ」


……そういうものなのだろうか。

魔法使いというものはよくわからない、パチュリー師匠もいまだに良くわからないことだらけだ。


「……ようこそ、魔法の森へ」


「……はい、よろしくお願いします、アリスさん」


「アリスでいいわよ?私も聖と呼ばせてもらうし」


「……アリス、よろしく」


「えぇよろしくね、聖」







――そんな邂逅をして、一週間もたち、人形を総動員して造られた俺の家がある。

とりあえず理解したのは、アリスの魔法がヤベェってことだ。

数百もの人形から総攻撃を仕掛けられたら一瞬で灰になる自信がある。

――さて、落ち着いてきたし、紅魔館を遠目にでもみようか。

色々と聞いていたし、咲夜ちゃんも気になるし。

できたら、修行を再度付けてくれたらなぁという思いもあるが、うーん、暴走して紅魔館消滅させたくはない。


「さて「どこへいくのかしら?」え?あぁレミリアさんたちに会いに」


「それじゃあ、必要はないわね」


――えっ

振り向くとそこにはレミリアさんがいた。

日傘をさす咲夜ちゃんと共に、目の前に佇む彼女たちの姿に一瞬呆けるが。

すぐに我に返る。


「なんでここに?」


「言わなければわからないのかしら」


「えーっと会いに来てくれた?」


「咲夜が上の空なのよ「聖は大丈夫なのかなぁ、聖と会いたいなぁ」ってね」


「お、おおお嬢様!?」


「心配してくれてありがとうございます、ピンッピンしてますよ、あと無事でよかったです」


「は、はい、こちらこそありがとうございます」


「……男としてはちょっとぐらいドキドキしたらどうなのかしら」


「美女に囲まれるのが既に日常ですよ」


はぁ、とため息を付かれる。

いじりがいがないわねといった視線を向けられても困る、お遊び感覚でいじられても困るし。


「えぇっとすいません、現状は把握してると思うし、もう形振りかまえないんで、修行またつけさせてください」


「当然よ、紅魔館の一室も用意してあげたわよ」


「すいません家建てました」


「……そう、私の優しさを無碍にしたいのね」


「い、いえ、そういうわけではないのですが、アリスさんにも手伝ってもらっちゃったり……」


そういってレミリアさんをみる、……意地の悪い笑みだ。

畜生、おちょくられたのか、と理解してため息をつく。


「あら、もう弁明はないのかしら」


「紅茶に大量に俺の血液を入れてやりたい気分ですよ」


「そのときは本気でグングニるわよ」


「すいませんでした」


全力で謝る、一度グングニルぶっ放した瞬間をみたが、あの威力はありえない。

思い出して恐怖していると、レミリアさんは「本題だけど」とそういっていきなり話題の方向転換をした。


「紅魔館にはメイドしかいないわよね、というわけで執事になりなさい」


「は?」


「パチェがいってたのよ、『咲夜の本当においしい紅茶もいいけど、聖の不安定の上に紅茶の美味しさを完全に引き出せていない不完全な代物も恋しい』ってね」


「人をいじめるのがお好きなんですかあなたたち親友どうしは」


「まぁそれは置いておいて、もう間もなくメイド長の権限は全て咲夜に映るわ、美鈴は門番に全神経を注ぐつもりらしいし、そうなると咲夜の能力をもってしても、妖精メイドはあまり使えないし、そうなると美鈴と咲夜でやっていたことが全部咲夜の負担になるわけよ」


「……えぇっ大丈夫なんですか?」


「あーとてもきついなー」


なんで棒読みなんだ。

いやわかるけど。


「修行を受ける代わりに屋敷内を咲夜と共に管理しなさい」


「……はい」


こうして執事の職を手に入れた。

しかし今から二年後、大きな異変の真っただ中に突っ込むということは、彼は知らなかったのだ。



次回、霧雨魔理沙の決意。

次回から魔理沙の言葉づかいが原作遵守になります。

妄想がここまで続くことに驚きを隠せない。

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