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異変

八雲紫が神出鬼没で人情にかけ、行動原理が人間と異なるとか。

胡散臭いとかいってるけど、色々と漫画をみていると、大体腹の中に何か抱えてるとかとらえどころのないやつらが幻想郷の住人ですよね。

って思いました。

藤原妹紅は不死である。

その能力は死への恐怖を虚無へと返し、人の世界から精神を逸脱させる。

されど、その能力をもってしても、目の前の異形は彼女の忘れていた恐怖という感情を思い出させる。

しかし、怖がっていては話にはならない。

しかし、怖がってはいけない。


「……違うだろ……」


振るえる声で、怒りと嘆き、そして渇望を入り混じる声で、彼女はその存在へと声をかける。

異形は人ならざる声を上げる、黒く変貌した肌と、龍のような鱗、悪魔のような羽と天使のような翼、色々な物を引っ提げている。


「……貴方は、こんなことをするために、がんばってきたんじゃないでしょう!」


妹紅はそういってちらりと視界の端にある抉られた大地をみる。

巨大な筒状が通ったかのようにえぐられたそれは、土埃すら起こらず、そこにあったものが元々なかったかのようだった。

威力の高いとか、そういうレベルではない一撃、自分もくらえばただで済むとは思えなかった。

しかし引けない、それを引き起こした原因が、彼女の弟ともいうべき存在だから。


「……聖……!」


『アァァァ……!』


異形と化した聖の口から漏れ出す音が、何故か嘆きのように聞こえる。

――妹紅は拳を強く握り締め、炎を纏い突撃する――






「……霊夢」


「何よ、母さん」


正座をして、対面に母がすわっている。

呼び出された霊夢は、何か用なのかと少し怪訝な表情を浮かべながらも、静かに母にならって正座をした。


「異変が起こる」


「異変……そういえば昔解決したことがあるといっていた……」


「そうだ、吸血鬼異変とでも呼ぼうか」


吸血鬼、異変。

その名を心の中で復唱した時、思い出すのは紅い紅い館の主。


「……あの吸血鬼が何かやったの?」


「違う、中心的存在はレミリアではない、レミリアの父に当たる人物だ」


「……父?」


そういえば、あの館はレミリア……だったわね、が当主、両親はいなかった。

何故今頃になって父親が現れるのか。


「外の世界では生きられなくなったから、かしら」


「異変について、なぜ起こるのか、ということを考えると半分正解だ。何故幻想郷に来たのかはそれで正解だ、何故ここで異変を起こすのか、その答えは自尊心を満たすためだろう」


その言葉で、霊夢の中でピースが瞬く間に当てはまっていく。

そしてそのパズルが出来上がった瞬間に、呆れたようにため息をついた。


「自尊心を満たすために、吸血鬼御得意の誇りとやらを忘れてちゃ意味ないわよ、それで?私の見る限り、アイツらがそう簡単に言いなりになるような奴らには思えないんだけど?」


「……強いものを従えるのは、なにもより強い力を示すだけではない」


「……は?」


「……弱いものを人質にとるだけで、遂行される」


そう言われた瞬間に思い出すのは、紅魔館の中で働く小さな女の子、といっても自分と同じくらいだろうが。

聖が『時を操る能力』とやらを開花させて本格的に魔の境地になってしまったと嘆いていた。

しかし、時を操る能力は未だ不完全な代物だ。


「……誇りとかそういう話じゃないわね、それ……ただのゲス野郎じゃないの」


理解した瞬間に、冷静である霊夢の心の中で水面に落ちた絵の具のように不快感が広がっていくのを感じた。


「そして次の本題だ、私はこの異変が終わったら引退する、あとは霊夢、お前に任せる」


「は?」


「そして異変終了後に霊夢に一つ仕事が来るだろう、――それは後で紫が話をするらしい」


紫――八雲紫、妖怪の賢者か。

いったい何の仕事をするのだろうか、博麗の巫女となった瞬間によくわからないことになりそうだ。

母の様子を見る限り、死ぬわけではなさそうだし、そこまで恐怖や焦りを感じることもなく、頷いた。


「さて、いこうか」


「聖のところに?」


「いや、人里の代表だ、まぁ慧音も呼ぶことになるだろう」






人里の中で聖は両手でスコップをもって、雪かきをする。

気といった力で強化するのも忘れない、いい修行になる。

最近どこにいくということもない、紅魔館にはレミリアさんが神妙な面持ちで『明日からは来ないほうがいいわ』といってきた。

意味が分からなかったが、師匠たちの主であり、修行の許可の大本であるレミリアさんが不許可といったのだ、そこでズケズケと入るのは今までの恩を仇で返すようなものだ。

なので、自宅や博麗神社などで修行し、人里でよく遊べるようになった。


「……しかし、なんでかなぁ」


最終的には掃除や妖精メイドの統率などをやらされ、もはや俺は弟子じゃなくて配下かと思ったものだが。

まぁ、弟子になるために代償だと思えばそれで終わりなのだが。

紅茶の入れ方から掃除方法、妖精メイドの個性をみて、命令を下すことまで慣れてしまった。

すでに修行が始まり、九つの歳になるまで続いている。

もうすぐ誕生日なので十歳になるまで、だろうか。


「聖」


「……あ、師匠……と霊夢姉さん、こんにちは」


「あぁ、こんにちは」


「ええ」


声をかけられて振り向く、幾度となく聞いた声なので姿を見ずともわかる。

振り向くと横には霊夢姉さんもいた。


「慧音は今暇か?」


「暇ではないですけど、おそらく時間はつくれると思いますよ?」


「なら代表のところに呼んできてくれ」


「代表……何かあったんですかね?」


「それは集まったら話そう」


そういって師匠は先に代表の住む家へと向かう。

二人へと手を振ると、二人とも手を上げる程度は返してくれた。


「さて、いくか」


そう思い、自宅へと向かおうとしたとき、前方に金髪の女性がみえる。

九本の尾をもった狐のような出で立ち――八雲藍さんだ。


「こんにちはー」


「こんにちは」


挨拶を返すと、挨拶を返してくれる。人里ではほんのたまに見られる人だ。

この人はあまり得意ではない、何故か同情するような、罪悪感をもっているような、そんな視線をこちらへと向けてくる。


「どうかしたのか?」


「あぁ、博麗の巫女様に母を呼んでくるように頼まれまして」


「あぁ……聖くん」


「はい?」


「……もうすぐ危ないことが起こる、何があっても自分の身を第一に考えるんだ」


「……?はい、えっと、ありがとうございます、すいません急いでるんで失礼します」


突然の忠告に疑問符を浮かべるが素直に礼をする。

そして足早にその場をさる、背後に視線を感じるのだが、何かあるのだろうか。

走り続けるとすぐに自宅に到着する。


「母さん、師匠が代表の家にこいってさ!」


「うん?あぁわかった」


慧音母さんはすぐに玄関へと向かってくる。

そしてそのまま靴を履いて、代表の家へと向かう。





到着すると、すぐさま居間に通され、そこには師匠と霊夢姉さん、そして初老の男性がすわっていた。


「おぉ慧音先生、ご足労かけました」


「いや、博麗の巫女様がこられたとあっては人里に何かがあるということです、此処に住まうものとして何かあるというのなら何があっても来るのが当然のことですよ」


「……堅苦しい挨拶は抜きだ」


「貴方はもう少し堅苦しくなってもいいと思うのだが」


「嫌だ」


「……はぁ」


慧音母さんの言葉を一太刀で斬るその言動は変わらない。

そして師匠は現状を説明していく。

異変が起こること、咲夜ちゃんが人質なこと。


「……」


「聖、お前がいっても無駄だ、抵抗はできても倒せはしまい」


「……だけど」


「聖」


立ち上がりかける前に止められる。

わかってはいる、中級の妖怪と戦える程度の男だ、吸血鬼なんぞ抵抗できても死ぬのがオチ。


「心配するな、紫がすでに紅魔館勢と連絡をとっている」


後は、私と紫勢が暴れまわるだけだ。

そういって笑みを浮かべる、ドSな笑顔だ。

師匠がそんな笑みを浮かべていると、確実に相手は死ぬよりも辛いことになって死ぬ、ということは知っている。

いや知っていることを知っているからこそあの笑みを作ったのだろう。

そういった後に、師匠は去って行った。


「霊夢姉さんは帰らないの?」


「母さんがいなくて暇になるのよ」


「そうなのか……あぁーなんていうか、もーあれだー!もどかしいというか、あぁ畜生……」


「力になれなくて嫌、とでもいうつもりなのかしら」


「いや、うん、まぁーそうなんだけど……」


「まだ子供なのよ」


「そうなんだよな……まだ修行歴も長くない、玄人でもない、でも俺は護るために強くなるって決めたんだよな、俺も周りも……」


頭をガリガリとかきながら心の中でぐるぐると言葉にできないものが回り続けるのを感じる。

言葉にできないのがもどかしかったのだが、霊夢姉さんの言葉がこの感情に簡単な言葉をつけてくれた。

『悔しい』のだ。


「子供だから未来があるのよ、今は大人に任せればいい、今は未来の責任を持ち上げられるほどに力をつけていけばいい」


って、母さんが言ってたわ、そう言い放つ霊夢姉さんをみる。

少し顔が納得いっていないようなのですが、とは口には出さないことにしておこう。


「そうだぞ、聖、お前が将来護るという信念を達成できるほどに強くなることを期待してるからな」


「母さん……」





――しかし、この吸血鬼異変が終了するとき。

上白沢聖の姿は人里にはなかった。

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