メッキと、
どういうことなんだ、一体。
王子様はくるしいくるしい胸のうち。思いました。
かよくほほえむ彼女に惹かれ、彼女をじゃけんに扱う家族から引きはなし、私のもとへと連れて来たといのに。
どういうことだ、これは。
かこを思い、また王子様はくるしいくるしい胸のうち、思いました。
彼女は何も変わってはいない。変わらない。
それが、どういうことなのか。
私にほほえみ、私のきゅうこんにこたえくれた彼女なら、分かることではなかったのか?
いずれ王妃として並び立つはずの彼女が、なぜ変わらないのか?
かよわくほほえみ、何もせず、学ぼうともしない。
この国の王妃になると思っているのなら、学ぶことがどれだけ大切なことなのか、分からないはずがないだろうに。
何をしているのだ、彼女は。
父と、ぎ会のひはんをおし通して、彼女を皇太子妃とすえたのに。これは、一体。
どういうことなのか。
王子様は何も変わらない、変わろうとしない彼女にたいしてその時初めてふしん感をいだきました。
それは、王子様が彼女。姉と出会ってから半年はゆうに過ぎたある日の事でした。
なやみくるしんでいた王子に、ふとよみがえったのは、彼女と引きはなした彼女の家族。
思い立ち、王子は彼女には何もつげる事なく、彼女の生まれ育った家に馬を走らせます。
王子が馬を走らせ、彼女の生まれ育った家にたどり着くと、ちょうど家の外に一人の女性がおりました。
それは、彼女の妹でした。
たずねた先に見たその顔は、あの頃のかげのあるどこかゆがんだ顔とは違い、幸せそうにほほえんでいました。
王子が声を掛ければ、そのほほえみはかきけされてしまいましたが。
なにか用かと王子はたずねられ、王子が彼女の事をたずねてみれば、妹は笑います。
王子はとつぜんの笑いにおどいていると、妹は口に手をあてて失礼とあやまりますが、手をはずされてあらわれたその口はほほえみを形づくられたままでした。
見かねて王子はまゆを寄せますが、妹は気にした風でもありません。
なにぶん田舎なもので、こうきな方とのお話はなれておりません。
聞き苦しくても、ごかんべんをと、妹に先につげられて王子はうなづきました。
すると妹は、王子があの時何を言ったか覚えているかと聞いてきます。
王子は覚えているとうなづけば、妹もうなづいて口を開きました。
あなたはこういいました。まるで私達は悪者だと。悪魔のようだと。
…………。
妹の言葉に、王子はだまり込みます。
心当たりも何も、じじつ王子が言った言葉でしたから。
けれどじっさい、いまここをたずねてきているあなたにはもうお分かりのようですね。
はたしてどちらが悪魔のようだったかなんて。
私達は今幸せですよ。もちろん、あの人の事は私達もきらいではありませんでした。好きでもなかったのですが、そこは家族です。いろいろあります。
それでも、それでもたえられなかったのです。
もうだめだとすら思いました。あの時は……。
そんな時、あなたがやって来て、あの人を連れて行ってくれました。
なんて素敵なことかと私達家族は思いました。悪者よばわりの、悪魔よばわりでも、私達には幸せがおとずれたのです。
かんしゃしているのです。本当に。
聞いたところ、貴方はまわりの方々の反対をおし切って、あの人をつまにむかえたのですよね。
ありがとうございます。かんしゃしてもしきれません。
あの人といっしょに暮らして、はたして幸せになれるのかは分かりませんが、どうぞ、お幸せに。
いのっております。殿下の幸せを。
あぁ、もちろんここに返されてもめいわくですし、返品は受け付けません。
まぁ、一国の皇太子妃様がこんな田舎にはもう、ご縁もゆかりもあろうはずもないのですが。
まさか、殿下もそんな事はできようはずもないでしょうけれど。ご周囲の目もおありでしょうから。
それでは、失礼させていただきます。
ながながと、思いのたけを語り、妹はそれはそれはきれいな、目をうばわれるようなおじぎをして家へと入っていきました。
家からはなれ、王子が遠めに見たかちくの世話、せんたく、母と並んで料理作りにはげむ妹はかがやいて、幸せそうにほほえんでいました。
彼女の父や、母もそれはそれは幸せそうにほほえんでいました。
王子があの時見たかげは、かけらたりとも見かけられずに、幸せそうに、ほほんでいました。
あぁ、なんと言うことだ。
王子は気付きました。
私がのぞんだこととはいえ、私がのぞんだのは悪魔だったのか。
王子があの時えがいた幸せは、今ここにはとうになく。
幸せとは真逆の思いが王子の胸にはやどりました。