↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

欲望の追悼(レジスタ!感想)

作者: 相浦アキラ
掲載日:2026/10/29

 レジ店員の女子高生とおっさんの恋愛を描いた「レジスタ!」というマンガが「男の願望が露骨すぎて気持ち悪い」「真に受けた男が女性店員に言い寄ったらどうする」とプチ炎上しているようです。気になって軽く読んでみたのですが、まあ確かにあまりいい作品ではないなという感想です。実際に年配の男性が女性店員に一方的に好意を募らせ迷惑をかけたりストーカーになったりといった事例が社会問題になっているようですし、このような作品は自己愛が強い男性に「俺も行けるかもしれない」という下手な希望を与えてしまいかねません。


 それもエロ漫画とかなろう作品のように開き直って欲望を全肯定しているならまだ清々しくもあるのですが、この作品は巧妙に欲望をオブラートに包んで醜悪さを隠そうとしてくるので余計に嫌な感じがします。例えばおっさん主人公が女性店員が女子高生だとは知らずに惹かれたという設定とか、おっさん主人公の受け身な感じとかで「俺は客観視ちゃんとできてますよ」ムーブをして、おっさんが女子高生店員に欲情する醜悪さを隠そうとしてくるのですが、本当は大人びた頑張り屋の黒髪清楚巨乳女子高生と付き合いたい、あわよくば結婚したいおっさん向けに作ってるのがバレバレなのです。じゃなければ女性店員を女子高生にする必要はなかったでしょう。中途半端な客観視をやって「あなたはエロじゃないですよ、あなたはロリコンじゃないですよ」とベタベタオブラートを貼って醜悪な欲望を肯定してしまうから余計にタチが悪いのです。こういう作品を規制すべきか否かはまた別の話にしても、有害か無害かでいえば社会的に有害と言わざるを得ないと思います。


 しかしこの作品がツイッターなんかで「おっさんが女性店員に恋するなんて100%害悪なんだから、そんな有害な感情は徹底して排除しろ!」みたいな叩き方をされているのを見て、それはそれでなんだかなあ、という気分にもなりました。確かに女性店員へのおっさんの恋心は社会的に有害と断じていいでしょう。しかし彼にとっては、その恋心だけがこの世界の全てかもしれないのです。辛酸のような孤独な生涯の中で、唯一見つけることができた生きる実感、希望の光だったかもしれないのです。彼に芽生えた恋心を否定するという事は、彼そのものを否定する事にもなりかねません。世界から否定されれば否定される程、彼は自己を守るために頑なになってしまうという事も考えられます。


 だからといって「おっさんが可愛そうだから女性店員に我慢しろ」とは決して思いません。やはりおっさんが女性店員にアタックするのは迷惑だし害悪なのでやめた方がいいという考えに変わりはありません。ただ、例え社会的に害悪な感情であっても、メタ認知を経た後だったら全否定せず供養してやる事くらいは許されるのではないかと思うのです。誰にだって醜かったり害悪だったりで生きていくために排斥しなければならない感情というものはあるでしょう。しかしそんな余計な感情であっても、確かにそこにあった事は確かなのです。だから全否定せず根本にある真っすぐさ、清々しさ、純粋さに関してだけは認めてやる。そうやって感情を追悼してやる視点もあってはいいのではないかと思うのです。


 その点で良かったのが神聖かまってちゃんというバンドの「ちりとり」という曲です。掃除当番で一緒になった女子への恋心を歌った曲なのですが、純朴な少年の想いは暴走してついには「あなたは僕の心までちりとっちゃったのです」などと意味不明な事を口走ってしまいます。こんな事を実際に口走ってしまえば「意味わかんないしキモい」とドン引きされるのは明白ですし、歌っている本人も訳が分からない事を言っている自覚は感じられます。「ちりとっちゃったのです」の部分は少年の心象風景で本当に言った訳ではないのでしょう。少年の想いはただただ歌の中を駆けていきます。その想いはよくあるラブソングのようにカッコいいものではなく、不格好で不器用で気持ち悪くもあるのですが、しかしどこまでも真っすぐで偽りなく純真でもあるのです。効率よく生きるために押し殺してきただけで、そういう真っすぐな想いは私たちにもあったのかもしれません。神聖かまってちゃんはそういった想いを不格好なまま救ってくれているのかもしれません。


 小説でいうと坂口安吾の「紫大納言」という短編小説なんかも良かったですね。太っちょでスケベでキザなおっさんの紫大納言が笛を拾い、持ち主の月の使者である美女に返してくれと懇願されるのですが「返してほしかったら5日だけ話そうよ」なんてセクハラかつパワハラをかますのです。怒りながらも渋々5日耐える事にした使者。しかし紫大納言が盗賊に笛を盗まれたことを知って悲嘆にくれます。彼女の悲しみに打ちのめされた紫大納言は笛を取り返そうと必死になって破滅していく……という幻想的小説です。この作品に限らず坂口安吾作品は欲望から一歩引いた目線を取りながらも全否定はせず、欲望が内在する悲しみやひたむきさを美へと昇華する優れた作品を多く書いています。古文っぽくてちょっと難読ですが青空文庫に上がってるのでよかったら読んでみてください。


 さて、まとめに入ります。現代のコンテンツというのは「希望を持って一生懸命頑張ればきっと良くなる」みたいな一見明るい作品が多く、ついには女子高生店員との恋愛を正当化するような作品まで出てきてしまいましたが、しかし当然ながら女子高生店員への恋心なんてのは基本害悪です。女子高生に限らず希望を持っていくら頑張った所でどうにもならない事もいくらでもあります。こういった現実とフィクションの乖離は「もう現実がクソすぎるからフィクションに溺れるわ」というニヒリズムや「よーし俺も希望をもって女子高生にアタックしちゃうぞー」なんて害悪行為に繋がりかねません。日本も世界も全体が落ち目で椅子取りゲームの椅子がどんどん減っている昨今ならなおさらです。こういう時代だからこそ欲望を全肯定するでも全否定するでも冷笑するでもなく、欲望をメタ認知しつつ根底だけは認めて追悼してやるような視点の作品が増えて欲しい……そういう風に私は思うのです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。