↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第一章 期待と疑念、それが紡ぐもの
PR
9/20

第9話 寄り添い

第一隊での指導の後、岩崎は一人、道場で素振りの稽古をしていた。




「本当に努力家だね」


振り返ると、第一隊にいた先輩だろう。


見覚えのある顔が岩崎のことをじっと見ていた。


その後ろには、確か……高岡さんだったかな。


数人の先輩たちが防具をつけている。




無精髭に少し猫背の優しげな目。


先ほど言葉を発した男が岩崎のところまで歩いてくる。




「筋はいいが、もう少し脇をしめてはいかがかな?」


「ありがとうございます」




男が岩崎の腕や手首をもち、構え方を修正する。


竹刀ダコなのか、ごつごつとした手が岩崎の手に触れた。




(この人も努力をおこたらない)




袖から見える筋肉や、盛り上がった肩を見て、岩崎はこの男に少なからず好感を覚えた。




「私は重田と申す。


 第一隊に所属している。


 先ほど会ったが、名を覚えているかな?」




正直、岩崎は名前を覚えるのが苦手だった。


そんな岩崎の考えを読んだかのように「まあ、いきなり全ての人間を覚えるのは無理というものだな」と、重田は気さくに笑って見せた。




「重田さんは、よく竹刀を振りにここへ来られるのですか?」


岩崎はもう少しこの男と話がしたくなり、とくに意味もなく質問をなげかけた。




「あぁ。たいていの隊士は、暇ができてはここで腕を磨く」




高岡たちは、別のところで稽古を始めた。


高岡とともにいる者は、どうやら第一隊の隊士ではないようだ。




「隊長たちは、あまりここでは見かけないがな」


重田の言葉に、岩崎は思わず顔を上げる。




「強いから、努力の必要はないと?」


「そうではないだろう。


 職務に忙殺されている。


 今も京都から警察隊が来ているため、彼らとの話し合いや、情報共有、上への報告書類の作成が必要なのだろう」




「そうですか……」




(相良や一ノ瀬は、現場にはあまり出向かないのかもしれない)




自分には、二人と会う機会があまりないのだろうかと、岩崎は肩を落とした。




「しかし、現場へ出て、隊士の働きを見なければ、誰が優秀であり、誰が努力をしているかは伝わらないものだがな」


重田の言葉に岩崎は「確かに」と納得した。




「ここへ足を運ぶのも、努力する者を見極める良い機会になる」




「重田さんは、そういう意味もこめて、ここへ来るのですか?」




岩崎の期待のこもった視線に気づき、重田は困った顔をして見せた。


「まあ、それもある。


 誰がどの程度の剣の腕があるかを知ることができるしな。


 しかし、私は一介の隊士だ。特にそれを知ったところで権限があるわけでもない」




(ではやはり、隊長自ら足を運ばなければ、隊士たちのことを知る機会がないということではないか)




これだけの人数がいるのだ。


相良などは、いちいち隊士の顔も覚えていないだろう。




「焦らなくていい」


岩崎の握りしめた拳を見て、重田はそっと語りかける。


「努力を怠らなければ、いずれ機会は訪れる」




岩崎は重田を見た。


この人も自分と同じ気持ちなのかもしれないと思った。




「まあ、ある程度は、隊長に気に入られることも大事だがな」


冗談か本気か、重田のその軽い言葉に、岩崎はひそかに近衛清雅の顔を思い浮かべる。


(気に入られるって、なんだよ!)


竹刀を強く握ると、頭に浮かんだ言葉を打ち消すように、力強く素振りに没頭した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。