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2 サマータイムブルース

「あの家ってスライムの住処なのかよ。魔物が石造りのでっかい新築の家って立派過ぎねえか。御昇天寸前の重病人に冗談は通じねえぞ、このクソッタレー!」

 怒りはもっともだが、このまま迷わず突き進むりのがセオリーってもんだ。

「気に入っていただけましたでしょうか。あっ、申し遅れました、わたくしは黄麒麟様より貴方様の御世話係を仰せ使っておりますメイド権守護神のエポナ・カンタービレと申します。よろしくお願いね」

 さっきまでヘベレケに酔っていたのに、すっかり素面のエポナさんに続き、挨拶をするのは緑の空飛ぶ生物。

「あたしはあんたの教育係。ソロキャンプ・ピクニックだよ。みんなからはティンクって呼ばれてるんだ。そんでもって、これからここが君の活動拠点だよ。【瓦煉の森】って言うんだけど、君の森だから固定資産税とか住民税とか消費税もいらないし、所得税や自動車税……それにしても税金多すぎるよね。とにかくー、税金は払わなくていいよ。あとー、君の正式名はガレン・ノモリ・モッテマンネンだよ。分かり易いでしょ」

「まんまじゃねえかよ」

 そんな所より、勝手に自分の名前を付けられた事を怒るべきだろうが、いかに怪しげな物でも森と名のつく不動産を無償で頂けるとなったらあまり強く出られないのが人間の性である。

 つい数行前に名付けられたガレンもその例外ではない。

 しかしながら、少しばかり気がかりが無いわけでもない。

「名前が急に変わったらよ、病院で困るんじゃねえか」

 まだ完全に異世界に馴染めていない様子のガレン。

「それとな、お前の愛称が名前と掛離れてるんだけど、嘘ついてないか。それに、君の森とか言ってくれてるけど、あいつら何。水場のベンチを不法占拠してる連中よ。心置きなくくつろいでるよね。俺的にはこの森に住み込むつもりないからどうでもいいけど、埋葬するならどこか手頃な無縁墓地にしてくんねえかな」

「あたしの本名はヘヤキャン・インドア。みんなからはマユタンって呼ばれてるけど、ティンクともよばれてるんだよ。嘘ついてないよ」

 著作権とか肖像権とかはひとまず遠くの星に置きっぱなしにしても、こっちの方が嘘っぽいと感じるのは私だけではないだろう。

「それも嘘だよな。もう聞かないからいいよ」

「あー、お墓の事ね。ご心配なくー、君はあっちで死んじゃったって言ったでしょ。心配しなくたって非営利の無縁墓地に入ったよ。暑い夏がまたやって来るー」

「非営利って何。俺が入ってたの県立病院だったよね。市内にあったよね」

「君が生前に何処でも良いって言ってたから、海の見える所と山と一体になれる所を選んだよ。気を使ったんだよ。違法じゃないし」

「よう、それってひょっとしてもしなくてもサマータイムブルースになってないか。波がキラキラ輝く海とか爽やかな風吹く山頂に散骨したって話だろ」

「そうとってもらっても差し支えないよ。あたしがやったんじゃないからね。勘違いしないでよ」

「話が嚙み合ってないべ。それにエポナさんの言う黄麒麟様って何者よ。会った事ないんだけど。俺が聞いてるのはー! ここに住む気ないけどー、どうすんだよっての」

「その件だったら解決済みー。君はここから出られないよー」

「その件てどの件だよ。何も解決してねえだろ。妖精がいきなり悪魔に見えてきたな。何でそうなるんだよ。あいつらと共生しろってか。魔物だよ。俺は人間だよ。絶対に無理」

「わがままだなー、無理も何も君って、まだ生後十五分の新生児だよ。どうやって生きてく気なの」

 ここで少しばかりだが信じたくない自分の置かれている状況に気付き始めてきたガレン。

「いやいや、さっき死んだって言ったろ。それがどう捻くれたら新生児になるんだよ。変な宗教の勧誘か。俺もよくよく正気を失ってきてるけどな、そういうのを正気の沙汰じゃないって言うんだよ」

 どこから引っ張り出したのか、二本目は高清水の一升瓶を開けるエポナさん。

「違いましてよー、あちらではお亡くなりになりましたが、こちで御生まれいたしましたの。輪廻ではございませんのよ。転生でもありませんし、召喚でもありませんよって、何度言ったら分かってくれんのかなー」

 一杯で出来上がった般若顔。

 二本目は効きが速い。

「分かる訳ねえだろ! どういった理屈で俺は飛び虫ティンクやスライムと一緒になって森の中で零歳の誕生パーティーを祝ってんだよ」

 エポナとガレンが話しているうちに、水場にいたスライムがズルダラピョコタカピョンピョン廻りに集まってきていた。

「まあまあ、先は長いんだから、おいおい諸事情については説明してあげるから、今日のところは家に入ってゆっくりお休みしてちょ。あたし達は、これから庭先で君の誕生パーティーだから、忙しいんだよーん」

「よーんじゃねえよ、主役抜きで宴会するのかよ。俺だって腹減ってんだよ。俺にも食わせろよ」

「ありゃりゃ、君の分は準備してないよ。まだ離乳前だよー。お酒とかバーベキューとか無理でしょ」

「せめて焼酎のミルク割り飲ませろ。バーベキューがダメなら馬刺し食わせろ」

 ティンクが腕組みして呆れ顔。

 頭を縦横斜45度にしながらじっくりガレンを眺める。

「今の俺ってそんなに不細工なのか。たしかに新生児はエテ公と見分けがつかなかったりするけどよ、そこまで嫌な顔する事ないだろ」

 ガレンはどうしても状況整理ができないようだ。

「シェルティーさんもどうしてこんなイカレポンチキを選んだのかなー。世話するのはこの子達だからいいけどー、ちょっと待っててよ」

 ティンクがオデコに人差し指をあてて、モゴモゴゴチャゴチャやり始めた。

「分かったー、待ってるねー……一瞬だけ待っててよ、直ぐにシェルティーさんがここに来るからー」

「シェルティーって誰。わずか数行の間に知らない関係者が二人に増えてるんだけど」

 ガレンがボヤキ終わったら、まさに一瞬の出来事。

 森の樹木を薙ぎ倒し、金色の眩しいドラゴンが出現した。

 そのまた次の瞬間、小さくなって事務服を来た女に変身すると、ガレン目掛けて走ってくる。

「あのドラゴンが変身したってのは薄々分かるけんだけど、森の木を薙ぎ倒す必要ねえよな。俺の森なんだろ。俺の樹倒すなよ」

「はい、これは当座の資金。好きに使っちゃって良いわよ」

 手に持った子袋をガレンの前に置く。

「こんな所で金がいるのかよ。辺りの様子を見れば完全自給自足のサバイバルライフじゃねえか。それとも何かい、この金でスライムに給料でも払えってか」

「この子達のお給料はこちらで出してるから気にしないでいいわよ」

 こう言い終えたシェルティーは家の中に入って出てこない。

「払ってるのかよ……」


 待つ事一時間。

 スライム達の凄まじい働きぶりで家の前にバーベキューの支度が終わり、見慣れた酒瓶がズラリズラズラ並べられていく。

「見せるだけかよ。腹減ってんだよ」

 ガレンの言い分はもっともである。

 R指定の乳幼児虐待場面と言ったら信じる人もいるに違いない。

「お待たせ、今日は誕生日だから特別ね。大人になるまで一年に一度は特別日にしてあける。ただし、訓練はしっかりやってもらうわよ」

 ティンクがイヤらしい笑みを浮かべている。

「訓練、聞きたくない言葉だな。悪い予感しかしないもんな」

「はーい、大きく大きく大きくなーれー、大きくなって物語は十五年を一日体験」

 とても呪文とは思えない。

 いい加減を文字の羅列に変換したような言葉の後に、ガレンの何がムクムク大きくなってきた。

 ちよっと遅れて体も大きくなる。

 見た目はスケベである。

 それ以外の出来事もスケベである。

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