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短編

そばがらとパイプどっちがいい? それとも羽根?

作者: 麻生あきら
掲載日:2026/03/12

 その時、男は苦悩していた。

 男の名は、斉川淳。

 スリーピースバンド『エカルラート』のギター兼ヴォーカル。


 近頃レコーディングで悩める日々を送っていた。

 彼は神経性の胃炎に襲われていたのだ。


 一見能天気そうな男だが、実は繊細で神経質である。

 そう、神経質すぎて薬を飲むにあたって、どうしても越えられない壁があるのだ。


 淳は散剤(粉薬)の薬が飲めない。

 オブラートなどで包めばなおさらだ。

 カプセルに詰め替えるとなったら、支える土台から用意しようとする程に神経質。

 しかもカプセルは胃で溶けるものと、腸で溶けるものがある。

 悩ましすぎて、ますます胃が痛い。


 だというのに、ああだこうだと友人が勧めるものは、どれもすべて散剤。



「ああ、どうしたらいいんだ」

 淳は苦悶する。


「しかし何故、うちのメンバーでもない君達がここにいるのかね?」

 淳の横には二人の派手な男。特に髪の色、どちらも金髪。

 ここはレコーディングスタジオからほど近い、ドラッグストア。

 ずらりと並ぶ胃薬の前。


「ヒマだから」

 ツアーを終えてオフに入った能代秀之が言う。

 ゴシック系バンド『ルアード』のギタリスト。淳の幼馴染。


「俺も。お前が遊びに来いって言ったんだろう?」

 たまにはいいかな、などど言葉を添える橘晴臣。

『人工楽園』ヴォーカリスト。通称『インディーズ界の相談役』。



『観音崎の海辺のホテルにスタジオがあってな。そこでレコーディングすんのよ。水着のねーちゃんはいないけど、静かでのんびり出来ていいぞー』

 ⋯⋯と言ったのは確かに淳だった。

 季節はすでに秋。海水浴客はもういない。




「なあ、なんでおまえ、粉薬飲めねえの? 子供じゃあるまいし」

「べっ、別に飲めないというんじゃないぞ。苦手なのだ」


 秀之からの鋭い指摘。

 逃げ腰の淳。


「なんでっ?」

「錠剤の方が飲みやすいだろ? 味もそんなにしないし」


 淳は口の中でいつまでも消えない生薬の匂いが苦手だ。


「そんなに言うなら、さっさと錠剤の薬買えよ」

「う。そうなんだが」


 言葉に詰まる淳に苛立ち、両手で胸ぐらを掴もうと秀之は手を上げる。

 秀之は淳に対しては大変に暴れん坊さんだ。

 即座に晴臣が秀之の両手首を掴み、引き止める。


「今度は何だっ!」

「持ち運びが面倒。かさばるし。俺、財布とタバコしか持ちたくないんだわ」


 両手フリーが基本の淳。

 どうしようもない時はハーレーのサドルバッグにポイだ。

 だが、下手をすると入れたら最後、忘れる。


「あー、それならあれ、なんだっけ。ピ、ピ」

 秀之が中空を睨む。



「ピロケース」

「ピルケース」



「ん?」違和感を覚える秀之。

「ピロケース?」小首を傾げる淳。


「あっ、違う! ピルケースだ!!」

 秀之は晴臣の手を振り払い頭を抱えた。


「うわあ、馬鹿なやつ。枕に胃薬入れるの想像しちゃったよ」

「⋯⋯枕いっぱいの胃薬」


 あー! はずかしー! ぎゃー!

 呆れる淳と晴臣の後ろで秀之が悶絶している。



 ドラッグストアの店員が薬剤師と一緒に棚の向こうから窺い見る。

「ねえ、静かにして⋯⋯」

 ガラの悪い馬鹿な男達に小声で呟く。




 淳は薬剤師の指導の下、散剤のH2ブロッカー胃腸薬を買った。

 もともと愛用していた錠剤の胃腸薬も一緒に。

 ホテルのベッドサイドには二種類の胃薬が仲良く並べられた。 


挿絵(By みてみん)

飲む時はちゃんと用法用量を守りましょう。


元は受取先で埃を被っているか、灰になっているかのもの。

未発表で可哀想なので。

くだらない話ですが。

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