表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第四話 桜を凍らせる怪獣 ― アイスゴン襲来 ―

春は、やさしい季節だ。


冬の冷たさがまだ少し残りながらも、

やがて訪れる夏の気配を含んだ、

柔らかな温もりが世界を包む。


その象徴が――桜だった。


満開の桜がトンネルのように続く公園。

その名もサクラ・ヒルズ。


淡いピンク色の花びらが風に舞い、

訪れた人々は弁当を広げ、笑顔で春を楽しんでいる。


子どもたちが走り回り、

カメラのシャッター音が響き、

遠くでは誰かがギターを弾いていた。


まさに春爛漫。


その桜並木の下で、

一人の青年が弁当箱を大きく広げていた。


青いパンツ。

青いマフラー。

頭にはトナカイカチューシャ。


パンイチ・ヒーローのひとり――セイヤである。


「ダディ!見ろよこの弁当!」


セイヤは嬉しそうに箸を振る。


「唐揚げ!卵焼き!タコさんウインナー!そして桜餅!」


目を輝かせながら叫ぶ。


「最高だ!この暖かさと、この景色!

俺たちの戦いは秋で終わりかと思ったぜ!」


大きく伸びをする。


「春の温もりは、最強の温もりだ!」


その隣で、静かに空を見上げている男がいた。


赤いパンツ。

赤いマフラー。

そしてサンタ帽。


セイヤの相棒――ダディだ。


ダディは桜の花びらが舞う空を見ながら、

小さく息を吐いた。


「セイヤ」


落ち着いた声で言う。


「春の温もりは脆い」


「え?」


「冬の寒さの名残と、夏の熱の予兆がせめぎ合う」


風が吹く。


花びらが流れる。


「つまり――」


ダディの目が細くなる。


「最も不安定な季節だ」


セイヤが首をかしげる。


「どういう意味だ?」


その時だった。


ズオオオォォン!


地面が揺れた。


池の方角から、

巨大な振動が公園全体に広がる。


次の瞬間。


空気が、凍った。


春の温もりが一瞬で消える。


桜の花びらが空中で止まり――


パキン。


氷の粒になって地面へ落ちた。


「……え?」


セイヤが固まる。


花びらはもう舞っていない。


地面に散らばっているのは、

氷の結晶だった。


ゴゴゴゴゴ……


池の水面が凍り始める。


水鳥が慌てて飛び立つ。


そして――


巨大な影が現れた。


全身が鋭利な氷の結晶で覆われた怪物。


四足の巨体。

背中には氷山のような棘。


その口から白い冷気が漏れている。


氷結怪獣――


アイスゴン。


「ガアアアァァ!」


怪獣は咆哮した。


その声と同時に、猛烈な冷気が吐き出される。


ゴオォォォ!


冷気は桜並木を襲う。


ピンクの花が一瞬で白く凍りつく。


枝は氷の柱となり、

春の景色は無機質な冬景色へ変わっていく。


人々が悲鳴を上げた。


「怪獣だ!」


「逃げろ!」


花見客たちは慌てて公園の出口へ走り出す。


セイヤの拳が震えた。


「ふざけやがって!」


弁当箱を閉じ、立ち上がる。


「この春の温もりを奪うなんて!」


ダディは静かに言った。


「セイヤ。落ち着け」


アイスゴンを観察する。


「奴の冷気は、これまでの敵とは違う」


「え?」


「体温そのものが氷河期だ」


冷気が地面を覆う。


草が凍る。


「我々の裸体でぶつかれば、一瞬で凍結する」


セイヤが唇を噛む。


「……じゃあどうする?」


ダディは二人のマフラーを掴んだ。


赤と青。


それを固く結ぶ。


「パンイチ・チェーンを腰に巻け」


セイヤは頷き、青いマフラーを腰に巻いた。


冷気が肌を刺す。


だが彼は震えながら笑う。


「トナカイは寒いのも雪も慣れてる」


ダディが小さく頷く。


「今回必要なのは、春の陽気だ」


アイスゴンが再び冷気を吐く。


桜の枝が凍る。


セイヤは足元に落ちていた枝を拾い上げた。


氷結した桜の枝。


「セイヤ、無駄だ」


ダディが言う。


「その枝は凍っている」


しかしセイヤは笑った。


「違うよ」


枝を握る。


「俺たちは、この桜を守るためにここにいる」


その枝を――


アイスゴンへ投げた。


枝は冷気の中で凍りついたまま、

怪獣の足元に落ちた。


「ガアア!」


アイスゴンが嘲笑する。


「無意味だ!」


その瞬間。


ダディの目が光る。


「……セイヤ」


「ん?」


「今の攻撃で分かった」


「え?」


「奴の冷気には“層”がある」


セイヤが首をかしげる。


「どういうこと?」


「最も薄い場所がある」


ダディはサンタ帽を深く被る。


「弱点は体表ではない」


アイスゴンを指差す。


「体内だ」


セイヤがニヤリと笑った。


「つまり――」


拳を握る。


「中からぶっ壊す!」


ダディが頷く。


「そうだ」


二人は同時に走り出した。


凍った地面を蹴る。


アイスゴンが巨大な氷の拳を振り下ろす。


ドォォン!


地面が砕ける。


しかし二人は止まらない。


「パンイチ・ダブルローリング・アタック!」


マフラーで繋がったまま、

二人は回転しながら突撃する。


ゴォォォ!


氷の装甲に体当たり。


衝撃。


氷が軋む。


だが、まだ砕けない。


セイヤの体が凍り始める。


「くそ……!」


ダディが叫ぶ。


「セイヤ!」


「まだだ!」


セイヤの体温が上がる。


怒り。

勇気。

守りたい想い。


それらがマフラーを通して流れ込む。


ダディの冷静な熱。


二人のエネルギーが一点に集中する。


「これが――」


ダディが叫ぶ。


「春を待つ人々の温もりだ!」


セイヤが拳を握る。


「冬の執着なんかに負けるか!」


腹筋を収縮させる。


拳を突き出す。


「パンイチ・サクラ・インパクト!」


ドォォォォン!


拳が氷の装甲を貫く。


内部へ。


次の瞬間。


爆発。


二人の熱が体内で炸裂する。


パキパキパキパキ!


氷の怪獣がひび割れる。


巨大な氷の体が――


一気に溶け出した。


水蒸気が空へ吹き上がる。


怪獣の姿は消えた。


代わりに空へ昇る白い霧。


太陽がそれを照らす。


それは――


桜吹雪のようだった。


人々が空を見上げる。


「きれい……」


春の温もりが戻る。


セイヤとダディは地面に倒れ込んだ。


「ダディ……やったな」


セイヤが笑う。


「桜が……蒸気で、もっと綺麗だ……」


ダディも息を吐く。


「春は守られた」


ふと気づく。


二人のパンツが破れている。


セイヤが苦笑する。


「……あ、やべ」


その時。


子どもたちが駆け寄ってきた。


「おじさんたち!」


手に持っているのは――


新品のパンツ。


「ありがとう!これどうぞ!」


セイヤは笑った。


「助かる!」


二人はパンツを履き替え、立ち上がる。


そして子どもたちへ向かって言った。


「当然だ!」


セイヤが拳を突き上げる。


「俺たちの愛と勇気があれば!」


ダディが頷く。


「桜は永遠に咲き誇る」


セイヤが笑う。


「パンツありがとうな!」


公園には再び笑い声が戻る。


桜の花びらが舞う。


春は、まだ終わらない。


第四話 完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ