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第二話 『灼熱の楽園と深海の絶望』


南国の楽園――

サンシャイン・アイランド。


エメラルド色の海。

白砂のビーチ。

灼熱の太陽。


観光客たちは笑い、子どもたちは波打ち際ではしゃぎ、カラフルなパラソルが並ぶ。


そんな楽園の中心で。


トナカイカチューシャの男が、膝に手をついていた。


青いパンツ。

青いマフラー。

筋肉は輝く汗に濡れている。


「ハァ……ハァ……ダディ……」


彼は顔を上げる。


「暑い!暑すぎるぞ、ここ!」


隣でヤシの木にもたれているのは、赤いパンツに赤いマフラー、サンタ帽の男。


ダディ。


彼は静かに水平線を見つめていた。


「セイヤ」


低く、落ち着いた声。


「我々の戦うべき“寒さ”は、季節や場所を選ばない」


セイヤが顔をしかめる。


「いや、今は“暑さ”と戦ってるんだが?」


ダディはわずかに視線を動かす。


「真夏の太陽の下でも、人の心には突然“孤独”や“絶望”という名の寒気が忍び寄る」


その言葉を証明するかのように。


キィィィィィン……


耳をつんざく高周波音が響いた。


太陽の光が揺らぐ。


一瞬で。


本当に一瞬で。


ビーチの熱気が消えた。


セイヤの吐いた息が白くなる。


「……は?」


観光客がざわつく。


砂が霜に変わる。


海面が凍り始める。


子どもが泣き出す。


そして――


沖合から、漆黒の巨大な潜水艇が浮上した。


甲板が開く。


冷気をまとった男が姿を現す。


鋭い目。

長いコート。

背後に回転する深海冷却装置。


「ハッハッハ!」


声は低く、重い。


「歓迎しよう。パンイチ・ヒーローズ」


セイヤの顔が引き締まる。


「誰だ、てめぇ!」


男は腕を広げる。


「我が名は――キャプテン・フリーズドライ」


冷気が一段と強まる。


「ミスター・フリーズは優秀だったが、所詮は地上部隊。真の冷却は、深海から始まる」


ダディが静かに呟く。


「やはり、組織か」


フリーズドライは不敵に笑う。


「この“深海冷却砲”で海流を停止させる。地球の海は永遠に凍り、世界は終わりなき寒中水泳の時代へ突入するのだ!」


海が軋む音を立てる。


水温が急激に低下する。


セイヤが拳を握る。


「海が……温もりを失っていく!」


ダディが一歩前に出る。


「今回の敵は“深海の絶望”」


フリーズドライが挑発する。


「貴様らが裸で現れるのは知っている。だが氷点下の海に入れば、パンイチの氷像となるだろう!」


セイヤが今にも飛び込みそうになる。


「上等だ!」


だが。


ダディが腕で制した。


「待て、セイヤ」


「なんだよ!」


「今回は水中戦だ。単なる根性では体温は保てない」


フリーズドライが嘲笑する。


「どうした?怖じ気づいたか?」


ダディは無視する。


そして。


自分の赤いマフラーの端を握った。


それを、セイヤの青いマフラーに結びつける。


固く。


強く。


「な、何してんだ?」


「二人の精神熱を循環させる」


ダディの目が鋭く光る。


「極限水中戦術――パンイチ・チェーン」


赤と青の布が一本の帯となる。


「これを腰に巻け」


セイヤは一瞬驚き、そして笑う。


「へっ……いいじゃねぇか」


二人はマフラーを腰に巻き付ける。


まるで、絆のベルト。


フリーズドライが鼻で笑う。


「布切れ一枚で何が変わる」


ダディが静かに言う。


「温もりは、共有できる」


セイヤが叫ぶ。


「行くぞ、ダディ!」


二人は同時に海へ飛び込んだ。


水に触れた瞬間。


凍てつく激痛。


セイヤの視界が白くなる。


(やべぇ……!)


だが。


腰から熱が伝わる。


赤い意志。


ダディの静かな精神熱。


それがセイヤを包む。


セイヤの情熱が逆流する。


冷たさが、押し返される。


(これが……チェーンか!)


フリーズドライが冷笑する。


「愚か者ども!」


深海冷却砲が回転する。


氷の刃が無数に放たれる。


セイヤが前に出る。


鋭利な氷が筋肉に突き刺さる。


だが止まらない。


セイヤが吠える。


「この筋肉は、極限まで引き締めた“愛の鎧”だ!」


氷が砕け散る。


その隙にダディが潜水艇へ向かう。


深く。


静かに。


冷却砲の排熱口を見つける。


「ここだ」


赤と青のチェーンを巻き付ける。


精神熱を集中。


冷却装置が悲鳴を上げる。


フリーズドライが目を見開く。


「な、なんだと!?」


セイヤが叫ぶ。


「ダディ!トナカイの角が指示してる!」


「了解だ」


二人の視線が交わる。


チェーンが光り始める。


赤と青が混ざり合い――


紫へ。


進化の色。


「感じろ、セイヤ。海の鼓動を」


海流がわずかに戻る。


生きている。


海はまだ生きている。


「いくぞ!」


「応!」


二人は高速回転。


水流が渦を巻く。


海底を裂きながら一直線。


「パンイチ・オーシャン・ブレイク!!」


衝撃。


潜水艇が軋む。


もう一度。


「ダブル・インパクト!!」


爆音。


冷却砲、粉砕。


潜水艇、崩壊。


フリーズドライが吹き飛ぶ。


冷気が消える。


海が、蒼を取り戻す。


二人は浮上する。


太陽が戻る。


ビーチに歓声が上がる。


セイヤが笑う。


「やったな、ダディ!」


ダディは帽子を直す。


「ああ。海も温もりを忘れていなかった」


子どもたちが駆け寄る。


「おじさんたち、塩でベタベタ!」


セイヤが豪快に笑う。


「この塩気はな、勇気の証だ!」


人々の笑顔が戻る。


だが。


深海のさらに奥。


暗闇。


巨大なスクリーン。


フリーズドライの敗北映像。


白衣の男が立つ。


細い指で眼鏡を押し上げる。


「……興味深い」


低い声。


「裸心体は進化する」


背後に浮かぶコード。


Phase-3 起動準備。


男が呟く。


「次は、心そのものを凍らせる」


画面が暗転。


南国の空に、一瞬だけ黒い雲がかかった。


セイヤは気づかない。


ダディだけが、わずかに視線を上げる。


「……来るな」


「何が?」


「いや」


ダディは微かに笑う。


「次の寒さだ」


波が静かに打ち寄せる。


パンイチ・ヒーローズの戦いは、まだ始まったばかりだった。


――続く。

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