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第一話 『凍てつく聖夜と、パンイチの誓い』

静かなる夜。

銀の雪が、音もなく街を白く染め上げていた。

本来ならば、暖炉の炎と子どもたちの笑い声に包まれているはずのクリスマス・イヴ。

だが今、この街――

ゴルディシティは凍てつく絶望に覆われていた。

広場の中央。

街の象徴である巨大な「希望のクリスマスツリー」が、無惨にもへし折られている。

その傍らに立つ、異形の男。

巨大な電動ドリルを担ぎ、白い冷気を纏う怪人。

「ハッハッハ!メリー・クライシスだ!」

彼の名は――ミスター・フリーズ。

彼の能力は“冷却”。

だがそれは単なる温度の話ではない。

彼は人の“心”を凍らせる。

笑顔を奪い、希望を砕き、温もりを凍結させる。

子どもたちが泣き崩れる。

大人たちは肩を落とす。

「もう……ダメだ……」

誰かが呟いた。

その瞬間――

ゴォォン……

教会の鐘が、鳴った。

たった一度。

だがその音は、凍てつく空気を裂いた。

子どもたちが顔を上げる。

雪煙の向こうに、二つの影。

ゆっくりと歩いてくる。

堂々と。

迷いなく。

そして彼らは、姿を現した。

――パンツ一枚で。

赤と白のボクサーパンツ。

首に巻かれたマフラー。

一人はサンタ帽。

一人はトナカイの角カチューシャ。

それ以外は――筋肉。

完成された、彫刻のような肉体。

「……え?」

誰かが間の抜けた声を漏らした。

子どもたちが言う

「おじさん達…寒くないの?」

トナカイ角の男が、笑った。

「寒いのは……心だろ?」

彼の名は――セイヤ。

熱血直情型。

だが、子どもに弱い。

ミスター・フリーズが目を細める。

「なんだ貴様らは。凍え死にたいのか?」

隣のサンタ帽の男が、静かに雪を踏みしめる。

「俺たちは耐える」

低く、落ち着いた声。

「耐えて、熱を生む」

彼の名は――ダディ。

寡黙な理論派。

二人は並び立つ。

「パンイチ・ヒーローズ」

それが彼らの名だ。

裸心体らしんたい

フリーズが嘲笑する。

「馬鹿な。服も着ずに何ができる」

セイヤは雪を踏み抜く。

「服を脱ぐってのはな――覚悟だ」

ダディが続ける。

「我々は“裸心体”」

フリーズの眉が動く。

裸心体。

それは極限の寒さに身を晒し、

恐怖と羞恥を乗り越え、

己の“核”をむき出しにしたときのみ発現する特殊体質。

寒さを受け入れることで、

身体は逆説的に“熱”を生む。

だがそれは単なる体温ではない。

精神熱。

意志のエネルギー。

「寒さから逃げるな」

ダディの目が細くなる。

「受け入れろ」

フリーズがドリルを構える。

「くだらん理屈だ!」

冷気が放たれる。

広場の石畳が一瞬で凍りつく。

セイヤが突進する。

「パンイチ・アタック!」

鋼の肉体がぶつかる。

熱と冷気が衝突する。

雪が蒸発する。

だが――

ドリルが唸る。

セイヤが弾き飛ばされる。

「ぐあっ!」

雪の中に叩きつけられる。

子どもたちが悲鳴を上げる。

フリーズが高笑いする。

「無駄だ!俺の“クライシス・フリーズ・ビーム”の前では全てが凍る!」

青白い光が収束する。

セイヤに向けて放たれる。

その瞬間――

ダディが地面に手をついた。

目を閉じる。

深く、深く。

息を吸う。

寒さを受け入れる。

痛みを否定しない。

羞恥を否定しない。

恐怖を否定しない。

それらすべてを、抱きしめる。

「凍りつくのは――貴様だ」

ダディの周囲の雪が浮かび上がる。

巨大な雪塊が形成される。

それは――雪だるま。

だが異様な密度。

精神熱で圧縮された氷。

ビームが直撃する。

だが貫けない。

冷気が吸収される。

「今だ、セイヤ」

雪の中から、セイヤが立ち上がる。

「了解だ、ダディ!」

助走。

跳躍。

「パンイチ・ファイナル・ドロップキック!!」

空を裂く軌跡。

直撃。

ドリルが砕ける。

フリーズが雪中へ沈む。

静寂。

冷気が止む。

だが、終わっていない

歓声が……上がらない。

セイヤが荒く息を吐く。

「……終わったな」

ダディは首を振る。

「いいや」

二人の視線の先。

燃え尽きたツリー。

希望の象徴。

それは戻らない。

子どもが呟く。

「……クリスマス、なくなっちゃうの?」

その言葉が、セイヤの胸に刺さる。

彼は歯を食いしばる。

(守るって言っただろ……俺は)

そのとき。

遠くから声が響く。

「やったー!!」

雪煙の向こうから、巨大な影。

運ばれてくるのは――

規格外のモミの木。

そして担いでいるのは、

葉っぱ一枚の男。

「遅れてすまん!」

葉っぱ隊長・はっさん。

「お前らの熱、届いたぞ!」

ツリーが広場に立つ。

はっさんが笑う。

「希望は壊れない!植え直せばいい!」

人々が動き出す。

飾り付けが始まる。

セイヤが氷を星に加工する。

ダディが結晶を作る。

はっさんの葉が、リボンに変わる。

子どもたちが笑う。

そして――

「YATTAAAAAA!!」

ツリーに光が灯る。

希望が戻る。

セイヤが空を見上げる。

雪が降る。

静かな夜。

ダディが呟く。

「任務完了だ」

だがそのとき。

彼の耳にだけ届く、微かな音。

通信機。

『――フリーズは幹部の一人に過ぎない』

ノイズ混じりの声。

『本部より通達。コード“裸心体殲滅”が始動した』

ダディの目が細くなる。

セイヤが振り向く。

「どうした?」

ダディは答えない。

ただ静かに呟く。

「……戦いは、ここからだ」

雪は止まない。

聖夜は終わらない。

パンイチ・ヒーローズの戦いは、始まったばかりだった。

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