ギャンブル
「昔々のそのまた昔の大昔。まだ魔法使いがいなかった頃、人々は自然と共にありました。生き物たちは森を駆け、海を泳ぎ、空を舞う。そんな平和が続いていたのです。ですが、その平穏な日々が崩れさる出来事が起きます。大魔王サタンが世界に魔物をもたらしたのです。魔物は瞬く間に世界中行き渡り、生き物たちを殺していきました。追い詰められた人々も為す術なく、居場所を奪われてしまいました。それを見兼ねた大魔法使いマーリンはサタンを倒すべく、立ち上がります。マーリンはその聡明さと強大な魔法で、見事に大魔王サタンを討ち取り、世界を滅亡から救ったのでした。おしまい。」
女性は本を閉じ、五歳の息子に微笑んだ。
「もう一回!もう一回読んで!お母さん!」
「もう三回も読んだでしょう?トロイはマーリン様が大好きね。」
「ねぇお母さん。僕もマーリン様みたいな、すっごーい魔法使いになりたい!」
戸惑う母は我が子の輝く瞳に、また。笑顔を見せた。
「トロイなら、きっと出来るわ。」
「うん!」
それから、二十年の月日が流れた。
「さあ!本日最後の試合。弾丸兎VS八瞳栗鼠が始まります!」
ここは。生物と魔物を戦わせ、賭博を行う地下闘技場(Underground Fight Pit)。通称「UNP」である。
「まずは魔物サイドから!全てを貫く純白の弾丸!弾丸兎!」
円形に造られた闘技場の入場口から出てきた兎は魔物と呼ぶに相応しい姿だった。
翼と言っても遜色ない巨大化した両耳。膨れ上がった太ももの筋肉は耳を除いた身体の三分の一を占め、膝からつま先を含めるのならば全身の半分以上が脚。
大きく広く発達した耳。肥大化した脚の筋肉が作りあげるハート型のお尻がキュートなモンスター。弾丸兎。
「対するは生物サイド!四つの眼で標的を捉える森のファイター!八瞳栗鼠!」
反対の入場口から登場したのは、兎と変わらぬ大きさの栗鼠。
バランスの取れた四肢の筋肉と背中に向けて巻き上げられた長い尻尾。そしてなにより、その名前の由来にもなった四つの眼の中に二つずつある、合計八つの瞳孔。
まさにファイターと呼ぶに相応しい、筋肉質かつしなやかな肉体と、複数の瞳が不気味さと勇ましさを醸し出す。四つん這いのクリーチャー。八瞳栗鼠。
両者の入場が完了し、観客の興奮は増していく。
「皆の者!準備はいいか!」
実況の煽りに答えるように観客席からは声援や野次が飛び交う。そんな熱気に包まれた場内に、一人深刻な面持ちの男がいる。
「…頼むっ!」
クシャクシャになった賭博券を祈るように握りしめる男。これから試合が始まるというのに目はぎゅっと閉じられ、顔を腕に埋めている。余程この試合に思い入れがあるのだろう。会場の熱気か、はたまた緊張からなのか。滴る汗が床に落ちる。
「それでは本日、最終試合!レディ…ファイッ!」
実況の合図と共にゴングが鳴った。
「頼む頼む頼む…はっ、始まった!?」
鐘の音が聞こえ、顔を上げた男は身を乗り出した。
まだか…落ち着け。落ち着け俺。今日はいつもと違って最終戦まで悩みに悩んで悩み抜いて決めたんだ。今日負けたらヤバいけど…いや!大丈夫。大丈夫だ。弾丸兎と八瞳栗鼠の試合は何度も見てきたよくあるマッチアップ。ちゃんと統計をとった訳じゃないが、体感では弾丸兎の方が強いはず。大丈夫…大丈夫…。
「睨み合いの続いた両者だが!先に動くのはやはり純白の弾丸かー!?」
試合の始まりを見ていたはずの男の視線は、また段々と俯いていたが、実況の声にまた顔を上げる。
警戒心の強い栗鼠は、闘技場に放たれた後も観客席かの声に反応してキョロキョロしていたのに対し、兎は目の前の標的に照準を合わせていた。
立っていた両耳は標的へ指すように向き、凄まじく発達した両脚に力が入るのが見て取れる。
弾丸兎。大きく、そして広い両の耳をまるで空気を掴むようにして勢い良く扇ぐことで爆発的な推進力を生み出す。兎が得意な飛躍の動作をムッキムキの両脚で前進に転用し、耳の動きと連動させることで繰り出される爆速の突進はまさに弾丸。
「おぉっと!凄まじい一撃に早くも決着かー!?」
兎は衝突音と同時に土煙へ消えた。会場が僅かに揺れ、観客達は煙に消えた勝負の行方と魔物の脅威に静まり返る。だが彼は違った。
「いや…まだだ。」
土煙が晴れていく。
「な、なんと!八瞳栗鼠!あの一撃を躱したのか!?ピンピンしているー!」
そう。俺には見えた。バニーが跳んだのと同時にリスが横に避けたのが!って何にドヤついてんだ俺は!俺が賭けたのは弾丸兎だろうがボケが!
八瞳栗鼠と弾丸兎は同じ地域に生息している。
八瞳栗鼠は、突発的かつ爆発的な突進を繰り出す魔物のいる環境に適応するため、成長した生物。
兎が現れた当初、元々持っていた俊敏性と筋力によりほとんど驚異と捉えていなかった。だが、度重なる発達によって速度の上がる突進に、段々と対応が遅れていく。それは筋力や運動神経の問題ではない。単純に動体視力が足りなかったのだ。だから。目を増やした。
二つの眼に瞳孔がひとつ、またひとつと増え、四つになった瞳孔。それでも追えなくなった兎の速さに、遂には眼そのものを増やし、今に至る。四本の足を全て使って攻撃を躱すうちに小さかった前足は鍛えられ、四足歩行が常となった。尻尾を伸ばしたままでは的が増えてしまう。だから丸めて背中につけた。
兎が獲物を撃ち抜く弾丸ならば、栗鼠はさしずめ打たせずに打つ。まさに格闘家。
兎の突進は闘技場の壁を大きく破損させたが、その光景が観客の興奮をさらに焚き付けた。
「さぁ!最初の攻防は八瞳栗鼠に軍配が上がったように見えますが恐らく!あの一撃をもらってしまえば一溜りもないでしょう!」
そう。そうだ。今まで見てきた試合はどれもそうだった。バニーの一撃が当たってリスが負けるか、リスが逃げ切ってバニーが衝突のダメージで自滅するかの二択。そして今日の試合のバニーは、これまで見てきた中でも上位に入るぐらい歯が伸びてる。あの長さなら勝てるはずだ。大丈夫。大丈夫…。
「あんた、うさちゃんに賭けたのかい?」
汗臭い闘技場には似合わない、洒落た服装の女性が男に声をかける。
「なっなんだよ。俺の勝手だろ。」
「それはそうだ。だが甘いな。勝つのはリスちゃんだ。」
「なんだと?どうして分かる!」
「まぁ見てな。今に分かる。」
なんなんだこの女。適当なこと言いやがって。俺はこの一戦に有り金全部賭けてんだ。邪魔すんじゃねぇ。あぁ頼むぞバニー。お願いだ。勝ってくれ…。
「起き上がった白き弾丸が再び狙いを定めるー!」
魔物の攻撃は続いた。一発撃つごとに壁に激突する兎は前歯を槍のように使い、肉体が直接触れるのを防いでいた。
兎の歯は伸び続ける。生き物である兎の骨は繊細で折れやすく、歯は食事の際に磨り減ってしまうために伸び続けるのだろう。
では魔物である弾丸兎の歯は何故伸びるのか。魔物も食事、正確には生き物のように生命を維持するための摂取ではないため、食事と呼べるか定かではない。が、口に入れたものを噛んで飲み込む一通りの動作を行う。しかしながら魔物として活動するうえで、骨の軟さや弾丸の先端として扱う歯が磨り減るのは致命的とも言える欠点。そんな欠点を抱えたままであったなら、硬い岩石で造られた闘技場の壁を抉るほど、強烈な突進にまで攻撃が進化することは無かっただろう。弾丸兎の骨や歯はとてつもなく硬い。兎の歯は食事で磨り減ってしまうが、弾丸兎のカチカチの歯が磨り減ることなど無い。ならばどうして伸びていくのだろうか。
「森のファイター八瞳栗鼠!まるでフルオートの猛攻を!避ける!避ける!避けるー!」
戦場の攻防は徐々に激化していく。
「ちっ。すばしっこいな。あのリス。」
「うさちゃんもなかなかやるな。」
気が付くと隣で並んで観戦している男女。女の手にも賭博券が握られている。賭け先は八瞳栗鼠だろう。
「防戦一方になりがちなリスより、一撃必殺の攻撃を何度も撃てるうさぎの方が有利だ。それにあのバニー、歯が育ってる。」
「ほう?良く見てるじゃないか。弾丸兎の歯は、あれだけ勢い良く壁にぶつかっても割れるどころか削れもしない。つまり長い歯を持ってる奴ほど長く生きてる。猛者ってわけだな。」
「そうゆうことだ。っていうかなんなんだお前。俺になにか用でもあるのか。」
「特にないさ。ただ、試合が始まる前から背中がプルプルしていたからな。よっぽど危険な賭けをしたんだろうと心配でな。」
「う、うるせぇよ。そんなに心配なら、俺が賭けたバニーを応援してくれよ。」
「人がいくら応援したって、奴らには届きやしないさ。なにせアイツらが戦ってるのは私たちのような人間の為なんかじゃない。そうだろ?」
「それは…。そうだけど…。」
男はどこか納得のいかない曇った顔で戦場を眺めた。
「お前。魔物が何故食べるのか、知っているか。」
「ん。そりゃあ…魔物は生き物が溜め込んだ魔力を得るためだろ?それぐらい、ガキでも知ってる。バカにしてんのか。」
戦場の衝突音と観客の声援をBGMに、男女の会話は続いた。
「…魔物は魔力を求めて他を食らう。その通りだ。だが、魔物が魔力を得られるのは生き物からだけじゃない。わざわざ危険を冒してでも生き物と戦い、殺してでも食べようとするのは何故だと思う?」
「それは…」
たしかに。魔物は微量だが、空気中の魔力を吸収しながら存在している。それに魔力を持っているのは動物だけじゃない。植物や鉱石、量は違えど色んなものに魔力はある。弾丸兎だって、あれだけの突進が出来るならわざわざ生き物なんて狙わなくても、鉱石を砕いて食べることだって出来るはずだ。でも弾丸兎にそんな生態があるなんて聞いたことない。なんでだ?
試合開始から十分。決着の時は近づいていた。
「おぉっと。弾丸兎の動きが止まったぞ!一体どうしたんだぁ!?」
「お、おいおいおい!それどころじゃねぇ!どうしたバニー!?まだやれるよな!?」
考え込んでいた男は、実況の声で我に返った。戦場の景色は荒れていたが、観客の目線は壁際の兎に集まっている。綺麗な壁が見つからないほど猛攻を続けた弾丸兎が、その脚を止めたのだ。
「魔物ってのはな。」
「はぁ!?まだ続けんのかよ!俺はそれどころじゃねぇって!」
女は続けた。
「動物や植物、生き物を食うことでその特徴を模倣するんだ。」
「模倣?」
女から出る聞きなれない言葉に、男はついつい耳を貸してしまった。
「彼らは生きていくために食うんじゃない。食った相手を模倣し、より強い存在になるために体内に取り込むだけ。」
「それが…なんだよ。」
「魔物は食った相手の特徴を攻撃に活かし、より強い相手を殺し、食うことで進化してきた。つまり。奴らの本質は生き物を真似ることにある。」
「だからそれがなんだってんだよ!」
「おおっと!弾丸兎が動いた!」
「動いた!?」
男の目線は、女から戦場へ移った。
兎の両耳は栗鼠へ向いている。
会場の熱気を汲み取ったのか、実況も声を荒らげる。
「数多の試合を実況してきた私が見るに恐らく!!これが最後の一撃となるでしょう!!!」
「頼む!いけバニー!やっちまえ!」
「あのうさちゃんも、相当食ってきただろうな。」
兎の両脚に筋が浮かびあがり、おしりが左右に揺れる。じっくりと狙いを定め、前足をぐっと内側にしまった魔物は発射された。
な、なんだ?さっきまでよりなんか遅いぞ!それに少し高いか?ここに来てまさかスタミナ切れ!?まずい!このままじゃ…!
栗鼠は今までより速度のない突進を軽々躱した。
「終わった…。」
避けられた。あのまま壁にぶつかって負ける…。俺の…お金が…。
弾丸兎の自滅。会場の誰もがその未来を思い描いた。だが結末は、もう少し先のことだった。
兎は速度を抑え、より標的の動きが見えるよう工夫した。それは何故か。答えはリスに躱された直後の動作に表れる。
左耳を横へ広げ、右耳を前方に仰ぐ。すると風が起きて速度が落ち、顔はリスのいる左側を向く。目線と共に照準の向きが変わる瞬間。その一瞬で兎は地面を強く蹴り込んだ。進行方向に対して真横への跳躍。そう。弾丸兎は八瞳栗鼠の動きを模倣し、一直線だった攻撃に角度を加えて追尾したのだ。
「曲がった!?」
血の気の引いていた男は、驚きと僅かな希望で息を吹き返した。空中にいるリスに向けて放たれた、予想外の追尾弾。速度は落ちているものの、消耗したリスを撃ち抜くには十分な威力だった。
「だけどな。モンスター。お前らは所詮、偽物なんだよ。」
「えっ?」
兎の勝利に胸踊らせた男は、女の一言と噛み合うような栗鼠の動作に目を疑った。
魔物は生き物を取り込んだ時点で特徴の模倣が可能となり、さらに強い相手を殺し、食らうため。もっと発達させる。
しかし生き物は違う。自身よりも強い相手のいる環境で生き残るため、食し、戦い、成長するのだ。そしてその成長の多くは積み重なった経験と絶体絶命のピンチでこそ発揮される。
パンッ!
栗鼠は迫り来る脅威を躱すため。足の着かない状況で初めて、尾を伸ばした。
産み落とされてすぐ、歩くことを覚えるのと同じように尻尾の巻き方を覚え、片時も力を抜くことはなかった。丸め続けた尻尾の毛は固くなり、跳躍するのに十分な筋力が付いていた。
空中から地面への尻尾での強烈な蹴り。
その閃きは、圧縮したバネが弾けるような破裂音と共に栗鼠の身体を浮かし、追尾してきた弾丸を見事に躱した。その発想は戦闘中に幾度も目にした敵の動きがヒントになった。
それは兎の足。栗鼠もまた、兎の動きを観察していたのだ。
増えた瞳孔の恩恵は相手の動きを正確に捉えるだけではない。より広い視野としても機能する。八瞳栗鼠の眼は正面を観るのが中心的な主眼とそれを補うことが中心的の副眼が存在する。副眼によって得られる視野は、胴体に遮られた僅か数センチ以外のほぼ全ての角度を見渡せる広さを持つ。
よって。リスが観ていた兎の足は正面からだけでは無い。自分の横を過ぎ去っていく足の裏まで視えていたのだ。
兎の足には肉球が存在しない。弾丸兎のあの突進は柔らかな肉球の無い、硬い足で蹴ることでこそ爆発的な一撃を成り立たせていた。八瞳栗鼠はそれに習い、肉球の付いた足ではない固まった尻尾で地面を撃ったのだ。
栗鼠に躱された兎は、またも土煙に埋もれてしまった。
「勝負あったな。」
「嘘…だろ…。」
勝ったと思った…。勝ったと思ったのに…。なんで…。
「言っただろ?勝つのはリスちゃんだって。」
「まっ、まだ!まだ分からない!煙が晴れるまでは…!」
その場にいる全ての者が弾丸兎の行方を捜した。
頼む!頼むって!生きててくれバニー!もう一回!もう一回だけ…!
男はまた、視線を落として祈った。くしゃくしゃの賭博券を握りしめ、目を強く閉じ、祈った。
決着の時。観客のほとんどが、ここは賭博場であることなど忘れてしまったかのように大歓声を送る。立ち上がる熱気。揺れる空気。そして。試合終了のゴングは鳴った。
「試合終了!勝者!八瞳栗鼠!!!」
男はゆっくり顔を上げる。
煙の晴れた追突地点に、戦闘不能の弾丸兎が横たわるのを確認し、男は顔を歪ませた。
「なんで…なんでだよ…。そんな…そんな…。」
「生き物はな。危機的状況にこそ力を発揮するもんなんだ。それこそ命に関わる大きなもんに遭遇したときなんか、今まで一度も無かったような力に目覚めたりなんかしてな。そうやって成長していく。」
男は絶望し続け、女は静かに話を続けた。
「お前、リスちゃんの副眼はチェックしたか?」
「リスの…ふく…がん…?」
「うさちゃんの歯が伸びてたんだろ?そこまでは良かった。でもリスちゃんのお目目を確認しなきゃ、私も試合の結果は分からなかったかもな。」
「…。」
「弾丸兎の歯が伸びるのはただ模倣してるだけの無意味なものだ。だが八瞳栗鼠の瞳孔はちゃんと理由があって、増えてきたんだ。リスの瞳は元々二つだった。それが年月と共に増えていった。つまりは成長していったんだ。」
「だから…なんだよ…。それとこれとは違う話だろ。」
「いーや。違わない。八瞳栗鼠の副眼は成長によって得たもの。そしてその遺伝子を継承し、代を重ねるごとにさらに成長してきた。あのリスちゃんの副眼はそのへんの八瞳栗鼠よりも大きい。それだけ沢山のものを見てきたってことだ。」
女は勝ち残った栗鼠に指を差しながら語った。
「だっ、だからって!尻尾を使うなんて分からなかっただろ!?」
「ああそうとも。分からなかった。それでも私はリスちゃんに賭けた。あのリスちゃんの更なる成長のときは今日だと信じて。な。」
「だからってそんな…。そんな…。」
「これに懲りたらギャンブルなんて辞めちまいな。」
「待ってくれ!」
立ち去ろうとする女を止める男。
「弟子にしてくれ!あんたのその知識があれば俺の借金も返せるはずだ!教えてくれ!魔物のことも生物のことも!」
「お前…。思ってたよりかなりどうしようも無い奴だな。勉強なら自分でしろ。じゃあな。」
「じゃ、じゃあ名前だけでも!次会った時でいいからまた色々聞かせてくれよ。俺はトロイ。トロイ・ブロンテスだ。」
男の名前を聞いた女は立ち止まった。
「ブロンテス…。」
女はそう呟くと振り返り、自分の名を口にした。
「私はアウラ・オーレリア。じゃあな。トロイ。」
トロイは立ち去って行くアウラの姿よりも、アウラの言っていた栗鼠の瞳が気になっていた。
「うーん…。」
アウラはリスの副眼が大きいとか言ってたけど、そんなのどうやって確認したんだ?事前のお披露目は会場の真ん中に連れてこられるだけで、観客席からしか見ることはできない。三十メートルはあるはずだし、バニーの歯は分かりやすいからここからでも見えるけど…。まさか見えてたのか…?リスの副眼を…?目視で…?
「よぉトロイ。」
はっ…。
「やっぱUNPだったな。どうだったんだ?結果は。もちろん勝ったんだよな。なぁ?」
ガラの悪いムキムキの男がトロイに詰め寄る。
「あ〜えぇっと…。その…。」
「まさか負けたんじゃねぇだろうなぁ。なぁ?」
やばいやばいやばい!遂にここまで取立てに来やがった!どうする!?金はもう無いし、今日の試合はこれで終わり。今からどうにかなる金額じゃないし何か言い訳を…。
トロイの様子に察しの着いた男は、首の後ろを鷲掴みにし、耳に顔を寄せる。
「覚悟。出来てんだろうな。」
「すいません!すいません!明日!いや、今から働いてきます!だから…だから…。」
「もう遅せぇんだよ!来いやオラ!」
「すいません!許してください!痛い!やめて!お願いします!もう一度だけチャンスを…。」
アウラはトロイが首を掴まれ連れ去られるのを物陰から見つめ、うっすらと笑みを浮かべるのだった。




