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私が体験した心霊的現象・悪夢障害との闘いの記録  作者: 植木 浄


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変異した父に食いちぎられて死ぬ夢

 このように言うと嫌味のように感じられてしまうかもしれませんが、私がここまで悪夢に苦しんでいるのは、私の記憶力のせいだと思っています。


 忘れられない、と言った方が正確でしょうか。私は夢の出来事も現実の出来事も、どちらも同じくらいに覚えているのです。殊更に優れているというわけではありませんが、変なところで瞬間的に記憶力が上がり、どうでもいいことを一字一句覚えてしまうような、そういうタイプです。


 もちろん現実と同様に、すぐに忘れてしまう夢もありますが、人間の脳は強く印象に残った出来事ほど記憶しやすいもの。私の幼少期の記憶はほとんどが悪夢で埋まっています。


 そしてこれは、小学校低学年の頃に見た悪夢です。


 私はどこか知らない街を逃げ回っています。まだ昼のはずなのに、空は逢魔が時の色をしています。あたりの建物はほとんどが崩れ、黒い煙を上げています。


「アッアッアッアッ」

「オッオッオッオッ」


 迷路のようになった瓦礫の山のあちこちから、得体の知れない「人のようなもの」が飛び出してきます。少し前に見たゾンビ映画の影響でしょう。


 その異形たちは傷ついたレコードのように同じ声ばかり発しています。そして、私だけを狙うかのように、ゆっくりと、しかし確実に近づいて来ていました。


「オウ、オウ、オウ」


 隠れては見つかり、逃げては隠れ、また見つかり――瓦礫の迷路を走り回っているうちに、ひとつだけ、状態の良い建物が見えてきました。公衆トイレです。


 公衆トイレは立方体のようなシンプルな形状をしていました。不思議なことに電気までついています。


 まあ、夢の中なので何があってもおかしくはないのですが、この時点ではまだ、こちらを「夢である」とは認識できていません。これが現実であるかのように苦しかったのです。とにかく必死に走り、その光に吸い寄せられるように逃げ込みます。


「はぁ、はぁ」


 私は入口の壁に隠れるように背をつけ、なるべく音が漏れないように息を整えます。その時です。


「ど、こへ、どこ、へ行った……」


 父の声がします。きっと父が助けに来てくれたんだと、そう思いながら、恐る恐る外を覗くと、


「ドコヘ、ドコヘ、ドコドコ」


 そこにあったのは変わり果てた父の姿でした。左腕は胴体よりも肥大し、下半身は溶けるように何かに変わろうとしています。そして、


「あっ」

「イタイタイタ」


 目が合ってしまいました。私は個室に逃げ込もうとします。が、鍵が壊れているのか、開きません。そうしている間にも変異した父は迫ってきます。


「どうして……」


 ドン、ドン。なぜいつも怖い思いをしないといけないのか、そんなことを思いながら必死にドアを叩いていた、その時。


「あ」


 私は気づきました。こちらは夢である。恐怖心が薄れていくと同時に、一瞬、いつもと違う感覚が生まれました。


 何かが体にまとわりついているような、しかし決して不愉快ではない、私を守ってくれる温かさのようなものを感じたのです。今思えば、あれは布団、つまり現実の方で眠っている私の肉体が、その肌に受けている刺激を感じたのだと思います。


 原理は分かりませんが、それを感じた次の瞬間、私はドアをすり抜け、個室の中に入ることに成功しました。


「アッ、アッアッ」


 父は完全に変異し、自我を失ったようです。ドアの向こうでズルズルと、何かを引きずりながら動く音がします。このまま諦めてほしい、と必死に祈りながら夢を終わらせようとしましたが、


「アッ! アア!」


 いつの間にか、変異した父は壁を這いずるように上り、天井からこちらを見ています。


 ドン! ドン! 私はもう一度ドアをすり抜けて外へ逃げようとしますが、できません。ならば最後の手段、と、目を強く閉じ、勢いよく開くことで夢を終わらせようとします。が、残念ながら手遅れです。その努力も、祈りもむなしく、私は変異した父に噛みつかれます。


 首に焼けるような熱さを感じると同時に、視界が斜めになり、視線も動かせなくなりました。ほどなくして体の自由も利かなくなり――私は死んだのです。


 その時は残念ながら一瞬で終わりましたが、産まれて初めて夢をコントロールする「明晰夢」の感覚を知った瞬間でした。このくらいの頃から、私は徐々に夢の中でも自分の意志で動けるようになっていきます。

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