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8話 暗闇に囚われし水晶の景色

宜しくお願いします。

 ルーリアはずっと、応接室の長椅子に座りながらそわそわしていた。


(ど、どど、どどどどうしよう。この長椅子、ふかふか過ぎて落ち着けない……)


 長椅子はふかふかしていた。しかし座り心地が良くとも、落ち着けるとは言えなかった。いつも固く今にも壊れそうな床に座ってそこで寝てを繰り返す日々。それが何気に落ち着けた。よく知っている感覚だから。無論、そこで寝たら翌朝には背中が痛くなった。だがその痛みも徐々に薄れていったのだ。ルーリアという本人は気付いていないが、それは痛みに慣れた、鈍いと言っても良い。決して喜ぶべきことではないはずだ。


「うぅ……」


 そんなところに、皇帝の元に行っていたロドレームが応接室に入って来た。ロドレームはルーリアが居ることを確認して、ほっと安堵(あんど)の息を吐く。


(そんな……直ぐに出て行く野良猫じゃないんだから……)


 そう思っていると、ロドレームはルーリアの前に行き手を差し伸べる。


「?」

「これから地下に行くんだ。ついてきてもらえる?」

「は、はい」


 反射的にその手とルーリアの手を重ねてしまったが、まぁ良いかで済ました。ルーリアにとってロドレームは少しの希望になってしまったのだから。

 ロドレームはルーリアをエスコートしながら回廊を進む。


(地下に行くと言っていたけれど、どういうことだろう?)


 それを尋ねてみると、全然違う答えが返ってきた。


「……ルーリア嬢は、聖女を知ってるかな?」

「え? あ、はい」

「良かった。……聖女はこの帝国、フィンシーカ帝国に平穏を齎す貴重な存在。聖女が居る限り、野菜や果実、魚や肉、卵にも困らない重要な存在なんだ。あぁでも、皇太子——俺や皇帝陛下、皇后様も頑張っているよ? これからルーリア嬢は、色々な困難に出会うかもしれない」

「はい」

(何故なのか分からないけれど、どんな困難でも大丈夫)


 〜〜***〜〜


 地下へ行くためには鉄で出来た長い螺旋(らせん)階段を下る。コツコツ……と、ロドレームの足音が、素足のルーリアはペタペタと音を立てている。その間、ロドレームは何も話さない。何かに耐えているような、それか期待しているのか、何も話さないロドレームの心境は一ミリも分からない。


(殿下。……寂しいです。こんなことで寂しいと思うのは少し、その……赤黒い令嬢として失格ではあるけれど)


 螺旋階段から下り終わると、暗闇に包まれた地下に辿り着いた。螺旋階段を下っていた時も暗かったが、それ以上だ。

 ロドレームはやっと口を開いた。


「ルーリア嬢、あちらの水晶に触れてみてはもらえないだろうか」

「え……?」


 ロドレームの目線を追うと、その暗闇の中には水晶が目立っていた。

 ルーリアはロドレームに従い、何故だろうと不思議に思いながらも水晶の前に行く。水晶は紫というよりかは透明で透き通っている水のようだった。


(まるで、水槽に綺麗な水を入れたみたい……)


 ルーリアはうっとりしながら、水晶に触れる。


「⁉︎」

「………っ!」


 最初に水晶には、黄金色の花の花畑が映し出された。霧が掛かっていて、その霧の色も黄金だ。だがその奥には、誰かが居た。その次に映し出されたのは湖だ。水色の花に囲まれた湖。雲一つない青空が、その湖を輝かせている。


「えーっと?」

「………」


 ロドレームはルーリアを見て目を見開いたまま変わらない。

 どうしましたかと声を掛けに行こうとしたところで。


『貴女を、聖女と認めましょう』


 そんな声が頭に響いて来た。ルーリアは思わず頭を抑えたが、それ以外の声は聞こえなかった。あの声は何だろうか。


(何だか、聞いたことがある声だった……)


 続けて、ロドレームがぶつぶつと何かを呟く。


「やっぱりか……。ルーリア嬢には悪いがもしかしたら父上は……いや、これは父上が言うべきことであり俺が言うことではないな。父上、どうかルーリア嬢に無理のない範囲で……」

「?」


 どうしたのだろうとも思ったが、皇族の事情に首を突っ込む訳にはいかないと、ルーリアは左右に首を振った。


「ロドレーム殿下?」

「! あ、すまない。き、綺麗だろ? この、『暗闇に囚われし水晶の景色』は」

「『暗闇に囚われし水晶の景色』?」

「良い名前かな? まだ俺が幼い頃につけた名前だから、長いんだけど」


 ルーリアは「いいえ!」と言いながら首を勢いよく左右に振る。その様子にロドレームの表情が驚愕に染まっているのは、ルーリアは知らない。

 その後にルーリアは優しく微笑んで紡ぐ。


「センスがあります! とても素敵な名前で……。自信を持って良いんですよ」

「……! ありがとう、ルーリア嬢」

「…………」

(ルーリア()、か……)


 何だか嫌だ。そう思う自分に、ルーリアは目を見開き驚く。

 ルーリアは、何か勇気を出したような、スッキリしたような表情で笑っているロドレームをジッと見詰めながら、考えてしまう。


(私のこの気持ちは、寂しいではないの? ううん。でも、寂しいとは……)


 その後に、ロドレームから「ルーリア嬢」と声が掛かる。


「な、何でしょう。殿下」

(やっぱり……。なんか、左胸がムズムズ……というか、ズキって……なんで?)


 だがそんな疑問も、ロドレームの言葉によって何処か心の隅に追いやられる。


「皇帝陛下のところに行こう?」

「ひん?」

ありがとうございました。

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