とある娘の日常
「あ、あのっ、止まってください!」
「嫌だよ! だって君、止まっても何も喋らないじゃないか!」
「うぁ………っ。で、でもっ、今は喋ってます!」
「今は、でしょ!」
とある国の城下街。二人の男女が、喋りながらも追いかけっこで遊んでいた。
………否、遊びではなく、本気で逃げ、本気で追い掛けている。
城下の者は毎日のように見ているからか、二人を見て微笑ましい目をしている。
「つっ、捕まえました!」
「あぁもう。どうして君はこんな足が速いんだ………」
「え………分かりません……」
そのまま黙る少女を見て、少年は呆れたように呟いた。
「ほら。捕まれば、黙るじゃないか」
「………っ! わ、わぁ〜〜‼︎」
「うるさいうるさい! 無理に喋んないで良いから!」
少女は気が弱かった。それでも、この少年のことを追い掛けるのは、彼の声が聞きたいからであった。
少年は、歌が上手なのだ。
城下街の中心部である、銅像。そこの縁に座り、城下街の子供らに歌を聞かせていた。その光景はまるで、神が降臨したみたいな、そんな感じであった。
「で、でも………」
「でも⁉︎」
「…………、貴方のお歌、聞きたいんだもん」
「ゔっ」
少年は何かに詰まったような顔をして、少女を見る。少年の目には今、彼女の周りに花々がたくさん咲き誇っていた。
「分かった。そしたら、やめてくれるね?」
「うん! えへ、へ。嬉しいなぁ」
「そっ。別に、喜んでも喜ばなくても……どっちでも良いんだけど!」
ぶっきらぼうに返し、少女の方をチラリと見遣る。少女は嬉しそうに頬を染め、口角が上がっていた。
「ありがと…………」
「へ?」
意外にも、礼を言ったのは少年の方だった。
だが、その頬は先程よりも紅潮していて、嬉しそうだった。
少女は突然の礼にポカンと口を開けて、呆然と少年を見ている。
「僕のお歌、聞いてくれる人はいるけど、こんなに褒めてくれる人は居ないから」
「……………………………ぁ」
寂しく感じた。
彼はこんなにも歌が上手いのに、褒められないなんて。
(実力があっても、褒められる訳じゃないんだ………)
少女は誤解していた。
きっと彼は、実力で突っ走って来たと思っていたから。でも、そうではなくて、歌は趣味で歌っていただけで、誰も少女のように褒めてはくれなかったのだ。
前から、少年の歌は素敵だと本人に言っていた。
その時からもう、少年は照れ臭かったのかもしれない。
「んふふ………」
「なんだよ。気持ち悪い」
「私、気持ち悪い………?」
「ゔっ。違うよ。気持ち悪くなんて、ないよ」
少年は目が一瞬潤んだ少女から視線を逸らし、弁解した。
彼女はすぐ溜まった涙を引っ込め、ふにゃっと微笑んだ。それにまた、紅潮する。
「ほら。子供と一緒に、君も僕の歌を聞くの」
「うん……うんっ!」
手を優しく引っ張ってくれる彼に、心拍数が少し上がった。
〜〜*〜〜*〜〜
義母の墓を見る。
ルーリアは少し悲しくなり、鼻を啜ったが涙は流さなかった。
「お母様………仲直り、したかったのにな」
悲しいという気持ちが溢れて来て、最終的には一滴だけ溢した。
「………お母様も、そう思いませんか?」
そう尋ねた後、ルーリアは暫し考え「ないなぁ」と微笑んだ。
でも、ギュアカーラが楽しく笑っている姿を見てみたかった。メティーチェイアは夢の中だけれど笑っている姿を見たが、ギュアカーラの心からの笑みは見たことがない。
「来世では、笑えますか?」
「きっと笑えてるよ」
ルーリアの呟きに、答える声がした。
後ろを振り向くと花束を抱えているロドレームの姿があった。
「ロドレーム様」
「こんにちはルーリア」
ルーリアの額にキスを落とした後、「俺も、ルーリアの家族にご挨拶に来たんだ」と微笑んだ。それがなんだが嬉しくて、ふにゃっと微笑んでしまう。
「どうです? お母様の来世の姿、一緒に予想しません?」
「メティーチェイア嬢の姿は?」
「もう予想しちゃってるんですよねぇ〜」
「ふふ。そうか」
笑った後に、ロドレームは暫し考えるような姿をした。
「気の強いって言うイメージがあるなぁ」
「ふふ、そうですね。………でも、気が弱いっていう選択肢もありますね」
「あぁ、その可能性もなくはないね」
二人で笑えば、ロドレームは笑い切った後に二人の墓の前に花束を置いた。オレンジやピンクなど、見れば元気のもらえそうな色合いでルーリアは思わず花弁を見る。
「お姉様とお母様には、恋人は居るのでしょうか」
「そうだね………俺が、予想しちゃっても?」
「良いですよ」
微笑んでそう言えば、彼はパァッと笑った後に考え込む。
「予感だけど………メティーチェイア嬢は居る。夫人は居ないのでは?」
「では、まだ恋を知らない可愛らしい少女ですね」
「そうだね。夫人は、それが似合いそうだ」
墓を見てそう言う彼に、ルーリアは少し妬いてしまった。
「私、嫉妬深いんですから」
「え?」
「ロドレーム様の一番は………私、です」
視線を逸らしながらも腕に絡みつく。ロドレームはそんな可愛らしいルーリアに思わず手で口元を隠して、そのまま口付けた。
そして離れた後、何故かルーリアが驚いた顔をしていた。
「………どうしたんだい?」
「わっ、私がキスしたかったんです」
拗ねたような口振りに、ロドレームはポカンとした後すぐにクスクス笑う。まさか、そんな風に思っていたなんて。少し悪戯するような気持ちで、ロドレームは口を開いた。
「ほら。どうぞ」
「っ………もう無理ですから! また日が経ったら!」
「えぇ……」
「もうっ。えぇじゃないんですよ」
だが、日が経てば自分から口付けてくれるという事実が嬉しくて、口角が上がる。ロドレームはルーリアを己の胸元に引き寄せて、囁くように言った。
「きっと、二人とも幸せだと思うよ」
「っ………はい。そうだと、嬉しいです」
ルーリアは、自分からキスをした。
自分からはまだしないと言ったばかりなのに、だ。
ロドレームのポカンとした顔を見れたから、どこか得した気分。
「日が経てば、じゃなかったのかい? 嬉しいけど」
「んふふ。……今日だけ。今日だけ、特別です」
そう。幸せに、過ごしていてください。
恋をしているのなら、その人をずっと好きでいて欲しい。
ただ、初恋もその後の恋をするのも、それは人それぞれ。
亡くなって人も、誰かが覚えていれば消えない。
どうか前を向き、そして生きて。
「ねぇロドレーム様」
「何かな」
「言いたいことがあって」
「偶然かな。俺も、言いたいことがあるよ。せーので言おうか」
「はいっ!」
二人は「せーのっ」と言った後、口を揃えて言った。
「「大好き」」
これにて、この作品は完結です!
拝読頂きまして、ありがとうございました!




