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少しこれまでの仕返しがしたい

 ある日のこと。

 城下街の目立たないベンチで、二人座っていた時のことだ。

 距離をゼロにして詰めてくるロドレームを、何故こんなに恥ずかしいことをさりげなく出来るのだろうと思いながらも、ルーリアは決してその距離を開けようとはしなかった。


「…………ロドレーム様」

「なぁに? ルーリア」


 甘ったるい笑みを溢し、隣に居るルーリアへ微笑む。頬を真っ赤に染めたルーリアは、顔を逸らすと同時に「あの〜……」と前置きして質問した。


「ロドレーム様は、どうしてこんなにも恥ずかしいことを平気で……?」

「ん〜? 恥ずかしい、かな」


 心底意外という雰囲気を纏うロドレームに、ルーリアはムッとする。だがその耳は薄桃色に可愛らしく染まっていて、ロドレームは謝るどころかクスッと宝物を見るような眼差しを向け笑った。それを見て、頬を膨らませてしまったのは仕方ない。というか、どうして彼はゼロ距離なのに平気そうなのだろうか。


(あぁもう! いつもいつも、やられっぱなし!)


 毎日こうやって会う度に、ゼロ距離になり唇を重ねられる。

 恥ずかしいし嬉しくもあるが、同時に自分だけやられているという苛立ちも出て来た。


(私だって、少しくらいやり返したいのに!)


 そう思い、ロドレームから地面へと視線を向ける。

 子供のように可愛らしい行動を取るルーリアを見て、彼はクスッと笑った。


 〜〜*〜〜*〜〜


「———と、言う訳だから。お願い、ネオ!」


 ロドレームにやり返したい一心で頼んだ相手は、己の契約精霊、ネオである。主人が従者に頼むのは思ったよりも多い。ネオは従者ではないが、別に良いだろう。従者みたいなものだと思う。


「うぅん? まぁ、良いですよ! ルーリア様のお願いですから!」


 かつて、魂の祠にて母親に泣いているところを行動によってルーリアに救われたネオは、彼女に恩を感じている。可愛らしく恋する乙女な御主人には、自然とお願いを叶えてあげたいと思うのだ。特に、彼女の恋愛事情には関わりたいと思っているため、今回のお願いは大歓迎だった。


「ありがとうネオ! じゃあ、今夜で良いかしら」

「うん! 良いですよ、ルーリア様!」


 ネオは指定した人間を己が想像した夢の中に呼び寄せることが出来る。それは三人でも複数人でも可能で、もちろん二人でも平気だ。そのネオが作った夢の空間で、ルーリアは一度、ロドレームに側に居たいと告白したことがある。


(何が良いかな、どういう夢なのかな。……楽しみだなぁ)


 夢の内容は全面的にネオに任せてある。

 どんな物語なのか、どんな世界なのか、とても楽しみだった。


「おやすみなさい」

「おやすみ、ルーリア様〜! フフッ!」


 〜〜*〜〜*〜〜


『………来た、かな』


 ベッドの中、意識が途切れた記憶がある。声が少しばかりエコーになっていることもあり、ここはネオの作った夢の世界ということで間違いないようだ。


(どうよ! 内容をちゃんと把握してやるわ!)


 ロドレームの姿はまだ見当たらない。違う場所に居るのか、まだ夢の空間へ入っていないのか。だが、夢の内容を把握するのに時間が掛かりそうなため、それは案外助かった。

 今、夢のルーリアはドレスを着ている。

 煌びやかな大広間の中心に立ち———見知らぬ男性と、踊っていた。


『ルーリア嬢。貴女はなんて素敵なんだ』

『ありがとう、ございます』


 微笑んでそう言えば、十六歳くらいの令息は頬が薄桃色に染まる。


『貴女に今、婚約者が居ても、君を慕っている者は多いだろう』


 そう言う令息は、社交ダンスの最中だと言うのにルーリアの頬に手を添えて来た。どうやら、こちらの令息は貴族社会のルールを知らないようだ。


(私には婚約者が居る。それはこの世界でもおんなじ)


 それなのに、婚約者が居る身の令嬢の頬に手を添えるなんて。

 ルーリアが居るからなのか、この二人は結構注目されていた。その中でそんな行為をするのだから、恥知らずにも程がある。だが、それを声に出したりはしない。


『ロドレーム様以外にはときめかないもの……、なのね』

『? 何か仰りましたか?』

『いいえ。なんでも』


 微笑みを貼り付ける。令息はダンスに集中しようとする度にルーリアの微笑みに魅了されているようだ。これが正夢(まさゆめ)にならないことを願う。

 ダンスが終わり、ルーリアは令息に向かってカーテシーをする。令息も、ルーリアに向かって胸に手を添え、形式的なお辞儀をした。


『とても、良いダンスでしたわ。ルーリア様』

『えぇ本当に!』

『あの華麗なダンスは、努力の証ですわね』

『あ……ふふっ、ありがとうございます。皆様っ』


 夢と言えど、言動はこの夢に招かれた本人に任されている。そのため、今まで出来なかったことが出来るようになったり、逆に出来ることが出来なくなったりはしない。だから、ダンスが華麗を言われるのは夢とわかっていても素直に嬉しかった。

 そして、ルーリアは己の婚約者の名前を探す。


『そう言えば、私の婚約者はどこか、知りませんか?』

『ロドレーム殿下のことですか?』


 夢でもロドレームはルーリアの婚約者らしい。

 これは想定内だ。


『皇太子殿下でしたら、あちらでご令嬢と踊られておりますね』


 令嬢が示してくれた場所を見れば、隣で他の令嬢と踊っているロドレームがいた。彼は、今来たみたいだ。何故自分が皇城の大広間で踊っているのか不思議に思い、辺りを見渡す。だが、すぐにここは夢だと理解して納得していた。


(でもロドレーム様、ネオが作った夢だとは気付いてないみたい)


 それは結構、助かる。バレてしまえば、終わりだ。ロドレームにはネオが作る夢はエコーが付いていると言っていないため、バレない他ないだろう。


『っ………』


 そうして思っていれば、彼と目が合った。ロドレームは目を見開き、ダンスが終わったところでこちらへ早歩きで向かって来る。ダンスを中断しないのは、彼の皇太子としての礼儀がきちんとしているからだろう。


『ルーリアっ………』

『ルーリア様、皇太子殿下がこちらへ向かって来ますわ』


 一人の令嬢が興奮気味に言えば、他の令嬢も反応する。

 黄色い声が小さく渡り、ルーリアは苦笑した。


『ロドレーム様』

『ルーリア………』


 夢のルーリアだろうに嬉しく頬を緩ませるロドレームは、ルーリアが見たことのない表情をしていた。夢と言っても、この夢に招かれた人間は皆、自分の意志で動くし表情も変える。だけれど、彼は今、ルーリアが見たことのない表情をしていた。

 まるで、遠距離の恋人に会えて嬉しいと幸せそうに泣き笑うみたいに。


『ロドレーム様。皇城の庭へ、行きませんか?』

『え? う、うん。良いよ』


 腕に絡みついて、ルーリアはそうロドレームを誘う。恥ずかしがり屋のルーリアも、現実ならば腕に絡みつき他人が居る目の前で自ら誘うという大胆な行いはしないだろう。だが、現実ならば。夢なら、ルーリアは今のように大胆に行動を取れることが出来る。それに、ネオが作ってくれた折角の機会を、ルーリアは失いたくなかった。

 あのルーリアが何をしても幸せそうに微笑むロドレームの顔を、この夢で真っ赤に染めてやるとルーリアは決意した。


『ねぇ、ロドレーム様。この庭、素敵ですよね』

『っ、うん。そうだね。自慢の庭だ』


 場面は好きにルーリアが動かせる。この夢の本当の管理者はネオだが、契約している主としてルーリアもなんでも自由に場面を移らせることが出来るのだ。だが、場面を移らせるだけで、世界の構造はネオが作る。


『んふふ。………私、幸せです』

『うん。そうだね』


 今思ったことを口にすれば、ロドレームは現実でいつもルーリアに見せている蕩けるような笑みを見せた。まだ腕を絡ませたまま、ルーリアはその彼の腕に頬を当てる。


『っ』

『…………』

(良いよね。夢なんだもの。大胆に、大胆に)


 これまでドキドキさせられた仕返しをするのだ。

 まずは、言葉攻めだ。


『えへへ。貴方と、出会えて良かった』

『う、うん………』

『ロドレーム様。………………………、大好き』


 彼の耳が赤くなったところで、ルーリアは腕を解き微笑みかける。


『ロドレーム様、疲れてません?』

『え? あ、うん。そうだね。………だから、こんな夢を見てるのかな』

『ふふ。だから、どうぞ。こちらへ』


 ルーリアは礼儀正しく、座り、己の膝をポンポンと叩く。その意味は、察する能力が高いロドレームならすぐに分かるだろう。


『————⁉︎』


 急に頬が紅潮する彼に、既に顔を真っ赤にしているルーリアは微笑む。


『来ないんですか、ロドレーム様………?』

『っ! わ、分かった。行くよ、行く………!』


 やはり、彼の真っ赤になった顔は大胆な行動の方が見れる。

 ロドレームはルーリアの膝を枕にし、ルーリアを下から見た。


『下から見ても、かわい……』

『っ』


 思わず漏れたような言葉に、ルーリアは頬が紅潮し固まる。だがすぐに(仕返しよ。これまでの仕返しをするの!)と気を取り直す。

 恐る恐る、その頭を撫でた。優しい手付きで。


『……………』


 そうすれば、彼もルーリアの髪に触れ始める。

 そうして、穏やかな時間を過ごしていた時、ルーリアは我に返った。


(いや、穏やかに過ごしちゃ駄目でしょ! 今回は!)


 そう思い、頭を撫でるのをやめる。

 首を傾げたロドレームに、ルーリアはそのまま。


『———!!?』

『——あいしています、ロドレームさま』


 キスを落とした。

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