女装と男装(2)
「良い。すんごい良い」
「は、はぁ……」
目を輝かせているシャーロットの言葉に、気の抜けた返事を返してしまう。
シャーロットは着せ替えが好きなだけだ。そう、決してそのような趣味がある訳ではないのだと、ルーリアは己に言い聞かせる。
「これ、ロドレーム殿下が見たら反応が面白そうよね」
「そうね〜」
腕を組んで苦笑するシェリルーライヤに、アレクサンドラが穏やかに頷く。
工夫してルーリアの成長済みな胸を隠し、令息が社交で着ているような服装を、ルーリアは着ていた。因みに、長い髪は緩めに結び、長髪のイケメンになっている。この男装には、将来は服のデザイナーになりたいシャーロットがあまりにも乗り気だったため、ルーリアが男装の実験台になっているのである。
「えっ⁉︎ ロドレーム様に、見せるのっ⁉︎」
「ルーリアちゃんが良いなら、是非一度、絶対に見せたいわ」
シェリルーライヤがニヤッと笑いながら言う。
ロドレームがルーリアの男装を見れば、男性同士の恋愛になるのは予想付いている。そんな趣味は三人にはないため、ロドレームには自重してもらいたい。そのため、自重することを約束してもらえたら是非とも見せたいのだ。尤も、ルーリアの意思を尊重する。
「えぇっと………、ロドレーム様が口付けをしないのなら、見せたいかな……」
「よし、決まりね!」
「決まったわ〜」
「えっ、ルーリア? 殿下に見せるの? 大丈夫……?」
「だっ、大丈夫ですって! シャーロット」
ルーリアを襲わないか心配してくれるシャーロットに向かって苦笑する。そんな二人を他所にシェリルーライヤとアレクサンドラは「じゃあ、早速」と使いを出す。
「ロドレーム皇太子殿下に聖女邸に来てって言伝をお願いね〜」
「あっ、それと……自重してくださいとも言っておいて」
「はい」
メイドは頭を下げたと思ったら、すぐに皇城へ向かった。
「さてと。反応が楽しみね」
「えぇ。そうね〜」
「いや、本気で心配した方が良いのでは」
三人の会話に、ルーリアは自分が何を了承してしまったのかを後悔した。
〜〜*〜〜*〜〜
「ロドレーム殿下。聖女邸の使いから、伝言が」
「どんなだ?」
執務室にて。執務をこなしていたロドレームは、従者からそう話し掛けられる。
伝言の内容を願うと、従者は気まずそうに言った。内容がアレなのだろうか。
「使いの者によりますと………」
従者から聞かされた話はこうだった。
『至急、聖女邸へ来てください。尤も、自重はしてください』
内容は話してくれず、聖女邸へ来いとだけが従者の口から吐かれる。
自重、という言葉にロドレームはルーリアに関係することなのだろうと思った。少し喜んでしまう自分が怖い。
「どう致しますか?」
「もちろん、行くよ。自重は……思い当たることがある」
「そうですか」
「あぁ。愛する婚約者に関係することだろうよ」
〜〜*〜〜*〜〜
目を見開き、口をポカンと開ける姿でも美形と言えた。
「ルーリア………かな?」
「は、はい。ロドレーム様。十四歳です、貴方の婚約者です。……女性です」
ロドレームからの僅かに熱い視線を感じつつ、ルーリアは視線を逸らす。気恥ずかしく感じて、ロドレームに見られているという事実に首から上が熱くなるのを感じた。
「どうでしょうか殿下。お気に召されましたか?」
「え。………う、うん?」
「自重してくださいっていう言葉の意味が分かりましたか〜?」
「それは十分に分かった」
ルーリアも恐る恐るロドレームと視線を交わし、沈黙が続く。
その沈黙の間も、先輩たちは楽しむような視線を二人に注いでいた。
「かっ、可愛い。格好良いよ。ルーリア」
「はい………ぃ。ありがとうございます………」
ようやく言葉を交わした末っ子聖女と皇太子の間に、シェリルーライヤが入った。
「どうです殿下。自重、したくないですよね」
無礼、ということを気にせず、ロドレームはコクコクとシェリルーライヤに頷く。そこ頷くんですか⁉︎ とルーリアは吃驚だが、後の二人は微笑ましげな視線で会話を見守っていた。
「でもなぁ………、ルーリアを女子に戻すのも気が引けますねぇ」
「………………シェリルーライヤ嬢」
「さてっ! どうします? 殿下」
わざとっぽいシェリルーライヤの企みに乗り、ロドレームは頷いた。
「はいっ! 決まりですね。無礼をお許しくださいね!」
「………あぁ。許す」
「シェリルーライヤっ、私、サイズの合う服探して来る」
「お願いね」
ロドレームとルーリアは、二人見詰め合い逸らすのを繰り返すのだった。




