56話 地震の被害【ロドレーム・ココノア・フィンシーカ】
ルーリアが己の部屋を飛び出していった直後、ロドレームは優秀な頭が働いた。
(どうして。どうしてルーリアは自分を傷付けたんだろう?)
疑問に思う。
彼女は、痛みに鈍いところがある。それでも破片を抜き切った時には辛く、苦しそうに顔を歪めていたのを間近で見ていたロドレームは知っていた。
本人はそれに気付いているのか気付いていないのか。
「ロドレーム殿下、入っても宜しいでしょうか」
「入室しても良いが、足元に気を付けろ」
ノックと共にそう入室の許可を求めるロドレームの従者に、彼は足元に気をつけるように注意を聞かせた。この従者の役目はロドレームの安全を確認しに来たのだろう。
ルーリアともすれ違ったはずだ。
「失礼致します———………これは、派手なモノになりましたね」
従者は、自室に広がるシャンデリアの破片を見てそう呟いた。
「だろう? 俺は大広間に行くことにするが、清掃係はいるか?」
「親や恋人の安全確認に行っている者は何人かいますが、数人は城におります」
「三人くらいで足りると思う。掃除をしてもらおう」
「かしこまりました。ロドレーム皇太子殿下」
腰を軽く曲げて左胸辺りに右手を添える従者に、ロドレームは「頼んだよ」と信頼できる心優しい笑みを浮かべた。これが彼の扱いに長けていないメイドなどであれば、一秒も保たずに気絶しそうな完璧過ぎるイケメンの笑顔だった。
ロドレームは、笑顔の次は真剣な顔へと戻る。
(ルーリアと仲直りもしたいが、まずは地震も収まったことだしこの国の修復作業を父上と相談するべきだろう。だが、その前に大広間に顔を出すか。国民の安全を確保した方が良い)
そして、ロドレームは無意識に早歩きになりながら大広間に向かった。
〜〜*〜〜*〜〜
「シェリルーライヤ、国民の様子は?」
「あ〜………殿下。国民の皆は大丈夫なんですが、その………」
「なんだ? 言いにくいことがあっても、言って欲しいんだが」
とても微妙な顔をしてロドレームから目線を逸らすシェリルーライヤ。何かあったのだろうか、と思ったと同時に思い浮かんだ。
「もしかして、ルーリア……」
「………はい。そのルーリアが、今聖女であることを披露しました。きっと、聖女だと公表しなければ城下街の皆はともかく貴族には警戒されるかもと判断したのでしょう。まぁ、それは当たっているのですが」
それはそうだろう。聖属性と二属性持ちだと貴族に言っても腹の探り合いが日常茶飯事になっている貴族としては、それは怪しい商会に顔を出すのと同じだ。彼女に治療してもらったらもらったで、色々後遺症が残るかもしれない。それならば、医者に診てもらった方が絶対に良いと。
「アレクサンドラが発表のお手伝いをしたため、貴族たちも聖女と認めたようですよ」
「そうか………それなら、良かったのだが」
アレクサンドラはあの四人の中で一番最初に聖女となった、所謂先輩だ。そのため貴族との関わりも多々ある。貴族は彼女を信頼しているため、ルーリアが聖女だと信じたようだ。
「それで、ルーリアは今どこに?」
「ルーリア、は………早速、皆の怪我を治しております。完璧に」
「そうか……完璧、か」
これでは、医者の役目がなくなってしまう。ロドレームは頑張って皆の怪我を治しているルーリアにそんなことを言うのは抵抗があったため、到着してくれた医者には病気の民の面倒を見てくれと言っておこう。ルーリアから、「病気は治すことは出来ないんです………」と言われている。
「どうかしら。……足が骨折なんて、とても痛いんでしょうね………。これまでよく、頑張ったわ」
「あ………ありがとうございます。ルーリア様」
ルーリアは、六歳くらいの令息の骨折を治し、元気付けている最中だった。ロドレームはそんな彼女の側に駆け寄り、「ルーリア」と声をかけた。
「あっ………ろ、どれーむ様」
「ごめんね。さっきは感情的になり過ぎてしまった。調子はどうだい?」
「………! いえ、私の方こそ……。調子は順調ですっ!」
表情と声の弾み方からして、本当に順調のようだ。
ロドレームは微笑み、「良かった」と言った後に令息に向き直った。
「君は………エヴェン伯爵家の令息か。骨折は、もう大丈夫なのかい?」
「は、はいっ、皇太子殿下。この国の王となる方にご挨拶を……」
「大丈夫、大丈夫だ。治ったとはいえ、暫くは安静にしておいた方が良い」
形式的な挨拶は非常事態である今では不要なもの。まずは挨拶よりも優先すべきことがあるからだ。
「そうですよ。安静にしておいてくださいね」
「あ、ありがとうございます……皇太子殿下、新・聖女ルーリア様」
令息は、有難いというように心から微笑んだ。
ロドレームは令息に微笑んだ後、ルーリアに視線を移す。
「じゃあ、俺は父上のところへ行って来るよ」
「はい。私も……行くところがあります」
二人手を振り別れ、ロドレームは父、皇帝のところへ向かった。




