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54話 行きたい彼女と心配で行かせたくない彼

 目を覚ますと、そこは見慣れない部屋の中だった。

 そこにはシャーロットが自分の手を握っていて、ルーリアはベッドに横たわっている。

 いつの間にか、寝間着に着替えもさせられていて、裸足だ。きっとシャーロットがやってくれたのだろう。


(そうだ。夢の中では、目覚めたら私の部屋だと思ってたけど………)


 自分は、ロドレームを身を傷付けてまで守った。彼の無事を確かめたい。

 するとルーリアが身じろいだことに気付いたのか、シャーロットが「ルーリア?」と眠たそうな声で己の名を呼んだ。ルーリアは、起き上がる安心させるように微笑んだ。


「なんですか? シャーロット」

「え、ルーリア………? 目ぇ、覚めたの?」

「はい。もうバッチリ」


 シャーロットは、肩の力が抜けたようにふにゃりと笑った。


「そうだ。皇太子殿下呼んでくるから、ここで待ってて。因みにここ、殿下の部屋だから、探索して何か見付けちゃえば?」

「え、えぇっ⁉︎」


 最後の言葉に、ルーリアは肩が跳ねた。ロドレームの自室と聞き、ゆっくり出来るはずがない。少し、ロドレームの部屋に来るのがこんな感じで落胆した。が、今はそんなこと言っている場合ではない。


「そわそわしない。じゃ、行ってくる」

「は、はい!」


 シャーロットが手を振りながら退出した後、ルーリアはそわそわしないと言われたがそわそわしてしまった。そういえば、もう地震はしていない。起床して窓を見ると、そこには———。

 建物が、崩れ落ちたりしていた。もう煉瓦しか見えない。


「あ、あぁ………」


 絶望した。

 自分が守るはずの国が、一つの災害によって平和とは言い難い景色になった。膝から崩れ落ちると同時に、このままでは居られないとルーリアは決意を固める。

 すると、ロドレームの勉強机に一通の手紙が置いてあった。


「『ロドレーム皇太子殿下へ』」


 それを読み上げる。封筒の裏面を見ると、『メティーチェイアより』と書いてあった。嘘でしょ、とルーリアは絶句した。きっと、まだメティーチェイアが逮捕されてなかった頃に姉がロドレームに送ったものだろう。

 少しの好奇心で、ルーリアは封筒を開けた。


『ロドレーム皇太子殿下にお礼申し上げたく存じます。まずは、婚約者候補にして頂き感謝致します。そして、お願いがございますわ。

 実は、この手紙を書いた日は妹ルーリアの十六歳の誕生日である四月二十四日なのです。それで、誕生日ケーキを食べたんですの。とても美味しかったですわ』


 とてもじゃないが中身のない、前の姉らしい手紙だとルーリアは苦笑した。

 ルーリアは、その時ケーキを食べなかった。本当は食べたかった。だって、少ししか食べれない大事な大事な食料だ。自分の誕生日は一回も祝われたことがない。とても、嫌な思い出しかあの侯爵邸にはない。夢の中でメティーチェイアと仲直りした時は、それは夢の中だからだ。現実の侯爵邸には、何も思うところはない。

 ルーリアはベッドに向かった。


「いたっ………」


 見ると、シャンデリアの破片が足裏に刺さっていた。今は収まっている地震の時に、シャンデリアが落ちてきたのだろう。抜き取るのはとても痛そうだが、やるしかないのだろうか。

 ルーリアはシャンデリアから少し離れたあと、女の子座りをし破片が刺さっている方の足裏を見た。


「スゥ………………、ハァ……………」


 大丈夫、痛いのには慣れている。そう自分に言い聞かせながら、そのシャンデリアの硝子で作られた破片を取ろうとした時に。


「ッ…………」

「ルーリア‼︎ ………っ! どうしたんだい、それは………」


 バァンッ、と扉が開き入室して来た者はロドレーム。彼はルーリアの片足裏に突き刺さる五センチほどの破片を見ると、さぁと顔が青ざめた。

 すぐに状況を把握し、「ごめん。シャンデリアが落ちていたなんて………」とむしゃくしゃすると言いたげに前髪をぐしゃぐしゃやりながら謝罪した。


「だ、大丈夫ですよっ。これくらい、なっ、慣れ………」


 慣れていますから、そう言おうとして口を閉じた。それを言えば、ロドレームを傷付けてしまう。だがロドレームは「慣れ」と言った時点でもう悟ったようで、女の子座りをしたままのルーリアにシャンデリアを避けながら近付き、抱き締めた。


「お願いだから、無理しないで。あとで医者に()てもらおうよ。だから、君の手では絶対に抜かないで。抜くのが失敗すれば、余計に君は痛い思いをする…………」

「でも……私は回復魔法を使えるから、みんなの怪我を治せる………」


 ルーリアの言葉に、ロドレームは複雑な顔をして黙り込む。彼はルーリアに無理をして欲しくない、痛い思いをして欲しくない。でも、帝国民の皆の怪我を治してあげたい。幸い、死者はいないみたいだ。重症の人はいるそうで、ルーリアはその人たちを治してあげたい。

 自分でも、自分が痛みに慣れているとはいえ傷付くのは嫌だ。だから二人の心情は同じなのだ。


(それでも…………)


 治してあげたい。ロドレームが愛する、帝国民たちを。

 だからルーリアは無理矢理にでもその破片を抜いた。勿論、覚悟を決めて。


「イッ、タァ………‼︎」

「ルーリア⁉︎ ねぇ、無理をしないで。お願いだ………」


 ルーリアは抜こうとすると、その足からはだらだらと出血する。ロドレームは泣きはしないものの、既に涙目だ。本当にルーリアが傷付くのが嫌なのだろう。


「ロドレーム様………、大丈夫。私は回復魔法を使えるんですよ?」

「でもっ! いくら君が痛みに鈍いとか、回復魔法を使えるとはいえ! 俺は、ルーリアには、これ以上傷付いて欲しくないんだ…………」


 ロドレームが自分を心配してくれることはとても嬉しい。

 でも、ルーリアは無理矢理抜こうとも、帝国民を助けたい。それが自分の最初の役目だと思うから。

 ルーリアは、大量の血が出血しようとも破片を掴んだ。

 そしてやっと、やっと破片を抜き取った。


「ルーリア‼︎」

「………大丈夫ですよ」


 回復魔法を使い、ルーリアの足裏の傷は綺麗さっぱり無くなった。

 床には中くらいの血溜まりが出来ているが、足裏の怪我は無くなった。つまり、もう傷口は塞いだ。聖魔法はとても凄い。

 そして、先程の痛々しい表情を感じさせない笑みで言った。


「ほらね」

「…………ルーリア……」


 呆然とするロドレームの頬に恥ずかしがりながらもキスを落とすと、ルーリアは退室した。帝国民の皆の怪我を治したかったのもあるし、単純に恥ずかしかったからでもある。

 ロドレームの方を振り返らないで行ったので、ルーリアは気付かなかった。

 彼が、悲痛な顔を隠そうと必死にもがいていることを。

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