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53話 愛する姉と聖女邸!

 ルーリアが泣き止んだ後、聖女邸に向かった。

 聖女邸もいつも通りの景色で、シェリルーライヤとアレクサンドラ、シャーロットが話していた。そのソファに座っている三人に対して、メティーチェイアは深く頭を下げていた。それを、ルーリアが遠い目をしながら見ているこの光景は一体。


『お、お姉ちゃん……もう五分くらい経ちましたよ?』

『何回頭を下げても足らないわ。聖女様に対して暴言を言うなんて………』

『も、もう十分伝わってますから、ねっ?』


 説得に三分はかかった後で、ようやく納得してくれたメティーチェイアを連れて、ルーリアは一度自室に戻った。


「ふぅっ………お姉ちゃんもどうぞ」

「え? で、でもこれは聖女様専用のベッド……」

「良いんですよ。どうぞどうぞ」


 ベッドにダイブして、姉にもそれを促してみたがやはりメティーチェイアは遠慮した。なんか、色々と変わり過ぎやしないだろうか。

 別に、それのお陰でこの夢が楽しくなったのだが。


(これが、終わったら。私とお姉ちゃんはもう、断頭台でしか会えない)


 そんな最後は、姉にとってもルーリアにとっても屈辱的だった。

 ルーリアのお願いならば、ロドレームは渋々聞き入れてくれるだろう。だが、それも渋々だ。皇太子として不敬罪などの色々な罪を積み重ねて来ている者の処罰は決まっている。

 死刑だ。積み重ねているのだから、そんなの当然なのだ。


「私の、お願いです。この夢を一緒に楽しんでください」

「そんな……もう充分、楽しんでるわ」

「もっともっと、もーっとです」


 真剣な顔でそう告げれば、メティーチェイアは勇気を出したという表情でベッドにダイブをした。隣に来たメティーチェイアに、なんだか嬉しくなる。

 この夢の中でも、姉の死罪はどこかへほっぽってはいけない。そう思った。

 それでも楽しむのが、ルーリアだから。


 〜〜*〜〜*〜〜


「あ、これですこれ。私、この場面を音読してたんです!」


 ルーリアの書斎にて、ロドレームに告白すると決めた夜に声に出して読んでいた作品を、メティーチェイアに見せた。それもルーリアが音読していた最終話の場面。そう、ずっと片想いしていた幼馴染に告白をする時だ。


「これ、一緒に音読しませんか? 好きな役をどうぞ」

「えっ? どの場面?」

「ん〜……そうですね。初めの……幼馴染と再会した時からいきましょう!」


 ナレーターはルーリア。その他ルーリアの役は、女主人公だ。

 メティーチェイアは男主人公のみだ。


「それじゃあ……ゔっうん。………プロローグ、未来設計図」


 ルーリアは、微笑みながら楽しそうに言う。だがその声は、落ち着いていて、冷静で、聞きやすい声だった。




「『ねぇ、いつかまた、会える?』」

「『うん……うん。いつかまた、きっと会えるよ』」


 目を潤ませながら指を絡める二人、そして少年の後ろには荷物がたくさん詰め込まれている大きな馬車があった。

 少年の名は、アルザ。少女の名はリーフェと言う。

 二人は幼馴染で、今日はアルザが隣国に送り出される日だった。リーフェとアルザにとっては、それは残酷で怖い、一日だった。


「『ばいばい、リーフェ。………また、会おうね』」

「『……………うん。ねぇ、これあげる。私たちの未来設計図』」

「『僕たちの未来設計図?』」


 アルザに差し出した何枚かの紙は、少しだけリーフェの涙の粒で所々滲んでいた。

 アルザの言葉に、リーフェは無言で頷く。


「『私と、アルザ君のこうなると良いなっていうのをたくさん積み込んだ、紙だよ。それで私未来を妄想するのが好きみたいで、何枚も書いたんだ。こうなるために、前向きに生きたいなって思って』」

「『そうだね………よしっ、じゃあ約束!』」


 リーフェは涙腺が刺激され続けているが、涙をこぼさないように首を傾げる。


「『これから先の未来。僕は絶対に君に会いに行く。そうなるように、前向きに生きるよ』」

「『…………! 私も! アルザ君にまた会えるように、頑張るから!』」


 二人は、小指を絡めて泣きたくなるのを堪え笑顔でさよならをした。




「なんだか………泣けるわね」

「うん………お姉ちゃんも、絶対に運命の人を見付けてね」

「何言ってるの。私は近いうちに処刑されるのよ?」


 寂しそうに微笑むメティーチェイアに悲しくなる。もっと早く、姉が心を入れ替えていたら、もっと早く、自分が姉と仲良くなろうと努力をしていたら、きっと一緒に救えたかもしれないのに。だからせめて、祈らせて。


「私は、女神様に月に一度祈ってるんですよ? どうか、この先ずっとこのフィンシーカ帝国が平和でありますように………って。だから、その時に同時に祈らせてください」

「?」


 物語のリーフェのように、ルーリアの涙腺が刺激された。だが、泣くわけにはいかない。余計にメティーチェイアに気を遣わせてしまう。メティーチェイアの方が不安で怖いだろうに。だから自分が泣くわけにはいかないのだ。


「メティーチェイアお姉ちゃんが来世、幸せな家庭に生まれて、幸せに育てられて、運命の人となんでも良いから些細な約束をして、それを果たして、その人と幸せに結ばれますように、って………」

「……………」


 ポカンと口を開けた後に、メティーチェイアは幸せそうに柔らかく微笑んだ。


「ありがとう」


 〜〜*〜〜*〜〜


 とうとう、お別れの時間が来た。目が覚めればルーリアは豪奢な自室。そしていつも通り侍女に着替えを手伝ってもらい、先輩達と祠に向かう。

 目が覚めればメティーチェイアは殺風景を保っている牢屋。そしていつも通り悪女のふりをして、母の惨めなところをただただ見守る。そして、一日ずつ近付いてくる処刑日を待つ。


「ばいばい、お姉ちゃん」

「さようなら、ルーリア。大切な妹」

「うん。大切なお姉ちゃん。ずっと、ずっと祈るからね」


 そう、メティーチェイアが来世、幸せな家庭で幸せな未来を掴み、もしそこに妹が居たならば今度こそは優しく接して、大切に育ててあげて欲しい。そしてメティーチェイアが老後まで生きられるようにずっと祈る。

 そしていつか、そのメティーチェイアに会えたら良いなと思った。


「「……………」」


 姉妹は、それぞれ目が覚めるまで手をぎゅっと繋いでいた。

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