51話 侮辱の気持ちは、もう一ミリもない
メティーチェイアが罪を認めるお話です。
メティーチェイア・コキリ・セロライハラの人生は、醜いと自分でも思う。
妹であるルーリアの心身共に傷付けて、鞭で打ったことも、平手打ちをしたことも数え切れないほどにあった。申し訳ないし、謝って済む問題じゃないことも分かっている。
牢屋の中、母であるギュアカーラお母様は今でもこの牢から出して、出しなさいと醜く叫び、醜く生きているわ。
それはわたくしもそうで、心を入れ替えたいと思っていてもできない愚か者。
ルーリアは、こんなわたくしを受け入れてくれるかしら……。
少なくともロドレーム皇太子殿下は、わたくしたちを受け入れてくださらなかった。当たり前、だけれど。
———分かっていたのよ。
わたくしが聖女であるルーリアと、信頼の神を侮辱してしまったこと。それがどれほど重罪か、そんなのは幼い頃に家庭教師から言い付けられていた。
その頃のわたくしは、「そんな愚かな言語を自分が言うのかしら」と、疑問に思っていた。それでも、わたくしはルーリアを傷付けた、精神も身体も、青痣ができるまで。
わたくしとお母様の牢屋を見張っていた騎士たちの噂話に耳を傾けると、ルーリアは自分の魔法でその傷を治したと言っていたわ。
それを聞いて、心底ホッとした。
お母様はイラついていて、騎士たちに言葉もまともに聞こえないような、キーキーした声で訴えていたわ。「ルーリアは平凡な女」「そんなこと、できるはずがない」とね。わたくしは、その時自分が嫌になった。
だって、わたくしも心が汚れていた時、あんなキーキー声で叫んでいたと言うことでしょう? お母様のように、惨めな姿をした、令嬢とは思えない姿。
令嬢とは、清く正しい心を持ち、規則正しい行いをする。誰にも平等に、時には裏の顔と表の顔を使い分ける。そんな人を令嬢と言うの。
その理想を形にしたのがルーリアだと、わたくしは思う。
「わたくしは、ルーリアとは違う」
真夜中。お母様が牢屋で寝ているのを見ながら、わたくしは呟いた。真夜中が、一番わたくしの心を落ち着かせるのに良い時間だと、最近気付いた。もちろん、静かで豪華な部屋も好きだったけれど、わたくしにはとても似合わないわ。
今のわたくしの姿は、埃を被った髪に、うろんげな瞳。華奢な身体は細過ぎて、空腹。朝昼晩食べ物は出されるけれど、腐ったパンと少ない野菜。野菜は良いけど、腐ったパンは絶対にお腹を壊すものだ。お母様は野菜しか食べてない。その代わり、わたくしが腐ったパンを食べている。毎回お腹を壊しているけれど、生きるためにも食べなくちゃいけない。
そして、その痩せ細った体のまま断頭台に立たされる未来。
これが、わたくしにできる精一杯の償いだった。
「でも悔いはないわ………」
できることなら、ルーリアと仲直りをしたい。けれど、そんなの世間の誰も認めてくれないだろう。ロドレームも、シェリルーライヤも、アレクサンドラも、シャーロットも、皇帝も。
自分が犯してきた罪は、それほどに重罪。
それでも突然「心を入れ替えましたわ」なんて言っても、ただ不気味がられるだけ。だからわたくしは、あの時ロドレーム殿下に言葉をきつく返した。
「どうして!」と昔の自分をイメージして強い言葉も使ったし、「皇太子!」と不敬な言い方をしてでも、心を入れ替えたとバレたくなかった。
「ふぁ……そろそろ、寝ましょうかしら」
(ルーリアに、会えますように)
そんな夢のようなこと叶わないけど、そう願いながらわたくしは目を閉じた。
でもそれで、まさか夢の中で会えるなんて、思いもしなかった——。
次の話からは、50話の続きです!
近々、この物語のタイトルを変えようと思います!(変えないかもしれませんが)
『赤黒い』は必ず付けるつもりです!




