47話 慈悲は与えられない
ロマンチックなこの場所で、そういう話を出すことは何となく悟っていた。深い口付けをされた時も、リフミのパン屋に赴いた時も、レンと一緒にクロワッサンを食べていた時でさえ、ルーリアの心の片隅には不安が芽生えていたのだ。
今、ロドレームから告げられた、『義姉と義母が断頭台にて、処刑を行われる』という事実。それも何となく分かっていたことだ。
「知っていて良かった。いや、悟っていたのかな?」
「………はい、そうですね」
「ルーリアは鋭いところがあるかなねぇ」
困ったように微笑んで、ロドレームはルーリアを褒めた。複雑な感情を持つ中、ロドレームは告げた。
「話を戻すね。断頭台の件について、ルーリアはどう思う?」
「………義姉と義母には、鞭で躾を施されながらお世話になって来ました。それでも、大してお世話はされていません。それはロドレーム様も承知だと思います。前までは死んで欲しいとも思ってしまっていましたが、いざその時となると………その、悲しいとは少し違う、怖いんです」
「怖い?」
何故と顔に出ているロドレームに向かって、首を縦に振る。
そう、怖いのだ。断頭台の刃が自分にいつか向けられるのではないか。二人の処刑が行われた後、自分に恨みを抱いているメティーチェイアとギュアカーラに、天から何かされるのではないか。
(そんなことは、絶対ないと思ってても……私は、心配してしまう……)
もしもルーリアが恐れていることが起きたら、ロドレームや先輩の聖女、皇帝に申し訳が立たない。まだ何も実績を成してないとはいえ、一国の聖女が一人亡くなれば、ルーリアを知っている人誰もが悲しむだろう。そして、天国に行って義姉と義母に笑われるのだ。
「いつか……自分にも天罰が来るのではないかと、そう思うんです」
「どうして、そう思うんだい? ルーリアが罰されることなんて何もないよ」
ロドレームはそう言ってくれるが、心配は消えない。
「えぇ、ありがとうございます。大丈夫です。ただの心配して悲観してしまう私の性格の問題なので……どうか、お気になさらず」
「………あぁ。分かった」
無理に微笑んで、ルーリアは彼の顔を見た。その後に思わず下を向くと、涙が溢れた。大粒の涙が、これでもかというくらいにたくさん。
「だ、大丈夫⁉︎ ……な訳ないよね。ほら、おいで」
「っ………はいっ」
長年されてきた暴言、暴力によって、心が崩れていたのだとこの時分かった。
笑顔の方が耐えれる、マシ、そして気楽に生きれると思っていたが、それのせいで限界が近付いていたなんて、思ってなかった。
両手を広げたロドレームの腕の中にルーリアは飛び込む。ボートが少し揺れた。
「分かっています。慈悲は与えられない」
「うん」
そう、大切に大切に自分のことを育ててくれた家族が処刑されようとし、悲しみ慈悲を皇太子に懇願するのはわかる。しかし、ルーリアは暴力を振るわれ暴言を吐かれ、侯爵令嬢に買い物をさせ侍女のような真似をさせた。
彼女たちにはある程度の恨みはある。死んで欲しいけど怖い。義理の家族が断頭台で死ぬのは別に良い。ルーリアはそう思ってしまう自分のこの気持ちを嫌っていた。
そんな時だった——。
「「———っ⁉︎」」
大きな地震が、辺りに起こった。
「大丈夫か⁉︎」
「えぇ、大丈夫です………けれど、皆さんは!」
「今から騎士に確認に行ってもらおう。ルーリア、俺たちは皇城へ」
「はい……!」
ロドレームは騎士二人に城下街の確認に行かせ、ルーリアは侍女にサラムを皇城まで連れて行くことを頼んだ。
「先輩方は……!」
「大丈夫。地震は初めてだが、訓練は受けているよ」
「じゃあ、私だけ受けてないのですね……」
「ルーリアは覚えが早いからね。他の聖女たちは自分たちで教えようとしていたようだったよ。シャーロットたちがルーリアの親に見えて来た気がするよ」
苦笑しながら氷魔法を使うロドレーム。彼の属性は氷だ。そのため、サラムにとっては迷惑だが氷の道を作ることが出来る。
「凄い、綺麗……」
「地震の被害で津波が起こる可能性も高いからね。取り敢えず、手摺も作った」
「ありがとうございます。私としても助かります……!」
二人は、そのまま皆が避難する皇城へ向かった。




