40話 抜け道の
「お揃い、買っちゃいましたね」
「うん、買っちゃったね」
店員の「ありがとうございました〜!」という元気満々な声を聞きながら、ロドレームとルーリアは服屋を出た。二人は紙袋を一つずつ抱えていた。最終的に、浴衣も甚平も買ったのだ。二人は顔を見合わせ微笑みながら、次行く場所を決めることにした。
歩きながら話すのがこんなに楽しいなんて、思いもしなかった。
「次は何処に行きましょう?」
「…………そうだ。パン屋に行ってみないかい? リフミさんが居るよ」
「あぁ! そうですね、行きましょ!」
彼は公務で城下に降りることがあるので、住民の名前は知っている。そして、その皆がルーリアファンということもある。ルーリアと仲良くしているリフミやレンとは、結構関わりがあるのだ。
ロドレームは紙袋を騎士に渡して、ルーリアもロドレームに促され自分の斜め後ろに歩いている侍女に渡した。
歩いてる最中にも、ロドレームとルーリアは話していた。
「ロドレーム様は、何かパン屋さんで買いたいパンはあるのですか?」
「ん? あぁ……ないね」
申し訳なさそうに苦笑するロドレームに、ルーリアは微笑んで「そうですか」と返した。そして、気になることが一個出来たのだ。
「ロドレーム様。一個聞きたいのですけれど」
「何かな?」
甘い視線を受け止めながら、ルーリアは表情が曇った。思わず立ち止まり、それにつられてロドレームも立ち止まった。
「リフミさんを、好きになったりしないですよね……?」
「は?」
深呼吸をした後にその不安を打ち明けると、ロドレームは間の抜けた声を出した。ルーリアはロドレームが頑張って理解している間にも、話していく。
「だって……リフミさんは可愛いし、目もクリクリで。旦那様は居そうだけれど、好きになるのは簡単かな、なんて思ってしまって……」
(リフミさんは、黒髪に紫の目の、可愛らしい人だもの)
仕草も見た目も可愛い、そんな人にロドレームは見合うはずだ。
だから、ロドレームの『大丈夫だよ』という返事を待っていたのに……。
「…………はぁ……」
「?」
こめかみを抑えて、ロドレームは深い溜息を吐いた。
その後、ルーリアの手を引っ張って逆方面に歩いていった。
「こっち来て」
「え、あ、え? パン屋さんは、こっちでは……」
「知ってる」
騎士と侍女は、空気を読んでいるのか立ち止まっている。
ルーリアに向けるにしてはいつもより真剣な声色に、『もしかして、本当にリフミさんのことを好きなんじゃ……』という決して小さくない不安が募って来る。
「…………っ———」
「…………」
来た場所は抜け道と言っても過言ではない、建物と建物の間。ルーリアは顔が赤くなり、そのまま動けないでいた。
(か、壁ドン………!)
恋愛小説で鍛えていて良かったと、今更思う。ロドレームのこの行動の名前を知ることが出来たからだ。床ドンもあって、ルーリア的には床ドンがときめいた。
……が、それは本の中の話で、今は心臓がバクバク言っている。
(それに……結構深い、キスもされてるし……)
顎を上に向かされて、深いキスもされている。
(こんな口付けっ、……初めて)
やっと離れたと思うと、次がある。だがその口付けも深く、甘い。
頭が真っ白になり、それはもう凄いくらいに目がとろんとする。何回もされるキスは、ルーリアの頭を真っ白にさせた。
「…………」
「ふっ、ぅ……」
もう既に息が苦しくなっていたので、口付けが止まってホッとした自分もいた。けれど、もっとして欲しいという自分も居たのだ。
そして顎クイをやめて、最後にロドレームはルーリアの額にキスをする。
顔を上げると、熱の籠った視線で、真剣な表情をしているロドレームがいた。
「俺のこと、疑う気?」
「………もしかして、と思っただけです。すみません」
「はぁ……。俺が好きなのは、ルーリアだけ」
子供が拗ねたように、ロドレームは視線を外して頬を赤らめた。
もう一度「ごめんなさい」と謝罪して、ロドレームの頬に撫でるように触れる。
そして、ちゅっと、音がした。
「………さぁ、行きましょうか」
「……………うん」




