38話 聖なる魔法を店内で放ってしまった
光がパァッと店中に輝き、その光には水滴がついていた。
(成功した……かな。あれ? 腕の痛みも引いてる)
どうやらこの聖魔法は、光の中にいた人物の全ての怪我を治すらしい。令嬢は怪我はないものの、この光に口をポカンと開けて驚いていた。
そしてルーリアは、己の失態に気付いたのである。
「あ……………え、えぇっと。その……!」
見事な慌てように、ロドレームは可愛いと何度も脳内で繰り返すが、今はそんな可愛らしいルーリアをフォローするのが先だ。
「ルーリア」
「ろ、ロドレーム様⁉︎」
自分だけで何とかこの場を収めようとしていたのか、ロドレームの登場に聖魔法を発動させた本人は吃驚していた。
ロドレームは、他人のフォローも自分を守ることも得意だ。だからこの場は任せて、とルーリアに目で合図を送った。
「はい……申し訳ございません……」
「いや、良いよ。どうせいつかは言わないといけなかったんだから」
優しく微笑むロドレームは、令嬢たちに鋭い視線を向け、しかし微笑んだ。これでも格好良いと思えるのだから、彼の容姿は最早罪かもしれない。
そんなロドレームは、ルーリアの肩を抱く。それにドキッとしたのは内緒だ。
「突然の光に驚いたかもしれない。だが、安心して良いんだ。あれは害のあるものではないのだから。あの光は、この場にいるこちらのルーリアがやった。彼女は世界に一人だけの『聖属性』という属性を持つ人。そして、数日前に聖女に任命された、この国を俺と作り上げるうちの一人だ。他にもあるが……それはまた二ヶ月後にある舞踏会で」
聖女に任命されたという言葉のところで、受付の者も令嬢と共にぴくっと反応した。
受付も聞いて良いのだろうかとルーリアはおろおろしたが、ロドレームの表情はやってしまったという感じでもない、通常運転なので、大丈夫で済ました。
まだロドレームが喋っている際、ルーリアは。
(『この国を俺と作り上げるうちの一人』……聖女として、というのは分かってるけれど、とても恥ずかしいわ……!)
顔を真っ赤にしていた。肩を抱かれているのもそうだが、何よりもロドレームが令嬢たちにルーリアを主張するために用意された言葉が、とても恥ずかしい。
そして、ロドレームはルーリアとの婚約をこの場で打ち明けるつもりは毛頭ないらしい。先程『婚約は公表するまで秘密にしたい』と言っていた言葉は本当だったらしい。
「———では、今日はルーリアとのデート中なんだ。服を選びたいから、こちらは見ないでもらいたい」
「ふぇっ⁉︎ ろ、ロドレーム様⁉︎」
デート中という言葉を強調して、ロドレームは言い切った。周りの令嬢たちもルーリアのように吃驚したように叫ばないものの、ポカンとしている。今日は驚くことばかりで、困ってしまう。
ルーリアとしても落ち着かずにいて、冷静になり微笑んでいるのはロドレームだけだ。
「ロドレーム様っ……」
「ん? 何かな」
ツンツンとロドレームの服の袖口を軽く引っ張ると、ロドレームはルーリアの意図を察したようで、甘ったるい笑みを浮かべながら、少し屈んで耳を傾けてくれた。
ルーリアの目線に合わせてくれたので、ルーリアは小声で話す。
「で、デート中とは、その……一体?」
「あぁ。別に嘘は言ってない。……もしかして、嫌だった?」
「い、いえ……! そんなことは全然ないです。ただ、恥ずかしいというか」
ロドレームはクスクス笑い、屈むことをやめた。
いつの間にか令嬢たちは、侍女のところや友人のところに戻っている。
「やっと、ロドレーム様と試着に集中出来る……」
「……………」
独り言のように目線を前に向けて呟いたルーリアを見て、ロドレームは目を見開く。だが直ぐに甘く微笑んで、「そうだね」とルーリアの頭を撫でた。
「ん……もうっ、ロドレーム様。怒りますよ」
「でも、嬉しそうだね?」
「………………当たり前です」
間を置いて頬を染めながら返事をしたルーリアは、なんと可憐なことか。ロドレームもルーリアのように真っ赤に頬を染め、微笑みを浮かべた。
「それじゃあ、気に入った服を試着すると良いよ」
「はい! ありがとうございます!」
元気よく返事をして、ルーリアは待ち切れないとばかりに貴族が日常で着るドレスのコーナーへ行ってしまった。一人取り残されたロドレームは、クスクスと笑いながら、ルーリアの跡を追った。




