36話 待ち合わせデート
(だ、だだだ、だいじょうぶ、かしら……)
この日、ルーリアは緊張しながら待ち合わせ場所へ向かっていた。
今の季節は夏だ。ルーリアは暑がりなので、侍女長であるノゾミに頼んで、純白のワンピースを用意してもらった。先輩の聖女たちも賛成だったので、令嬢には信じられない『素肌が見え過ぎ』なワンピースを着たのだ。しかも、前から見れば膝くらいまで見える。後ろからはレースで見えなくなっているが、ロドレームは前から見るようになるだろう。
そして、小さな淡い黄色のショルダーバッグを斜めがけにしている。
「この帽子……麦わら帽子って言うんだっけ? 新しくデザインされたものって聞いているけど……これ被ってるの、私くらいよね?」
まだ新しく作られたばかりのためしょうがないのだが、ルーリアは自分しか被っていないというのに緊張と恥ずかしさを覚える。周りの人たちは皆、ルーリアが知っている人のため、皆に挨拶をしながら待ち合わせ場所へ向かっているのだ。
無論、聖女ということもあって、左右には護衛も兼ねたメイドが二人いる。
麦わら帽子という帽子は、ルーリアにとって触る心地が良く、見た目も可愛いと個人的に思うため気に入っていた。尤も、被ったのは今日が初めてだが。
麦わら帽子には今は何も装飾が施されておらず、研究中と報告があった。
「ロドレーム様、どんな反応をしてくださるかしら………」
足元を見れば、そこにはサンダル。高さのあるヒールのような靴ではなく、踵が低めの靴。これも新しく、サンダルというらしい。白のサンダルで、服にも帽子にも合っている。
「ねぇ、本当に似合ってるかしら……?」
「似合っております。本当に」
「皇太子殿下も、見惚れてしまいますよ」
左右にいるメイド二人に確認すると、微笑ましい目でそう答えられた。調子に乗りたくないが、少しばかり乗ってしまう。
「そうよね、大丈夫。大丈夫……って、あ……ロドレーム様」
待ち合わせ場所は本屋の前。そこにはロドレームがいて、皇太子のような装いではなく、少年のような服装をしていた。
ボタンを閉めていない濃紺色の格好いい上着の下には、白いシャツが見える。そして同じ濃紺色のズボンを履いていて、ロドレームの黒髪と淡い青の瞳によく合っていた。
因みにルーリアも、白が赤黒い髪に合っている。
「ロドレーム様」
ルーリアが近付きながら声を掛けると、ロドレームは明らかに動揺した。
「っ……る、ルーリア……?」
「ええと、その……似合ってます」
「ありがとう。ルーリアも…………見惚れてしまうくらいに似合っているよ」
蕩けるような笑みでそう告げれば、ルーリアは赤く頬を染める。
そして、ロドレームはルーリアの全体を見て、片手で顔を覆った。
「ちょっと……目のやり場に困るくらいで……」
何せルーリアは、肩まで露出しているワンピースに、しかも首元からの露出も多い。胸元までは見えていないが、令嬢令息がこれを見たら男女関係なく失神する姿だ。
「スゥ…………よし、ルーリア。本屋にまず行こうか」
「は、はい! 楽しみです」
「うん」
ロドレームが待ち合わせ場所を本屋に決定したのは、ルーリアが最近恋愛小説にハマっているとアレクサンドラから報告を受けたからだ。そのハマりの原因が自分だと良いなと思っているロドレームだった。
〜〜***〜〜
本屋に入ると、そこにはたくさんの本があった。本屋なので当然だが、ルーリアは恋愛小説を自然と探す。
「わぁ〜……! これって、もしかして噂になっていた本の一巻? 凄い、あの本直ぐなくなっちゃうから」
本屋のため小声だが、ルーリアは興奮していた。そんなルーリアをロドレームは、愛おしく見詰めて、「二巻もあるそうだよ」と上の辺りにあった本を取り、ルーリアへ渡す。
「本当ですね……! ありがとうございます。買おうかな……」
ルーリアの独り言も聞き逃さないロドレームは、ルーリアから本を取る。
「え?」
「俺が買ってくるよ。ルーリアは、もうちょっと見てて?」
「ぅえ? でも……それは私が読むんですから、私のお金で買わないと……」
正確にはお小遣いだが、あげると言われたのでルーリアのだろう。
本を二冊片手に持ったロドレームは、「俺が買いたいんだ。良い?」と優しく甘い声音で説得する。暫し微笑ましい言い合いをしていたところで、ルーリアが折れた。
「………分かりました。では、何か返させてください。何が良いですか?」
「なんでも良いの?」
「はい、なんでも。折角本を買ってくれるんですから」
不貞腐れているルーリアだが、ロドレームはお構いなしににやっと笑った。
そんな笑みさえも美しいんだから、困ったものだ。本当に。
「じゃあ、俺がこの本を買ってきたら、抱きしめて欲しい」
「ふぁ? え、え……っ⁉︎」
大声を出しそうだったため、ルーリアは慌てて己の口を塞ぐ。
「…………わ、かりました。分かりましふぁ……」
最後噛んでしまったが、ロドレームは噛んで恥ずかしがるルーリアの頭を撫でた後に、レジへ一直線に歩いていった。
そして力が抜けたとばかりに、ルーリアはしゃがみ込んで、まるで空気のような存在だったメイド二人に話し掛ける。
「ねぇ、二人ともぉ……あのお方、ズルいと思わない?」
「わたくしたちには、微笑ましいお二人に見えました」
「えぇ、本当に。お二人は本当に愛し合っているのですね〜〜」
ニッコリ微笑まれながら言われれば、もう何も返せない。
ルーリアはロドレームの帰りをしゃがみなら待ったのだった。




