31話 通達が来た
侍女長であるノゾミに起こされ起床すると、身支度をノゾミに手伝ってもらいながら窓の外を見る。正確には、窓越しに映る青空を見て、気分を上昇しているのだが。
「今日も、良い天気ね」
「えぇ、そうですわね」
(まるで、今日の私の気分みたい……綺麗な快晴。雲一つない、晴れやかな気分)
聖女邸に来て、七日が経った。昨日の夢では色々なことがあり過ぎて、六日しか経っていないのでは、と錯覚してしまう。
(ロドレーム殿下……あの夢を、覚えているかしら?)
口付けを交わした生涯、ずっと忘れないであろう夢。
ルーリアは身支度を済ました後、リビングへ向かった。
リビングに着くと、そわそわと落ち着きのない三人が一人用ソファに各々座りながら、いつものようにルーリアを待っていた。
「おはよう、シャーロット、シェリルーライヤ、アレクサンドラ」
室内に一歩入ったところで挨拶をすると、落ち着きのなかった三人がバットこちらを向いた。少しだけ怖いと思ってしまったのは、仕方ない。
そして、アレクサンドラがルーリアのところへ駆け寄り、肩を掴む。
「ルーリアちゃん! ロドレーム殿下と何かあった⁉︎」
「はぇ……⁉︎」
(な、何かあった、と聞かれれば、何かあったけれど……!)
夢のことを思い出し、顔が火照るのを感じた。だが残念ながら、ルーリアはそれを言う勇気がない。キスをしましたー、なんて、口が裂けても言えない。
だが、何かあったと分かるにはルーリアの表情で十分ということで。
「やっぱり、そうなのね⁉︎」
「おぉっ……」
シャーロットとアレクサンドラの跡を追って来たシェリルーライヤが、興奮気味に聞いて来た。僅かに声が上擦っているのは、気のせいではないだろう。
そして、この中で一番冷静なシャーロットが、教えてくれた。
「実は、ロドレーム殿下の使いの人から、通達が来たの。……今日の午後一時、聖女邸へ向かいますみたいなこと、言ってた」
「え……ええぇ!」
早くないですか?
あの夢から数時間しか経っていない中で、皇太子という執務や公務にも忙しい中で、どうしてそこまで早く進められるのか。
ロドレームが執務をサボっているとは思っていない。むしろ、きちんと公務や執務をこなし、未来の皇帝として勉強して、剣術などの腕を磨いて、と努力をとてもする派だろう。
(まさか、こんなに早く来てくれることになるなんて……)
二週間は経つと思っていたので、頰が熱くなってしまった。
「どんなことがあったの⁉︎」
「何かあったの⁉︎」
「ちょっ……あんたたち」
「え! えぇと? ちょっと、お待ちください!」
ルーリアは、興奮する二人に「無理です!」と説得し、諦めてもらった。
〜〜***〜〜
正午になり、昼食を礼儀正しくも急いで食べた後に、自室へ戻ってきた。礼儀正しく急いで食べていたら、先輩たちに温かい目で見られたのは言うまでもない。
自室のソファに寝転がり、クッションを抱える。
(は、恥ずかしかった〜……)
先輩である聖女たちに温かい目で見られるわ、今日午後にロドレームが来るわで、ルーリアの頭の中はパンクしている。
そこでふと気付いた。
「私。もう自分のこと、『醜い』とも『汚い』とも思ってないわ……」
それに、頬が緩むのを感じた。
自分の唇に指先で触れると、まだ夢の中での感覚が残っている気がする。
(変ね……実質一回なのに……あ)
「一回、かわしたんだった……」
思わず、クッションで己の顔を隠す。
自分の変化に、ルーリアは嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
どうにか熱を収めようと、自室にある書斎に行く。
「あ……そういえば、出しっぱだったわね……」
机の上には、あの時読んだ幼馴染同士の恋物語があった。
そのままベッドに行き寝てしまったため、開いたままだ。
「でも。れ、恋愛は……今は、ちょっと」
頬の熱を収めるために来ているのに、恋愛小説を読んでしまったらまた頬が赤くなる。これ以上赤くなると、もう心配するレベルだ。
(内容は……丁度、告白シーンだった気がする……)
尚更、今読んだら駄目だ。
見ないように瞑目し、本を閉じた後、本を元の場所に戻す。そして、近くにあった聖女についての本を読んだのだが……。
「な、何これ……お世継ぎ⁉︎」
そう、世継ぎのページがあったのである。口元を抑え、心配するレベルに頬が真っ赤になった。瞳も潤んできて、ロドレームが見たら思わずと口付けをしそうである。
「もうっ、大広間行きましょ!」
何を読んでも恋愛、恋愛。
今は政治的な本とか、冒険譚とかを読みたいのだ。
何を読んでも恋愛が紛れているとか、絶対アレクサンドラのせいだと、ルーリアは思った——。




