29話 二度目の告白
『次は、私が貴方を救いたい』
夢の中で告げたら、夢から覚めた時は全て忘れているかもしれない。けれど、ルーリアはこの出来事を全て、忘れたくないと思う。
『貴方が背負っている何かを、私はそれごと包みます』
ルーリアは、背負っている何かを背負わせて、ではなく、背負っている何かを、自分がそれごと包むと言ってくれた。それが、ロドレームにとっての何よりの救いだった。だって、他人に自分の悩みを背負わせるなんて、絶対に嫌だから。
想い出のシャボン玉が、黄金色に変わってゆく。黄金色のシャボン玉が数々ある。それに囲まれている人は、見詰め合っていた。
だが、ルーリアの言葉は、妃にして欲しいと言っているようなものだった。
それを汲み取ったロドレームは、焦りながら言う。
『だ、だけど、ルーリア嬢は婚約者を——』
『作らないと言っていましたね、前に』
被せる形でロドレームの言葉を遮ると、一瞬ルーリアが悲しげな表情になったことを、ロドレームは見逃さなかった。しまった、と思ってしまっても、自分にはそんな後悔する資格なんてないのだろうか、それは疑問符が付いている。ということは、まだルーリアにはロドレームを救えるチャンスはあるということ。
ルーリアはめげずに、説得力のある真剣な表情で言った。
『ですが、私はロドレーム殿下の妃になりたい。……殿下の隣で、殿下を……いいえ、ロドレーム様を救いたいのです……!』
『………っ‼︎』
ロドレームの心が、射抜かれる感覚がした。シャボン玉は大きくなり、よりロドレームの想い出が見えるようになった。
(こんな簡単に、ルーリア嬢に堕ちるなんて……)
その心の声音は、熱の籠った明るい声音だった。
ロドレームが十歳になると、ロドレームの十歳の生誕祭が盛大に行われた。両親である両陛下から誕生日プレゼントを貰っている場面だ。その隣のシャボン玉には頑張って貴族たちに挨拶をしている場面だ。この時はまだ、自然な笑顔を振り撒いていた時期だろう。笑みが自然だ。十一歳、十一歳の生誕祭が終わった後に、ロドレームが自室のバルコニーから城を抜け出す様子が写されていた。この時はまだ、活発な少年だったらしい。
そんなシャボン玉を一通り見た後で、ルーリアは口を開いた。
『ロドレーム殿下、言ったでしょう?』
首を傾げるルーリアに、ロドレームは思わず見惚れた。
そして、地面が土ではないにもかかわらず、二人を囲むようにして色とりどりの花が咲き誇る。それは、ロドレームの心境を表しているかのようだった。
『私は貴方のことを、慕っている……と』
『っ』
この時、ロドレームの心が射抜かれる感じがした。
(あぁ……俺は、なんて小さなことで悩んでいたんだろう……)
ルーリアは、六日前……いいや、正確には七日前か。七日前まで、鞭で打たれ続けて来たのに。ロドレームは、周りに恵まれているのに、ただの「何故こんなにも自分は弱いのか」ということだけで、悩んでいたのだろうか。とても、辛かった。態度でロドレームの妃になりたい、婚約者になりたいと、態々ロドレームを囲んでまでして示していたのに。それなのに、誰もロドレームという自分自身を見てくれない、言葉で包んでくれない。皇太子だから、身分が上だから、いつか皇帝になるから? だからなんだ、とは何度も思った。
(だって、不思議だろう?)
ロドレームは誰かに言う。
(令嬢たちは自分が幸せになるとは限らないのに、何故俺の婚約者になりたい、妃になりたいと言うのか。侯爵家や公爵家に嫁いでも、身分は上がるだろう。公爵家同士でも婚姻は結べる。なのに何故とは、毎回思った)
『どうか、貴方の妃にしてくださいませんか?』
首を傾げておねだりをするルーリアは、とても可憐だった。
(まいったな……)
今、絶対にやられた。心を射抜かれるのは二度目なのに、こんなに好きという美しい気持ちが溢れ出てくるのは、ルーリアのことを好きだからだろう。
ふにゃっと、ロドレームは笑う。
『あぁ、勿論だ』
『っ!』
どうとでもなれと思い言ったが、まさか受け入れられるとは。
ルーリアは何故、自分がこんなことを言ったのか分からなかったが、直ぐにロドレームを好きだからだろうと納得した。だが、羞恥は隠せず頬から耳までが赤に染まる。
ロドレームはそんなルーリアを愛おしく見詰め、言った。
『格好悪いところばかり、見せてしまったね』
『そんなことは……』
『そうなんだよ』
そんなことはない、そう言おうとしたルーリアの言葉を、ロドレームが遮る。
守りたい、決して悲しませない、愛おしく思うよ。
『ルーリア・コキリ・セロライハラ侯爵令嬢、貴女のことを心から愛おしいと感じます。ロドレーム・ココノア・フィンシーカの婚約者となり、将来、妃になってくださいませんか?』
ルーリアの瞳に涙が溜まる。そして涙が流れた後、答えた。
『っ………はい、勿論です‼︎』
答えを聞いた途端、ロドレームは甘さを隠すことなどせず微笑んだ。瞳は猛獣のように凶暴で、でもその奥の奥には甘さが含まれている。
ロドレームの瞳が語っているのは、『今にでも襲いたい』だ。
それを悟ったルーリアは、首まで真っ赤になる。
『ロドレーム殿下……』
『なあに?』
『おっ……おそっちゃ、駄目ですよ? めっ、です』
『っ』
不意打ちの『めっ』に、ロドレームは片手で顔を覆う。
『何処でそれを覚えてきたんだ……』
『?』
ロドレームは、ルーリアの頬に手を添える。そしてその後に、もう待ち切れないとばかりにルーリアの顎を少しだけ上げる。
『………………』
今からロドレームがやろうとしているのを察して、ルーリアは目を閉じる。無論、その頬は真っ赤に染まっていたが、それはロドレームがクスッと甘い笑みを溢す原因となった。
『…………』
『…………………』
そして、二人の唇が重なった。




