25話 女神に祈りを捧げる日
その後のことは、あまり覚えていなかった。
唯一覚えていることといえば、指揮が終わりルーリアのところへ来てくれた三人が、ボーッとロドレームの行った方向を見ているルーリアを、心配してくれたことだろうか。
〜〜***〜〜
昨日の出来事から三日が経過した。
今日は、六月の頭。月に一回の、女神像にご挨拶に行く日だ。ルーリアにとっては初めてなため、いつもより早く起床してしまった。侍女を困らせるほどである。身支度が終わり次第、大広間前に集合、という伝言を預かっているため、身支度を済まして、大広間前の大きな扉へ向かう。この女神像へ行く時はローブを着て祈るそうだ。扉の前には、もう既にローブを着ている先輩聖女たちが集まっていた。
「ごめんなさい、お待たせしました。それと……おはよう?」
ルーリアがはにかみながら言うと、三人も微笑む。
「大丈夫よ、ぜんっぜん待ってないわ。おはよう。言えるようになって偉い!」
「えぇそうよ〜。もっと寝てても良いくらい。おはよう、ルーリアちゃん〜」
「お、は、よう……。えっと、平気。全然、待ってないから」
「良かったです。宜しくお願いします」
ルーリアは初めての女神へ祈りを捧げる日。月に一回やるこの聖女にとって一番大切な行事は、『これからも国が平和でありますように』と祈ることだ。ルーリアは女神は本当にいると確信……いや、この目で見てしまったので、断言出来る。
(女神様、これから貴女に祈りに行きます。待っててください)
心の中で女神に予定を伝えて、女神に会った時のことを思い出す。
(確か、女神様は夢から覚める直前……)
ルーリアは、夢から覚める直前の会話を思い出した。
『女神様、ありがとうございました』
『いいえ。大丈夫よ……あ、そうだわ』
『?』
『ルーリアが女神像の下で祈ったら、私、舞い降りて来ちゃうからね?』
『え? あ、は、はい! 分かりました、待っています』
そう話して、夢から覚めた覚えがある。
女神像の下、ルーリアが祈ったら舞い降りて来る。では、今日ルーリアが祈ったら舞い降りて来てしまうのではないだろうか。
そう思い、ルーリアは慌てた。
(どうしよう、心の準備が……! だ、大丈夫。ロドレーム殿下と口付けを交わした時よりかは、全然……って、思い浮かべる出来事間違えたぁ!)
直ぐに深呼吸をして、己を落ち着かせる。だが、自分を落ち着かせるためにロドレームとのキスを思い浮かべてしまったのは、恥ずかしさでボッと顔が熱くなり失敗だった。キスを交わした日の夜は、全然寝れなかった。
自分を落ち着かせようとしていると、シャーロットが声を掛けた。
「ルーリアの順番は最後。私たちの祈りの言葉は側で聞いてて」
「はいっ!」
最後といえど、祈るだけということもあって、そんなに時間は掛からない。ルーリアたちは扉の側にいた使用人に扉を開けてもらい、大広間に入る。順番が来ていない人は、隅に固まり順番を待つそうだ。最初のアレクサンドラが終わり、次は二番目のシェリルーライヤが女神像に向かう。アレクサンドラがこちらに来て、「私は自室で寛いでくるわ。何かあったら呼んでね」と声を掛けてきた。
「はい、ありがとうございます」
「分かった」
ルーリアとシャーロットは返事をして、アレクサンドラが扉から出るところを見守る。次に視線を向けるのは無論、女神像の下で跪いている、シェリルーライヤだ。『国がこれからも平和でありますように』と、祈っているのだろう。女神も、それを聞いて微笑んでいるはずだ。
終わったのか、シェリルーライヤが伸びをしながら近付いてきた。
「終わったー! シャーロット、出番よ」
「オッケー。じゃあ、ルーリア。行ってくるから、待ってなさいよ」
「はい! シェリルーライヤ、お疲れ様です。素敵でしたよ」
「ありがと。じゃ、アタシも自室で寛いでくるわ」
扉を出て行くシェリルーライヤに手を振り、シャーロットに視線を向けて心の中で応援する。
(後輩の私が言うのもアレですが……頑張ってください、シャーロット)
何回もやっているとは思うが、応援した方が言った側も気分が良くなるというもの。視線で伝えたから、シャーロットは気配か何かしら気付いているだろう。
「…………」
「…………………」
喋る相手が居なくなり、大広間に静寂が流れる。
「ルーリア、次どうぞ」
「は、はい! 分かった」
「張り切りすぎて、変にならないようにね」
「はい!」
そして、シャーロットも自室で休むそうで、大広間を出て行った。この場にはルーリアしか居なくなる。なんだか、六日前の自分を思い出してしまった。
「ううん。女神様にご挨拶しよう」
そしてルーリアは、隅から天井に届くほど大きな女神像の下へ向かう。
着いたら跪き、女神に挨拶をする。
(お久しぶりです、女神様。ルーリア・コキリ・セロライハラ。来ました)
そして、一本の光が出てくる。それは、馬車の事故にルーリアが発動した、光の柱に水滴が所々に付いているそれだった。
眩しくて目を瞑る。光が収まったところで瞳を開けると、そこには予想通り、女神がいた。そして、口を開く。
『お久しぶりです、私の娘。顔をお上げください』




