24話 恋心の空模様
宜しくお願いします。
何が起きているの?
ロドレームの唇とルーリアの唇が重なった。それだけが今の情報。ルーリアは耳も首も顔も真っ赤になっているが、そんなのどうでも良い。何故、こんなことになった。ルーリアがロドレームに先程気付いた恋心を打ち明け、好きと言おうとした。そして、『好き』とは言えなかった。何故なら、ロドレームに唇を塞がれたからだ。
離せるのならとっくのとうにやっている。力が強すぎるのだ、ロドレームは。やっと。やっと思考が回るようになって来たルーリアは、パニック状態に至っていた。喋れないが故、叫びたい気持ちを心の内に留めておくことになってしまうのが、とってもむず痒い。
(な、なななな、なんなの! ロドレーム殿下、ロドレーム殿下〜〜〜! 無理です叫びたい! 叫んだら殿下のお耳に失礼だから絶対に叫ばないけどぉ!)
パニックとは、こういうことを言うのではないだろうか。
「………………」
「ひんっ!」
声が出せるようになったのは、二人の唇がロドレームによって離れたからだ。その代わり、ぎゅっと力強い腕で抱き締められたのだが。
そのせいで、変な声が出たとも言える。
だが、ロドレームの心音が聞こえ、その恥ずかしさは遮られる。
(ロドレーム、殿下も……ドキドキしているの?)
それを言葉にしたりはしない。答えてはくれるのだろう。でもそれは、「気のせいじゃないかな」などと誤魔化されるだけだろう。
(私と同じ気持ちなの? だから、き、キスをしたの? だから、私を抱き締めたの? でも、もし、感情的になってだけで、という感じだったのなら、私は……)
どんどん悲観してしまうのは、ルーリアの癖。
ルーリアは思わずと言って風に、呟いた。
「ロドレーム殿下……」
熱を籠ったその言葉は、ロドレームの腕を解かせ、次は肩を掴まれた。そのままロドレームはポーッと熱の籠った表情でルーリアを見詰める。その顔を真正面で平気に見れるほど、ルーリアは強くない。真っ赤だった頬がそれ以上になり、気を抜けば羞恥か何かで気絶してしまいそうだった。
やがてルーリアも頬を染めながらロドレームのことを見詰めて、ロドレームはジッと、熱っぽい頬を無視しながらルーリアを見詰める。
そして、我に返った。
「ご、ごめん! 俺は、皇太子なのに………‼︎」
「………」
カァッと、耳までもが朱色に染まったロドレームは、長さのある丸太の端まで下がり、謝罪を述べた。皇太子だから、なんだろう。貴族や王族は、婚約者ではない者と口付けなど、それ以上も勿論、行ってはいけないとされている。当たり前だが、守れていない男性、女性は何人もいるだろう。ロドレームは、まだチャンスがある。婚約者候補はいるとはいえ、婚約者はいない。ルーリアを婚約者にすれば、醜聞という風にはならないだろう。
だが、ルーリアを婚約者にして、本当に良いのか。
それだけが、ルーリアにとって唯一の気掛かりだった。
(私を婚約者にしなければ、ロドレーム殿下はその秘密を生涯を遂げるまで、それを秘密にしないといけない。それは……結構、嫌だろうな。私としても)
無論、なんならこれを口実に婚約してしまいたい。けれど、ロドレームも皇太子である前に一人の人間だ。愛する人と生涯を添い遂げたいという願望は、本人が思っていなくともきっと心の奥底にあるというもの。
(私なんかとで、ロドレーム殿下は本当に幸せになれるの……?)
不幸になってしまう可能性だってあるのだ。自分だから尚更。
だがその思考は遮られた。ロドレームが丸太から立ち上がったからだ。
「ご、ごめんっ! 忘れて。否、忘れられないかもしれないけど……! でも,本当にごめん! じゃ、じゃあ、また!」
「え……? あ、あのっ、ロドレーム殿下!」
逃げ出すように。否、逃げ出すために、自分に背を向けてもう直ぐ見えなくなるロドレームに、ルーリアは手を伸ばす。待って、というように。
だが、脳みそを埋める大半はロドレームとのハグとキスのことだった。
ルーリアは、空を見上げながら、ぼーっとする。
「…………でんか………」
私のこと、好きですか?
私のこと、嫌いですか?
私のこと、異性として好きですか?
私のこと、どう思っていますか?
似たような質問でも、そう問い掛ける『感情』が違った。
「………何故、口付けとハグをしたのですか」
その問いは、疑問符が付いていなかった。
今の空模様は、素敵な青空をしている。
けれど、幾つかある雲が、厚いせいか、曇っていた。
ありがとうございました。




