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23話 嵐の後は

今度は長いです、宜しくお願いします。

 まさか。そんな訳ない。そう思ったのは姉妹だけで、他の先輩聖女は別に驚いてなどいなかった。ただ、メティーチェイアを冷たい目で見詰めているだけ。

 先に口を開いたのは、メティーチェイアだった。


「……ルーリアは、貴方の婚約者候補には程遠い腕前の持ち主かと思われますが! 礼儀作法も、言葉遣いも、容姿も、全て、足りないと思います!」

「ルーリア嬢は、カーテシーが上手だ。それも、貴女のカーテシーを真似して独学で学んでいたそうだ。そして、完璧なカーテシーを披露した」

「は………っ⁉︎」


 意味が分からない。ルーリアは、昔からボロい薄茶の服を着ていて、それには所々小さな穴が開いていた。いつも掃除をしていて、そんなルーリアに命令をすると、天にも昇るように気持ちが良かった、スッキリした。それを笑顔で承諾する、とても気味が悪い妹だとも思った。だが、そんな子は自分の妹ではないと自然と思っていた。


(そんな奴が、『完璧なカーテシーを披露した』ですって?)


 しかも、自分のを真似しながら、独学で。


(そんなの……)


 気付いた時には、もうメティーチェイアは怒り狂っていた。


「そんなの、気色悪いわ!」

「っ……? おねえ、さま……?」


 ルーリアは、戸惑ってしまう。ロドレームの話を怒りで顔を真っ赤にしながら聞いていた姉が、突然我慢ならないと言うように、叫び声に近い声で言ったのだから。メティーチェイアだから、そうはなるだろうなとは思っていた。けれど、突然来ると、心臓が激しく嫌な音を立てる。それは、致し方ないことだろう。


「ルーリアが? あのルーリアが? 血に(まみ)れているルーリアが? ないわね! そんなこと、あってはならないことよ!」

「………」

(『血に塗れている、ルーリア……』)


 前、ずっと言われていた言葉。それが何故かスッと心に入ってきて、余計に心臓が嫌な音を立てる。『ドクン、ドクン』と。ロドレームを前にする時の胸の高鳴り、『トクン』や『ドキ』ではない。『ドクン』と、後数分は、この左胸の痛みが消えないくらいに、嫌な意味で高鳴った。

 その『ドクン』を無視して、ルーリアは口を開いていた。

 無意識のうちに。


「お姉様ッ!」

「……何よ、あんたは黙ってなさいよ!」


 メティーチェイアの視線が、ロドレームから自分に向く。

 怖いと思うのは、仕方のないこと。顔が強張った。


「お姉様は、……以前の私と今の私。どっちがお好きですか?」

「は?」


 何を言っているの? そう顔に書いてあるメティーチェイアは、半目になってルーリアを睨んでいた。それを誤魔化すように、コホンと可愛らしく咳払いをした後、ルーリアは言葉を紡いだ。


「……質問を変えますね?」


 笑顔は絶えなく続く。それは、メティーチェイアが一番むかつくと思う、あの鞭打ちの時にこの顔に浮かべる、あの貼り付けた笑みだった。


「お姉様は、……以前の私と今の私。どっちが “都合が良い” ですか?」

「……………」


 メティーチェイアは、頭が真っ白になっているようだった。

 だが、答えは決まっている。ルーリアも、それを承知の上で尋ねたのだから。傷付くという覚悟自体は、してしまっているけれど。


「そんなの、以前に決まっているじゃない!」

「…………そうですか」


 少し間があったのは、傷付いた心を癒していたから。傷付くと分かっていながら尋ねるのは良いのだろうか、とも思ったが、尋ねられずにはいられなかった。尋ねたかった。だって、吹っ切れるかもしれないから。期待通り、姉に対しての情は、何もかも塵のように消えていった。情が微塵もなくなり、貼り付けた笑顔が少しだけ、素になってしまったのは仕方がない。


「では、ロドレーム殿下。……続きをどうぞ?」

「あぁ」


 ロドレームは、ルーリアに返事をした。

 その笑みには、誰もが惚れてしまうほどの優しさが籠っていた。


「………っ!」

(あぁ……こんな時でもときめいてしまうのね。恋心に、状況は関係ないわね)


 頬の熱が上昇するのは、ロドレームのせい。そう考えてしまうほどには、ルーリアはロドレームに堕ちていたのだろう。十三歳の恋心は、ルーリアにとって生涯忘れない最高の想い出になるだろう。

 ロドレームは、先程の微笑みから真摯な表情に変わり、一言。


「もう一度、騎士に言う。地下牢へ連れて行け」

「「はっ」」


 二人の騎士は、メティーチェイアを引き摺って連れて行く。メティーチェイアが「離しなさい!」と抗議の声を上げているのは、姿が見えなくなるくらい離れていても、聞こえていた。


 〜〜***〜〜


 暫く経ち、やっとメティーチェイアの抗議の声が聞こえなくなった後、ロドレームはメティーチェイアによって荒らされた花畑を元に戻すための指揮を()っていた。


(ロドレーム、殿下……。うぅ……、恋心を自覚した後にこの真剣なお顔は、とても、とっっっても、心臓に悪いですぅ……)


 だが、そんなこと言ってられない。


「殿下」

「っ……ルーリア嬢。どうしたの、何か用かな?」


 ズキンと嬢付けにされて虚しくなる気持ちを出来るだけ無視する。左胸の辺りで手を握り締める、その動作は、今から言う緊張感とズキンと嫌な音を誤魔化すという、二つの意味が込められていた。

 深く深呼吸をしてから、ルーリアは整った唇から誘う。


「殿下、申し訳ありません。お時間、ありますか?」

「時間……?」

「あっ、指揮を執っていたことについては、謝罪致します。申し訳ありません。ですが、話したいことがあるのです」

「うん、良いよ」


 ロドレームは考えるという素振りもなく、返事をした。渋々受け入れられる、(いや)、なんなら断られると思っていたルーリアにとって、この間もない返事は意外だった。


「良いのですか……?」


 自分から誘ったのに、思わず聞き返してしまった。


「うん、勿論。シェリルーライヤ嬢、指揮をお願いしても良いか? 俺はルーリア嬢と話してくる」

「ハッ……はい、勿論ですわ。ルーリアちゃん、楽しんで!」

「は、はい!」

(楽しんで……?)


 その言葉は意外だったが、シェリルーライヤが楽しそうなので良しとしよう、ということにした。

 ロドレームがシェリルーライヤに指揮を任せた後に来た場所は、祠の奥にある森だ。森には綺麗に整えられた道があったため、そこを二人で歩いて行くと、一つの丸太のベンチがあった。そこに隣り合わせで座ると、自然と沈黙が流れる。因みに、今ルーリアが何を考えているかというと……。


(うぅ……っ! どうすれば良いの? 無理に話し掛けるのも無理矢理感があるし、このまま沈黙が続くのも避けたい! 何より、何より……異性として好意を向けているお方が、今、お隣にいる……! こんなの、心臓は破裂してしまうほどに嬉しいし、恥ずかしいぃ……っ!)


 パニック状態である。

 そんな中、ロドレームが遠慮気味に口を開いた。


「あのさ……」

「は、はいッ……!」

「頬………平気?」

「ほっぺ、ですか……? はい、大丈夫ですよ。ただ、少しジンジン傷むだけです!」


 右側にいるロドレームに向かい合って言うが、ロドレームは「駄目じゃないか……」と額を抑えている。何が駄目なのだろう。こちらとて、痛みには慣れている。鞭で打たれていたのだから、平手打ちなんて余裕と言っても良い。

 ルーリアのその考えこそが、異常なのだが。


「あ、あの、今日はありがとうございました。お陰で……助かりましたぁ」

「———………………」


 ふにゃっとした笑みを浮かべるルーリアを真正面で見たロドレームは、何故なのかドキドキと胸が高鳴るのを感じた。


(異性が、正面にいるからだろうか……きっと、そうだ)


 ロドレームは自分の胸の高鳴りと、その影響か火照った頬を無視して、心の内を打ち明けたように口を開いた。


「もう少し、早く来ていたら……貴女が怪我するなんてことには………」

「……………」


 ルーリアはきょとんと首を傾げ、目をパチパチ瞬かせる。その可愛らしい驚き方に、ロドレームはクスリと笑った後に、悲しげに微笑んだ。

 そんなロドレームの心中を察したのか、ルーリアは安心させるように、「だいじょぶ、ですよ」と言い聞かせるように言った。


「ロドレーム殿下が駆け付けてくれなかったら、私はもっと、酷い怪我をしていたかもしれません。お姉様は、それほどに怒ると、その……怖い、ですから」

「——そっ………か」


 悲しげな表情は変わらず、ロドレームはハッと我に返る。表情を見せてしまった。そう、悔やんでいるのだ。


「でも、さ……ルーリア嬢——」

「…………はい」

(あぁやっぱり。殿下に恋をするなんて、どうせ叶わないのに)


 ロドレームは皇太子殿下だ。ルーリアがメティーチェイアの代わりに婚約者候補になったとはいえ、所詮は『代わり』だ。このままだと侯爵家から抗議の(ふみ)が届くから、という理由。だからルーリアは、自分が婚約者になんて選ばれないと確信していた。

 だが、それでも嬢付けをされて虚しくなる気持ちは晴れない。ロドレームに呼ばれると、一瞬心の内は快晴になり、嬢付けをされると大雨が降る。そんな複雑な心境になる。


「ルーリア嬢は、やっぱり……。? ルーリア嬢? ルーリア嬢、その……大丈夫? どこか、やっぱり痛かったり……」


『ルーリア嬢』という言葉が、ずっと脳裏に痛く響く。


「………や、めて、ください……」

「え……」


 拒否されたことに、ロドレームはサァーと青褪める。

 だが、そんなことにも気が付かない。ルーリアは言葉を紡ぐ。


「『ルーリア嬢』なんて、やめてください。貴方にそう呼ばれるとっ、左胸がズキってなるのです……!」

「……!」


 瞳に涙を溜めているルーリア。だが決してそれを落としたりはしない。


「『ルーリア』と呼んで欲しい。婚約者候補ではなく、婚約者にして欲しいっ。ごめ、なさい。私のような者が、殿下に、その……告白をしてしまってっ!」

「……………」


 涙声だが、涙は頬に伝っていない。それを見てロドレームは、苦しいような、涙を流して欲しいという欲求のような、不思議な感覚に襲われた。


「先程、気付いたのです。気付いて、しまったのです……! 私が貴方に『ルーリア』と呼んで欲しい理由。ずっと嬢付けをされると胸が苦しくなった訳。それは、私が、貴方のことを、す——っ!」

「……………」


 最後までは言えなかった。

 ロドレームの唇が自分の唇に優しく、しかし押し付けるように当たる。その瞬間、何が起こったかさっぱり分からなかったルーリアも、一秒、二秒と何秒か時間が過ぎた時には、もうそのロドレームの行動を理解した。そして、自然と己とロドレームの重なった唇に意識が集中して、先程よりも顔が真っ赤。耳も、首でさえ真っ赤だ。

 突然行なわれた“口付け”。それはどんな意味を表すのか、そのロドレームの行動がどんな気持ちを表すのか、この時のルーリアには、全然分からなかった。

ありがとうございました。

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