14話 魔力の感じ方?
宜しくお願いします。
楽しいジュース時間から翌日。ルーリアは一人の侍女に起こされた。
侍女はカーテンをシャッと音を立てながら開け、それと同時に言う。
「ルーリア様、朝ですよ」
「んんっ……おはよう〜〜」
「えぇ、おはようございます、ルーリア様」
上半身をベッドから起こして、眠気を覚ますように腕を天井へ伸ばす。起床して、身支度を三人の侍女に手伝ってもらった後、シャーロットが来たと通達があった。
(何の用かしら……)
不思議に思いながらも、ルーリアは「お通しして?」と優しく言う。ドアが開くと、緊張が少し解れているシャーロットが部屋に入ってきた。
多分、深呼吸をして少し解してきたのだろう。
ルーリアはシャーロットを長椅子に案内し、自分は向かい側の長椅子に座る。
「おはようございます、シャーロット」
「お……はよう。ルーリア」
「今日は、何の用で?」
簡単な挨拶を交わしてからの質問に、シャーロットは戸惑ったのか、解れた緊張がまた強くなったのか、「えと……そにょ……」と言い淀んでいる。
そして、意を決して口を開いた。
「……ルーリアは、今日が初出勤みたいな感じでしょう? だから、その……魔力の流し方、感じ方を教えようかな? って……」
「本当ですか⁉︎」
「おぉっ……」
身を乗り出して興奮気味に聞くルーリアに、シャーロットはドン引きと顔に書いてあるような表情でルーリアを見詰める。
「あっ……ごめんなさい、シャーロット。えっと、嬉しいです。とても」
「あぁ、うん。良かった。じゃあ」
そこで言葉を区切ると、ルーリアの座っている長椅子に腰掛けた。
「手、出して」
「はい、分かりました」
「ん」
言われた通り右手をシャーロットの方へやると、シャーロットは己の右手とルーリアの右手を重ねる。そして、目を瞑る。薄らと染まっていた頬が急に熱が引いて真剣な表情になったため、ルーリアは思わずといった風に目を瞑る。
目を瞑ると、自然と重ねている手に感覚が引っ張られた。
「私がまず魔力を送るから、感じ取ってみよ」
「は、はいっ!」
「分かんなかったら、教えるから」
「はい、ありがとうございます」
目を瞑りながらの会話に、ルーリアはクスッと笑みを溢す。そして意識を切り替えて、流れてくるであろうシャーロットの魔力に集中する。
「………」
「……………………」
肩の力を抜いて、しかし魔力の感覚を絶対的に掴めるようにと、ルーリアはぎゅっと閉じている瞳の力を抜く。だからか、微笑みが顔に浮かんだ。
十秒経ち、シャーロットが流す魔力の感覚を掴んできた。
良かった、これが魔力……? と思っている時間はほんの少しだった。何故なら、口から今にでも嘔吐しそうな勢いで気持ちが悪くなったからだ。
「ゔッ……⁉︎」
「え? ルーリア? ルーリア!」
口元を抑えるルーリアの表情は、鞭打ちされた後のように真っ青だった。
どんどんシャーロットの声が遠退いているのは、気のせいではないだろう。最後の「待って、お医者様を呼んでくるから!」というシャーロットの焦った声音を含んだ言葉だけは、何とか聞き取れた。
〜〜***〜〜
意識を取り戻すと、そこは自室のベッドの上……ではなく、先日水晶で見た、金色の花畑と同じ色合いをした霧の掛かったところだった。
ルーリアは今、横たわっていた。
『え……?』
思わずと呟いた自分の声も、微かにエコーになっている気がして、普通は困惑する場面だが、不思議と困惑の気持ちは湧かなかった。
そして何故か、とても懐かしい気持ちになる。
起き上がって辺りを見渡してみると、遠くにも自室はないし、無論こんな花畑なんて聖女邸の近くにありもしなかった。
『夢……?』
『残念だけど、これは夢じゃないわよ』
辿り着いた結論をポツリと呟くと、一人だと思っていた空間に別の声が響く。恐る恐る後ろを振り返ると、そこには——。
『女神、様……?』
『よく分かったわね。流石、私の……いえ、これはまだ言わない方が良いわね』
『?』
どういうことだろうか。そう思ったが今尋ねることは違う。
『ここは何処ですか?』
『ん〜。ここは、何処って聞かれたらとっても答えにくいんだけど……』
『あ、申し訳ありません!』
焦ったように大声を出すと、ルーリアのその声は、エコーになって空気に紛れて行った。女神と認めた女性は、本当に女神らしい服装をしている。女神は慌ててるように手を上下に移動させて、『あ、その……大丈夫よ?』と優しく柔らかい声音で、ルーリアに声を掛ける。
『答えるけれど……ここは夢でも現実でもない。私が住んでる家みたいな、庭、みたいな……って感じなの。でもまぁ、異世界に来たって思ってもらって良いわ』
『は、はい』
(異世界、異世界……。異世界ね。よし、覚えた!)
女神は己の手をルーリアに近付け、ルーリアの手を取った。
『え?』
『魔力の受け渡しをしていたのでしょう? 手伝うわ』
『い、いえ! 女神様にしていただけるようなことでは……』
『私がしたいの。良い?』
『……はい』
子犬のような女神だと思いながら目を細め、返事をすると、『良かった!』と良い答えが返ってきた。
『あ、でも……』
『どうしたの?』
『私、シャーロットの魔力を感じ取ろうとしたら、倒れてしまったんです。なので、また倒れないか心配で……』
『何を言っているの?』
俯いているルーリアの耳にはその意味が分からないという声音が届き、思わず『え?』と声を漏らしてしまう。
『だ、だって。……感じ取る側は私なのでは?』
『い〜え、違うわ。貴女が流す側よ』
『え? でも、私のような醜い女が、女神様という尊い方に魔力を流して良いのでしょうか。ご迷惑なのでは……それに、赤黒い血のような髪の女から魔力を——』
『あーえっと。貴女は全然醜くないわ。あんな家族に虐げられてたから、こんなに自己犠牲な感じになっちゃったのかもしれないけれど……自分を大事にしてね?』
『は、はい。……ありがとう、ございます』
『ええ』
女神は満足そうに笑った後、ルーリアの手を取って己の手を重ねた。
(綺麗な、瞳……)
シャーロットとは違って目を開けているため、女神の瞳がよく見えた。紫水晶のような瞳は綺麗としか言いようがなく、金髪は女神だと改めて思い知らされる。
そしてルーリアは、不思議と懐かしく思いながら魔力を流した。




