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9話 皇帝の頼み

宜しくお願いします。

『皇帝陛下のところに行こう?』


 そう言われた時からルーリアには拒否権はなく、気付いた時には謁見の間に居て、玉座に座る皇帝にカーテシーを披露していた。ロドレームは隣で跪いているが、直ぐに跪くことをやめて「父上、報告があります」と真剣な表情をして告げた。


「うむ、そうか。ルーリア嬢と地下に行ったのだったな。ルーリア嬢、楽にしてよい。お主の身体じゃあ辛いだろう」

「ありがとうございます」


 ルーリアがカーテシーをやめたことを確認すると、ロドレームは報告を始めた。皇帝は随分と真摯な顔をして聞き入っている。と思ったら、直ぐに目を見開いた。


「そ、それは本当か⁉︎ ルーリア嬢!」

「は、はい。本当でございます、皇帝陛下」


 自分に問いがくるとは思ってもおらず、ルーリアは若干焦りながら答える。


「では……ルーリア嬢は……」

「はい。その方が、国のためには良いと思います。ですが……」

「む? なんだ?」


 ロドレームは誰にも気付かれないよう深呼吸をしてから、こう告げる。


「……ルーリア嬢の意思を尊重したいです。……駄目でしょうか」 

「………そんなことはない。無論、そうするつもりだ」


 皇帝は数秒目を見開いた後、ふっと笑って我が子を安心させるように言った。その言葉を聞きロドレームは「そうですか……!」と花が綻ぶような、嬉しそうな表情に変わった。

 そんな親子の会話に、ルーリアは頭の上に疑問符が飛び散るばかりだ。


(何のことを話しているの? 私のことは間違いないだろうけど……)


 疑問符が丁度五十個が浮かんだところで、皇帝がルーリアに視線を向けた。何かしらと思いルーリアは思わず、仮面の笑みを貼り付けながら身構える。


「ルーリア嬢、聖女に憧れはないか?」

「はえ?」


 〜〜***〜〜


(聖女? さっき殿下がざっと説明してくれた、あの……?)


 半ばパニック状態になっているルーリアに、皇帝とロドレームは苦笑するしかなかった。すると突然、皇帝が口を開く。


「ルーリア嬢は、何故貴族なのにこんな格好なのだ……?」

「父上ッ!」

「あ……すまない。思わず……」

「い、いいえ」

(そう、よね。話さなきゃいけない……)


 ルーリアは意を決して口を開いた。その話で自分のパニックが消えたら良いなという期待も、その中にはあったかもしれない。


「私は……家族に産まれてからずっと、虐げられてたのです。朝昼晩、買い出しがない日はずっと屋敷中の掃除をしておりました。少しの失敗でも犯したら鞭で()たれ、侯爵邸にお母様たちが招いたお客様の視界に少しでも入ったらそれよりも痛い鞭で打たれ、時には平手で頬を打たれたりもしました。勿論ご飯も与えられず、買い出しに城下街に居る平民の皆さんから差し出された食べ物を食べるくらいです。あ、それもとっても美味しかったですよ? ただ……家族から与えられたご飯も食べてみたいな、とも思わなかったと言えば嘘になります。必要な栄養を摂らなかったため、このように身体は細い……いえ、ガリガリになっており、服もこのワンピースのような、質素なドレスしか与えられませんでした。それでも、貴族に産まれたというだけで誇るべきことなのですが……。ただ、平民に産まれて、あの温かい城下街で過ごしたかったなぁ、なんて……」

「「………」」


 苦しそうに微笑むルーリアの話を、二人はたまにごくりと喉を鳴らしながら聞いていた。最近はあんなことがあった。今日は強い鞭で打たれて少しだけ反省した。そんな酷いことを、ルーリアはいつもあるという風に告げていた。


(じゃあ、俺が帰城した後も……)


 嫌な汗が頬を伝う。だがそれを尋ねることは出来ない。ルーリアがそれを思い返してしまいそうだからだ。「今日はいつもより強い鞭で打たれた」と告げたところでとっくに思い出しているかもしれないが、ロドレームは聞きたくなかった。


「——以上です」

「……聞いて、悪かった」


 頭を下げながらの皇帝の謝罪に、先程の苦しそうな表情からおろおろとした表情に変わった。そして直ぐに落ち着いたルーリアは片手で胸に触れ深呼吸を繰り返した後、「頭をお上げください。皇帝陛下が謝罪することは一切ございません」と微笑みながら告げる。


「感謝する。……話を戻す。ルーリア嬢、聖女になる気はないか?」

「あー、えとですね……」

(話戻っちゃった……)


 ルーリアは暫く考えた後、聖女の役目には触れず、聖女の仕事場について尋ねる。「その……聖女様の仕事場は何処でしょうか……」と言い淀みながら。


「仕事場……というよりも“聖女邸”というところに聖女は住まうことになる」

「……!」

「今我が国には三人の聖女が居てな。その全員は、聖女邸———城の近くにある屋敷に暮らしている。ルーリア嬢には迷惑を掛けると同時に、あの家から逃れられる」

「逃れ、られる……」


 あの侯爵邸から、逃げられる。それはルーリアにとって、この上ないほどのメリットだった。鞭打ちもなくなる、食事も与えられる。寝床も固い板の上で寝ることもなくなる。家族に虐げられている子にとって、環境が変わる——出世するとは多分だがそういうことだ。

 だったら、ルーリアの答えは一つ。


「聖女、なります。この恩、絶対にお返しいたします。皇帝陛下、皇太子殿下」

「あぁ」

「大変だろうが……頑張ってね」

「はい!」


 こうしてルーリアは、聖属性魔法が使える、二属性の特別な聖女として、聖女邸に移住するのだった。

聖女邸は、「せいじょてい」と読みます。

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