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第三話 帝都に咲くは 恋の華

 レストランから歩いて通える距離に、七星の住む1DKのアパートはあった。

 家賃を抑えるならもっと都心から離れた方がいいのだろうが、終電を気にせず職場に居残りできる環境は捨てがたかった。


 無駄を一切削ぎ落したような、ベッドとテーブルしかないシンプルな部屋。その代わりキッチンは料理人らしく充実していて、調理器具が所狭しと並び、プロ仕様の家庭用オーブンや、あらゆる香辛料に何種類もの小麦粉などが備わっていた。


 ユニットバスから出てきた七星は、髪も半乾きのままタオルを首にかけ、疲れ切ったようにベッドに倒れこんだ。着古したねずみ色のスエットは、色気のかけらもない。

 広輝の訪問が頻繁にあった頃はもう少し身なりに気を使っていたが、「忙しい」が口癖の彼はいつの頃からかアパートに立ち寄る回数も減り、最近ではすっかり足が遠のいていた。


 誰も来ることのない部屋。出番のない勝負下着。忘れられた誕生日。

気楽で自由で寂しい毎日。

 やり場のない惨めな気持ちに、前触れもなく襲われることが何度もある。

 そんな時いつも助けてくれたのは、巷で大流行中のスマホゲームだった。


落花流水(らっかりゅうすい)~帝都に咲くは恋の華~』


 舞台は明治初期の頃の日本によく似た架空国家、大和帝国。

 平民出身のヒロインが災いを払う巫女だと判明し、西條月也(メインヒーロー)の実家である公爵家の養女になるところから物語は始まる。


 健気で心優しいヒロインは、誰からも愛されていた。

 ただ一人、悪役令嬢を除いては。


 まだ幼い悪役令嬢は、両親を事故で亡くして以来、後見人である公爵家に身を寄せていた。彼女は西條月也の許嫁でもあったため、突然現れたヒロインに対し、ライバル心を剥き出しにする。自身の地位を奪われることを恐れ、ヒロインを公爵家から追い出すためにありとあらゆる手を尽くした。


 プレイヤーは悪役令嬢の策略を上手く切り抜け、攻略対象者とのイベントをこなし、好感度を上げてハッピーエンドを目指すのだ。


「登場する男子キャラが全員カッコよくて、ホント目の保養なんだよねぇ」


 だらしなく目尻を下げ、七星はニヤニヤしながらメインヒーローのヴィジュアルに見惚れる。しかし場面が代わった途端、「あぁ」と悲し気に息を吐いた。

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