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 清澄はゆっくり振り返り、まるでダンスにでも誘うような所作で七星の手を取った。


「さぁ、参りましょう」


 清澄が言葉とともに、スッと視線を前に向ける。声は穏やかだが、高らかに宣言するようでもあった。

 清澄たちが歩き始めると、町人たちのざわめきが次第に形を変えていくのが分かった。好奇の熱は徐々に引き、代わりに本物の貴族の品格を目の当たりにした驚きが広がる。


 背筋の伸び方、足運び、口元にたたえた笑み。

 ただ歩いているだけなのに、見せかけではない育ちの良さが内側から滲む。


 清澄が一歩足を進めるごとに、モーセの十戒のごとく野次馬の群れが自然に割れ、道が開いた。


(どうしよう みんなが見てる…)


 清澄に支えられている指先が、緊張からわずかに震える。

 けれど、大勢の前で情けない姿を見せる訳にはいかなかった。

 自分が月也の許嫁である以上、この場の振る舞いが西条家の評判にも直結しかねない。

 そう思えば、どうにか胸を張って自分の足で歩くことができた。


 長屋が並ぶ狭い路地を進んだ先に、古びた工房が現れた。

 戸口は開け放たれ、中からは鉄を打つ音がする。

 清澄は慣れた足取りで敷居をまたぎ、作業する職人に声をかけた。


「お邪魔するよ。すまないが、親方を呼んでもらえるかな。東風谷清澄が来たと伝えてくれ。急ぎの用がある」


 金床を叩く音がピタリとやみ、清澄と七星に気づいた若い職人が驚いて身をのけ反らせた。


「は、はいっ! ただいまッ」


 返事だけ残して慌ただしく奥に引っ込んだと思ったら、すぐにドタドタという荒々しい足音がこちらに向かってやってきた。


「また、あなた様ですかい」


 舌打ちとともに現れたのは、初老の男だった。

 年の割に肩幅は広く、腕も太い。煤や汗が染みついた半纏と前掛けは、年季を感じさせる。目つきは鋭く、貴族の放つ威厳とはまた違った凄みをまとっていた。


 七星は懐かしさに、自然と目を細める。

 レストランの厨房で出会った、腕一本で場を黙らせる熟練の料理人たち。

 あの人たちに、どこか雰囲気が似ている……。


 その視線に気づいたのか、親方の目が七星に向いた。

 眉間に深い皺を寄せ、低い声を落とす。


「ここはガキが来るような所じゃねぇ。その高そうな着物に火でも移ったら、燃え上がるのは一瞬だ」


 大人ですらふるりと身が震えるような冷たい声に、若い職人たちまでもが息をのむ。


「嬢ちゃんも、その綺麗な顔を台無しにしたくはねぇだろ? わかったら、さっさと帰んな」


 鬼のような形相で七星を睨み、しっしと追い払うように手を振った。

 それを見た清澄が、珍しく顔を強張らせる。


「口が過ぎるぞ。この方は公爵家の――」

「清澄様、いいのです。これは親方様のお心遣いですから」


 てっきり泣き出して逃げ帰ると考えていたのだろう。七星が予想外なことを口にしたので、親方は目を見開いた。

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