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 静かに成り行きを見守っていた清澄が、重々しく口を開いた。


「私も七星様のご意見に賛成です。朱璃様が夢であれ現であれ、李鳳様は単独で街に行くべきではありません」


 七星に続き、清澄にまで釘を刺され、李鳳はシュンと肩を落とす。


「今は、何よりも晩餐会の成功に集中すべきです。国家の威信を懸けた場であり、今後の大和の立場を左右しかねない大事な機会。しかしながら、アールヴヘイムへの知見を持つ者は極めて限られております。私どもにとって、非常に厳しい状況と言わざるを得ません」


 清澄の視線が、ゆっくりと月也に向けられる。


「ゆえに、月也様」


 月也は何を言われるのか見当がついているのか、不機嫌そうに足を組み替えた。


「七星様に、晩餐会の支援役として加わっていただくのが賢明かと存じますが、いかがでしょう?」


 月也はすぐに返事をしなかったが、やがて観念したように息を吐いた。


「晩餐会が失敗に終われば、西條家もただでは済みません。七星の知識と技術が必要ならば、協力はいたしましょう」


 しかし、すぐに「ですが」と念を押す。


「七星を単独で宮廷料理科に貸し出すわけにはいきません。条件を付けさせてください」

「それは、もちろん」


 清澄が即座にうなずいた。


「まず、七星には専属女中である墨怜を帯同させます。その上で、七星が調理場に入る際には、必ず清澄殿も立ち会っていただきたい。この二つは譲れません」

「承知いたしました」


 月也は更に、低い声で付け加える。


「それから……乙部には特に注意を払っていただきたい。決して二人きりにはさせないように」

「ええ。お約束いたします」


 月也はまだ何か言いたそうだったが、今度は七星に向き直った。


「俺も出来る限り顔を出そう。無理はするなよ」


 言いながら、七星の頭をそっと撫でる。突然の温もりに、七星は一瞬きょとんとし、照れくさそうに目を伏せた。


「あ、ありがとうございます。がんばります……」


 殊勝な面持ちだった李鳳だが、七星が晩餐会の主要メンバーに加わることに喜びが隠せず、思わず身を乗り出した。


「よし、七星! 晩餐会は必ず成功させような! それで、兄上の手がかりも得られればいいんだけど……」



「と、言うわけで……。明日から、墨怜も一緒に皇帝宮殿に通ってもらうことになって……」


 七星の自室。

 丸テーブルの上に出された果物を目の前にして、七星は申し訳なさそうに墨怜に切り出した。

 淹れたての煎茶を差し出しながら、墨怜は眉を寄せる。


「全く問題ありません。私は七星様の専属女中なのですから、当然の務めでございます。そんなに遠慮した物言いはおやめください」

「は、はい。そうでした」


 七星は丸めていた背をピンと伸ばして、うなずいた。


「それでね、明日は清澄様と李鳳様と、献立の相談をするの。アールヴヘイムの視察団が、あっと驚く料理を提供しなくちゃね」

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