③
「きっと兄上から、晩餐会の助言をもらえる。そう思ったのに……よりによって月也が現れるなんて。白虎で追われたら、内緒話なんて出来るわけがない」
不貞腐れる李鳳に、月也は呆れながら大きなため息をついた。
「街に出て、もしものことがあったらどうするのです。それこそ、晩餐会どころではありませんよ」
月也にたしなめられても、李鳳は「だって……」と不満げに口を尖らせる。
七星は街を一人で歩く李鳳の姿を思い浮かべ、ふるっと身震いした。
(こんな世間知らずな子が街をフラフラしてたら、例え皇子とバレなくても、騙されたり誘拐されたりしそう…。もし、そんなことになったら…)
最悪の事態を想像した七星が、勢い良く立ち上がる。
「しっかりしてよ! 李鳳は皇太子の自覚がなさすぎる!」
「は? お前まで説教すんのかよ」
月也だけでなく七星にまで責められた李鳳は、うんざりした顔で天井を見上げた。
七星は、まるで危機感のない李鳳に苛立ち、さらに語気を強める。
「ここまで言っても、まだわからないの? もし李鳳の身に何かあったら、次の帝の座を巡って国が割れるかもしれない。そのせいで戦争が起きれば、苦しむのは国民なんだよ?」
七星の言葉に、李鳳の顔からスーッと血の気が引いていくのがわかった。
慌てた神崎が、「七星様!」と言葉を遮る。
「不敬ですぞ。あまりにも不吉な……!」
「いいえ。不吉だからと口にしないで、曖昧な言葉で濁してきた結果がこれでしょう? 甘やかすのと、敬うのは違います」
怯むことなく真っすぐ李鳳を見据える七星に対し、李鳳は青ざめた顔でうつむき、わずかに肩を震わせていた。
「俺、そこまで……。ただ、兄上に会わなきゃと思って……」
途切れ途切れに声をこぼし、ようやく自分のしでかした事の深刻さを理解し始めたようだった。
七星は少しだけ表情を和らげ、諭すように言葉を続ける。
「冷静に考えてみて。皇太子の立場を誰よりも知っているお兄様が、本当に李鳳を一人だけで街に来させるかな。秘密の合図って、待ち合わせ場所まで決まってるの?」
李鳳は顔を上げ、動揺したまま心細そうに首を横に振った。
「だったら、一人で闇雲にお兄様を探すんじゃなくて、近衛兵に捜索を命じるべきだわ。お兄様が偽物で、李鳳をおびき寄せる罠かもしれないんだから」
言われた瞬間、李鳳はピクリと身体をこわばらせる。
「そんな……」
「わからない。でも、どちらにしても、晩餐会を成功させましょう。そうすれば……お兄様が本物でも偽物でも、何かしらの動きを見せるような気がする」
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