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第十七話 内緒の合図

 あくまで他愛ない雑談のような口ぶりだったが、月也は返事をしなかった。

 まるで清澄の声など最初から聞こえていないとでもいうように、前を向いたまま沈黙で拒絶する。


(お兄様……怒ってる? 二人で何を話してたんだろう)


 遅れて追いついた七星は、二人の間に流れる微妙な空気に気づき、戸惑いながら小さな声を発した。


「あ、あの。遅れてごめんなさい」


 自分に腹を立てているのではと思い、七星は頭を下げる。

 しかし月也は一瞥くれただけで、応接室のドアノブに手をかけた。


「気にするな。入るぞ」


 扉を開けると、すでに入室していた李鳳が当然のように上座のソファに腰を下ろしていた。その隣の空席をちらりと見た清澄は、柔らかく手を差し出す。


「どうぞ、七星様。李鳳様のお隣へ」


 しかし清澄が七星に触れるより早く、月也の腕が伸びてきた。無言のまま、七星の手首を掴んで引き寄せる。


 「え?」と驚く七星をよそに、月也は一切表情を変えず、自分の隣に七星を座らせた。


 「七星はここでいい」


 落ち着いた口調だったが、有無を言わせぬ圧があった。

 清澄は微笑んだまま行き場のなくした手を引き、李鳳は「は?」と眉をひそめて露骨な舌打ちをする。


 何がどうなっているのか分からず、七星はきょとんとしながら月也の隣に腰を下ろした。

 月也は場の空気を変えるように、「さて」と凛とした声で告げる。


「本題に入る前に、まずは李鳳様にお聞きしたい。なぜ、宮殿を抜け出そうとされたのです。前にも一度、脱走を企てたことがありましたね。一体、街に何があるというのですか」


 名指しされた李鳳は、ソファに寄りかかっていた体を少し起こした。ふてぶてしいようでいて、どこか言い訳を探しているような顔をしている。


「……別に。ただ少し、探し物をしているだけだよ」

「宮殿の外は自由に出られる場所ではありません。あなたほどの立場であれば、なおさら。わかっておられるはずだ」


 月也に叱責されても、李鳳は軽く鼻で笑うだけだった。


「ああ。耳にタコができるくらい聞いてるよ。だけど強行突破しなきゃ、真実にはたどり着けないんだから、しょうがないじゃないか」


 李鳳は言い訳を諦めたのか、自虐めいた笑みを浮かべて肩をすくめる。


「開国以来、大和は諸外国から試され続けている。隙を見せたら、あっという間に乗っ取られそうだ。そんな中で、晩餐会を失敗させれば取り返しがつかないことになる」


 李鳳の膝の上に置かれていた拳に力がこもるのがわかった。


「こんな時こそ、兄上がいてくれたらと思ったんだ。みんな兄上は死んだなんて嘘を言うけど……本当は、生きてるんだろ?」

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