④
清澄の提案に、月也は同意を示すようにうなずいた。
「そうしましょう。二人には聞きたいことが、山ほどありますから」
腕を組んだままじっと七星と李鳳を見下ろす月也は、まるで裁きを下す判事のようだった。別にやましいことがあるわけでもないのに、七星は思わず身を縮めてしまう。一方、李鳳はほんの少し心当たりがあるようで、気まずそうに目をそらしていた。
「では、こちらへどうぞ」
神崎が案内するため先頭に立ち、静かに調理場から退室する。七星も後に続こうとした時、乙部の不安そうな声が飛んだ。
「お、お嬢。俺たち、どうすれば……」
ブイヨン作りが中断となり、料理人たちは明らかにがっかりしていた。
せっかくまとまりかけていた勢いを止めたくなくて、七星は素早く厨房を見回す。
(みんなやる気になってくれたのに……何かお願いできること、ないかな)
月也たちの背が廊下の先に小さくなっていくのを気にしつつ、七星は慌ただしく乙部に伝えた。
「厨房にどんな調理器具があるか、在庫表を作ってください。あと、食器類も!」
「お任せください!」
乙部が意気揚々と胸を叩く。その様子にほっとした七星は、小走りで月也たちを追って廊下を駆けた。
七星がこちらに向かってくるのを確認した清澄は、感心したように月也に声をかける。
「噂とはずいぶん印象が違ったので驚きました。子どもとは思えないほど賢いお嬢さんだ。……ちょっと怖いくらいに」
どこか探るような声色だったが、月也はあえて何でもないことのように淡々と応じる。
「いえ。七星はどこにでもいるただの子どもです」
「そうでしょうか」
月也の答えに、すかさず清澄が言葉を返した。
「厄介者の乙部たちを、あの短時間で従わせた度量。付け焼き刃ではない、明らかに実戦を重ねた料理の腕。あれを『ただの子ども』と呼ぶには、少々無理があるのでは?」
清澄は終始にこやかだが、その分本心が見えにくい。
月也は隣を歩く清澄から目線を前に戻し、念を押すように告げた。
「あれはもう、西條家の人間ですから」
「ええ。存じていますよ。あなたの許嫁だと言うことも」
でもねぇ。と続けた清澄は、優雅に微笑む。
「李鳳様の隣に立つ姿も、絵になると思うんですよねぇ」




