②
「お言葉が過ぎますぞ」
神崎の纏う空気が鋭くなる。
七星は逃げ出したい気持ちを抑え、震える膝にぐっと力を込めた。
「わかっています。だけど……。ねぇ、李鳳」
急に七星に呼びかけられて、神崎の背に庇われていた李鳳の肩がビクッと跳ねる。
「私もキミと友達になりたい。だけど、思ったことを口にすると『言葉が過ぎる』なら、私はキミを傷つけないように機嫌を取り続けなきゃならない。それって友達と呼べるのかな」
「そ、そんなの嫌だよ! わかった。七星が何を言っても、絶対に咎めたりしないから!」
必死に追いすがるような表情で、李鳳が神崎の背から飛び出した。
もしかすると、李鳳の内面は強気な言動とは裏腹に、とても臆病で繊細なのかもしれない。
七星は李鳳に上手く伝わるよう、一言一言、丁寧に紡ぐ。
「勘違いしないでね。私の我儘を全部許せって言ってる訳じゃないの。対等でいたいのよ。長く友人でいるうちに、意見がぶつかることがあるかもしれない。そんな時、片方に遠慮するんじゃなくて、ちゃんと自分の考えを出し合いたいの。それで、お互いどうしても譲れないなら……」
七星は一度言葉を区切り、李鳳の冷たい手をぎゅっと握った。
「その時は、思い切り喧嘩をしましょう」
李鳳の蜂蜜みたいな深みのある茶色の瞳が、驚きで大きく見開かれる。
「け、喧嘩?」
「そう。それで上手い落としどころを見つけて、仲直りしましょう」
「仲直り……できるのか」
「だって友達だもの」
李鳳は何か言いたかったのか、口を開きかけたが、出てきたのは震える吐息だけだった。
李鳳は言葉を発さないまま、七星の手を振りほどく。
(ああ、怒らせちゃった……)
想いが届かないもどかしさに、七星は唇を噛んで目を伏せた。しかし振り払ったと思われた李鳳の両手は、しっかりと七星の両肩を掴む。
「ありがとう、七星! 俺、お前のことずっとずっと大事にするよ。言いたいこと言い合って、喧嘩して仲直りして、一生友達でいよう! だからこれからも俺のそばにいてくれ」
李鳳の瞳は潤んでいて、今にも七星を抱きしめそうな勢いだった。「友達」という言葉がなければ、プロポーズと勘違いしそうなほどの熱がある。
「あ、う、うん。こちらこそ、よろしくね」
李鳳に圧倒されながらも、七星がコクリと首を縦に振った。李鳳は満面の笑みを浮かべ、なかなか七星から離れようとしない。
七星が距離の近さに困惑していると、コツコツと靴音が背後から聞こえてきた。
「李鳳様、七星が困っております。離れていただけますか」
月也の腕が、七星と李鳳の間に割って入った。




