第十五話 友達
縋るような李鳳の視線を受け、七星は必死に言葉を探す。
例えばこれが本当にゲームで、モニター越しにプレイしているだけならば「友達に決まってるじゃない!」なんて安易な回答を選択したかもしれない。
そう答えれば李鳳が喜ぶのは目に見えているし、もし間違っていてもリプレイすればいいだけだ。
けれど、この世界は現実で、失敗すれば確実に死に近づく。
適当にはぐらかしてこの場を凌いでも、いつか破綻するような気がした。
「わ、私は……」
月也の腕から離れ、李鳳に向き直る。
七星は胸の前で指を組み、迷いながらも真摯な気持ちを伝えるために口を開いた。
それなのに、李鳳は七星の言葉を遮って、何か思いついたように「そうだ!」と声を被せてくる。
「手始めに、お前を馬鹿にしたアイツらを処分しよう。友情の証だ! どんな方法がいい? 打ち首、切腹、鞭打ち……お前の好きな方法で裁いてやるよ」
嬉々として提案する李鳳の声に、既に土下座の格好で地べたに這いつくばっていた乙部たちが「ひぃっ」と悲鳴を上げた。
「お、お許しください! 高貴な方とは露知らず、無礼な真似を……」
カツカツ靴音を鳴らして乙部に近づいた李鳳は、呆れたように鼻で笑い、冷たく見下ろす。
「俺に謝ってどうする。謝罪なら七星にだろう」
「は、は、はい! 七星様、数々の暴言、大変申し訳ありませんでした! どうか、どうか、後生ですから……」
青を通り越して真っ白になってしまった乙部の顔を七星はジッと見つめる。
「さぁ七星、こいつらに引導を渡してやれ。八つ裂きにしたってかまわねぇぞ」
裁量をゆだねられた七星は、ぎゅっと拳を握りしめた。
確かに不愉快な言葉をいくつも投げつけられたが、だからと言って死んで詫びろとはとても思えない。
むしろ、彼らの償った命を背負わされるなんてまっぴらだった。
それに、李鳳が人の命を軽く扱うことにも腹が立つ。
「キミは気に入らないことをされたら、こうやって誰の命でも簡単に奪うの?」
大人が子どもを諭すような静かな問いかけに、李鳳は不思議そうに首をかしげる。
「何か問題あるか?」
「ある。だって、いつか私も殺されるかもしれないもの」
大真面目な七星の言葉を、李鳳はあっさり笑い飛ばした。
「何言ってんだ。お前を殺すわけないだろ。だって友達なんだから」
「じゃあ、友達じゃなくなったら?」
「え?」
李鳳の真正面まで歩みを進めた七星が、不安そうに、しかし目は逸らさずに言葉を続ける。
「一緒に過ごすうち、キミの思い通りに動かない私の言動を、いつか不快だと感じるかもしれない。友達だと思えなくなるかもしれない。そんな時、私がキミの機嫌を損ねてしまったら? キミは私に罰を与える?」
「そ、それは……」
たじろいだ李鳳が、怯えたように一歩下がる。
「キミは友達からよそよそしくされることを恐れているけど、友達の方も怖かったんじゃないかな。だって、キミはとんでもなく強い権力を持っていて、その上、横暴だもの」
「な、七星様!」
あまりにも歯に衣着せぬ物言いに、たまらず神崎が李鳳を庇うように前に出た。




