③
「これは……なんて美しい」
清澄は自分の目線の高さに皿を持ち上げ、まるで美術品を鑑賞するように色々な角度から眺める。艶やかなトマトの赤とパセリの緑は、目にも鮮やかだった。
「どうぞ、こちらでお召し上がりください」
七星は作業台に丸椅子を並べ、清澄と乙部に座るよう促した。
乙部は着席するなりフォークとナイフを乱暴に掴み、出来立ての料理をジッと睨む。丸ごとのトマトが堂々と皿に載った様子は、なかなかに迫力があった。
「み、見た目はまぁまぁだな。だけど、問題は味だ」
相変わらず傲慢な態度だったが、明らかに想像以上の物を出されて動揺しているようにも見えた。
その横で、清澄が静かにナイフをトマトに差し入れる。二つに割られたトマトの中からジュワッと肉汁があふれ出て、その瞬間、周りで見ている者たちの喉までゴクリと鳴った。
使い慣れた仕草でフォークを口に運び、清澄が目を大きく見開く。
「驚いた……トマトがこんなに濃厚な味になるなんて。それに、この滴るような肉の旨味と香り。フライパンで焼いても、こうはならない……」
独り言のように呟いた後、清澄は黙々とトマトを口の中におさめ、目を閉じて幸せそうに咀嚼する。そんな清澄の反応を見て、乙部も湯気の立つトマトを丁寧に一口大に切り分けた。
今までの言動からして、フォークを突き立てるくらいの荒々しさで食事をするのかと思っていた七星は、意外そうに瞬きを繰り返す。
腐っても貴族と言うことだろうか。
留学経験とも相まって、とても綺麗にカトラリーを使いこなしていた。
「なんだ、これ……」
乙部は驚きながら皿の上のトマトを見て、もう一度確認するように残りのトマトを味わう。
「トマトのぐじゅっとした食感が苦手だったが、これは水分がしっかり抜けていて、むしろ焼き上がりは香ばしい……」
乙部は放心したまま皿を見つめる。少年が、もう待ちきれないと言うように七星の袖を引いた。
「なあ、俺にも食べさせてくれよ」
「ええ、もちろん。あっ、使い慣れた箸の方が良い? 今、準備するね」
「いや、これで構わねぇよ」
少年も席に着くと、スッと背筋を伸ばしてナイフとフォークを手にする。その所作は庶民とは思えないような優雅さがあって、七星は不思議そうに首を捻った。
いくら清澄の使い方を見ていたとはいえ、カトラリーを戸惑いもせず即座に使いこなすなど、出来るものだろうか。
「んん! すげぇ美味い! トマトって酸っぱくて嫌いだったけど、これは程良くて俺でも食えるぞ」
言葉遣いは荒いが、食事風景だけ見ればまるで貴族のような振る舞いだった。料理を褒められて嬉しい反面、少年の正体が急に気になりだした七星が、おずおずと尋ねる。
「ね、ねぇキミ、ここの使用人じゃないの? 本当は、何者……?」




