③
乙部はおどけたように肩をすくめ、ヒュウッと口笛を鳴らす。
「どっからくるんだ、その自信。まぁいいさ。お前の料理が美味かったら、何でも言うこと聞いてやるよ。そんなことありえないけどな」
「では、試食役は私が務めましょう。公平な評価をしますので、その点はご安心ください。………本当はお止めするべきなのでしょうが、申し訳ない」
最後の方は小声になった清澄が、すまなそうに眉を下げた。
ヒートアップした乙部たちはもちろん、普段彼らに威張り散らされ反発心を溜め込んだ料理人たちまでもが、七星の挙動に注目している。
「嬢ちゃん、頑張れよ!」
「あいつらぎゃふんと言わせてくれ」
日頃の鬱憤を晴らしてもらおうと、熱い期待を寄せていた。
ここまで来たら、七星が実力を示す以外にこの騒ぎを収める方法はなさそうだ。清澄もそう判断したのだろう。
七星はぐるりと厨房を見回し、清澄に尋ねる。
「ここにある食材は、自由に使ってかまいませんか?」
「ええ。晩餐会の献立を試作するために仕入れたものなので、好きに使ってください」
清澄の許しを得て、七星は食材の中から使えそうなものを選んでいく。試作用に取り寄せただけあって、どれもアールヴヘイム料理向きの食材ばかりだった。
「コンソメを作ったってことは、トマトとひき肉はあるはず。あとは、ニンニク……ベーコンと卵もある」
竹のざるにピックアップした食材を次々入れ、今度は調理器具に目を移す。 大きな寸胴に銅製のフライパン。その中から黒光りする分厚い鋳鉄の鍋を見つけ、七星は目を輝かせた。
「あっ! この蓋付きの鉄鍋なら、ダッチオーブンになりそう。……よし、アレが作れる!」
メニューを閃いた七星は、髪を一つにまとめて結び、身支度を整える。邪魔な着物の袖は、清澄がたすき掛けしてくれた。
気合十分で準備を進める七星に、頬を紅潮させてワクワクしながら少年が近づいてくる。
「なぁ、俺にも何か手伝わせてくれよ!」
「そうね……この子を助手にしてもいいかしら?」
勝手に手伝わせて後になって言いがかりをつけられても面倒なので、七星は乙部に念のため尋ねた。乙部は「かまわねぇよ」と鼻で笑う。
「ガキが一匹増えたところで、どうにもなんねぇだろ」
嫌な言い方に七星はムッとしながら、トマトの入ったザルを少年に押し付けた。
「さっそくお仕事よ。野菜を洗いに行きましょ」
「お? おお!」
仕事を任されたのが嬉しいのか、少年は意気揚々とザルを抱えて七星と一緒に勝手口から外へ出る。その様子を心配そうに、清澄が厨房の窓から見守っていた。
勝手口のすぐそばにある井戸は、縄に取り付けられた桶を落として水を汲み上げる、昔ながらのものだった。滑車を利用して引き上げるので、子どもの力でも問題なさそうだ。
「使い慣れてるでしょ? 水汲みお願いね」
「は? 俺、こんなのやったことねーよ」




