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第十三話 宮廷料理課

 殴られると思って身を縮めていた七星は、声のおかげでピタリと止まった男の拳からゆっくり視線を外す。声の主を探すように厨房の入口に目を向けると、驚きと怒りの表情を浮かべたコック姿の男性が、ワナワナ震えていた。


「こんな小さな子になんてことを!」


 靴の踵を鳴らしながらこちらに一直線に向かってくる男性は、野蛮な男たちを厳しく咎める。それと同時に、周囲で傍観していただけの他の料理人たちを鋭く睨みつけた。


「あなた方も、なぜ見ているだけで止めようとしないのです」


 落ち着いた声色だったが、それが逆に威圧感を与えた。先ほど男たちが傍若無人に振舞っていた時よりも、数倍の緊張感が厨房に走る。


「わ、わたくし共では、あの方々をお止めすることは難しく……」


 料理人の一人がうつむきながらも何とか声を絞り出した。

 七星に殴りかかろうとしていた男は、「あーあ」と興覚めしたように息を吐く。


「邪魔しないでくれます? このガキ、俺たちの料理を馬鹿にしたんスよ」

「だからと言って、手を上げて良い理由にはなりません」


 男性は七星の前で足を止め、目線の高さを合わせるように腰をかがめる。

 その麗しい容姿に、七星は「もしかして」と身構えた。


「宮廷料理課、第三班を取り仕切ります、東風谷(こちや)清澄(きよと)と申します。部下が大変失礼をいたしました」

「こちや、きよと……」


 七星は「やはり」と思いながら唇を噛む。

 東風谷清澄と言えば、月也と同じくこのゲームの攻略対象者だ。


 椿の葉のような深緑の髪に、モネの描く池のように澄んだ青い瞳。

 二十代前半の美青年で全体的に儚げな印象だが、意志の強さを感じさせる目をしていた。

 彼は大和人の父とアールヴヘイム人の母を持つハーフで、エルフと同じように耳が少しだけ尖っている。あの留学帰りの料理人たちが清澄に対しては敬語を使うのも、彼の実家が伯爵家だからだ。


(でも……ゲームでは、鳳舞学園で料理学を教える教師だったはず。なんで彼がここにいるの?)


「お怪我はございませんか?」


 心配そうに眉を寄せる清澄に、七星は緊張気味に「はい」と答える。頭の中では必死に清澄のシナリオを思い返していた。


(確か、清澄は料理に関することで失敗すると、好感度が大幅に下がるのよね。死亡フラグが立つのは学園内での出来事ばかりだったから、今はまだ断罪の心配はなさそう。でも、油断はできない)


 清澄は七星の顔が強張ったのを、まだ怯えていると受け取ったのかもしれない。料理人たちを威圧した時からは想像もできないほどの優しい声色と眼差しで、七星の頭をそっと撫でる。


「怖い思いをさせて、本当にすみませんでした。そちらの少年も申し訳……」


 清澄が少年に目をやってハッとした。少年も清澄の視線に気づくと、キャスケット帽を目深に被り直す。清澄は何かを言いかけたが、少年がわずかに首を横に振り、それを制したようにも見えた。


「もしかして、知り合いなの?」


 七星が少年に尋ねた瞬間、清澄が現れたことによって怒りのやり場を失くした男が「おいガキ!」と声を張り上げた。

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