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第十二話 料理の天才

「い、今から⁉」


 七星はブレーキをかけるように、ぎゅっと足に力を入れる。急に立ち止まったものだから、欅の廊下がキュッと音を立てた。手をつないでいた少年は、ガクンと後ろに引っ張られるように倒れ掛かり、驚きながら七星を睨む。


「うわ! あぶねーな、急に止まんなよ。お前、今更『料理が作れるなんて嘘でした』とか言うなよ?」

「嘘じゃないけど、でも、どんな食材があって調理器具は何が揃ってるのかもわからないのに……」


 不安そうに目を伏せた七星を、少年は「なぁんだ」と言って笑い飛ばした。


「厨房はアールヴヘイムを参考にした最新型だから安心しろよ。お前も見たら絶対に気に入るって。だって、凄いんだぜ」


 自分の手柄のように得意気に胸を張る少年を見て、七星は「うーん」と唸った。いくら最新型と言っても、この時代にオーブンやガスコンロがあるとは思えない。かまどの火加減はどうやって調節するのか、七星には見当もつかなかった。


 何を作るか頭を悩ませているうちに、いつの間にか厨房にたどり着く。心の準備が出来ていない七星は逃げ出してしまいたかったが、少年は躊躇いもせずにドアを開けた。


「さぁ、ここを好きに使っていいぞ! 早速料理を作ってくれ!」


 突然現れた少年と七星に、中にいた者たちの視線が一斉に集まる。

 てっきり誰もいない厨房をこっそり拝借すると思っていた七星は、心臓が口から飛び出しそうになった。


「ちょちょ、ちょっと! 料理人が仕事してる中で、私なんかが勝手に使えるわけないでしょ⁉ バカじゃないの?」

「なっ……! お前、俺に向ってバカっていうのか⁉ 取り消せよ!」


 売り言葉に買い言葉で二人が睨み合っていると、作業の手を止めて二十代前半くらいの男がこちらに向かってやってきた。シッシと手で払うような仕草で、高圧的に追い立てる。


「オイオイ、ここはガキの遊び場じゃねーぞ。他行きな」

「そうですよね、失礼しましたっ!」

「ん? いや、待て」


 素直に厨房を出ようとした七星の腕を、男は気が変わったのか乱暴に掴んだ。急に強い力で掴まれた七星は、「きゃっ」と小さな悲鳴を上げる。


「い、痛いです。離してください」

「嬢ちゃん、よく見たらえらい器量が良いなァ。あと五年も待てば物凄い美人になるぞ。どうだ、俺の嫁にならないか?」


 男はどこまで本気なのか、品定めするように七星の全身に視線を走らせ、舌なめずりした。あまりの気持ち悪さに、ぞぞぞと全身に鳥肌が立つ。

 それを見て激昂した少年は、男を突き飛ばし前に出ると、七星を庇うように両手を広げた。


「汚い手で触るな! この子はお前らなんかより、ずっと美味いアールヴヘイム料理を作れる天才なんだぞ!」


 突き飛ばされて数歩下がった男は、仲間らしき他の料理人と目を合わせ、腹を抱えて笑い出した。

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