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第十話 妖の王

 障子越しに、柔らかな乳白色の光が差し込んでいた。

 七星は寝ぼけながらも見慣れぬ天井を眺め、「ここ、どこだっけ」と思案する。

 直ぐに白い虎が七星の顔を覗き込んできて、自分の状況を理解するまでに数秒かかってしまった。その間にも、呂色が早く起きろと言うように、ゴンゴンとこめかみのあたりに軽く頭突きしてくる。

 耳元で賑やかに首輪の鈴が鳴り、だから夢の中でも聞こえたんだなと納得した。


「あれがただの夢だとは、とても思えないけど」


 むくりと起き上がると、呂色が嬉しそうに膝に登ってくる。よしよしと撫でていたら、障子戸に墨怜の影が映った。


「七星様、お目覚めですか?」

「おはようございます。どうぞ、お入りください」


 七星の返事を待って、障子戸がスッと開く。


「おはようございます。お加減はいかがですか」


 部屋に入るなり七星の熱を測った墨怜は、無表情の中にほんの少しの安堵を浮かべた。


「熱も下がったようで、なによりです。月也様が、体調が良ければ朝餉(あさげ)を一緒にどうかとおっしゃってくださったのですが、いかがなさいますか?」

「ぜひ!」


 間髪入れずに七星は答える。月也からの申し出を、断る理由なんて一つもない。


「かしこまりました。では白虎。七星様のお支度が整い次第、母屋へお伺いしますと月也様にお伝えしておくれ」


 伝言を頼まれた白虎は器用に前足で障子戸を開け、大きな体を揺らして部屋から出ていった。

「どうやって言葉を伝えるんだろう」と七星が考えながら浴衣の帯を解き始めた途端、呂色が白虎の後を追うように、ぴゅんっと部屋を飛び出していく。

 障子戸を閉めかけていた墨怜が、走り去る呂色を見て少し呆れたように肩をすぼめた。


「自由気ままですね」

「猫とはそういう生き物です」


 七星がクスクス笑いながら身支度を始めると、墨怜はサッと手を貸してくれる。まだ出会って間もないが、墨怜の仕事ぶりを見ていれば、女中として敏腕だということは直ぐにわかった。


 有能な人特有の、効率的な動線。次は何をすべきか優先順位を把握しているので、動きには無駄がない。

 こういう人がレストランのホールに一人いるだけで、店全体がとてもスムーズに回るんだよなぁと、ついつい職場のことを考えてしまった。


 身なりを整えた七星は、墨怜の先導で母屋へと向かう。

 長い廊下を歩きながら、攻略本の中で見た西條家の間取り図を脳内で思い浮かべていた。どうやら奥座敷の手前にある、茶の間へ向かっているようだ。

 そう言えばゲームの中でヒロインと月也と父親の三人が、和やかに朝食をとっているシーンがあったっけ。


(ななちゃんがその場に呼ばれたことは、一度もなかったけど)


 今日見た夢のこともあり、余計にチクリと胸が痛む。

 やがて座敷の前に到着した墨怜がふすまの手前で膝を付き、「七星様をお連れしました」と中に向って声をかけた。

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