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 七星は何もない真っ白な宙に向って、もう一度声を張り上げた。


「お願いします! ななちゃんを……」

『待って! それじゃダメ。私が戻っても、お兄様を助けてあげられない!』


 鷹司七星が叫ぶように言葉を遮り、七星の胸にすがりついて訴える。


『私が神様にお願いしたの。お兄様を助けてくれる人に、この体をあげてって。呪いのせいで魂はもう駄目だったけど、体はまだ無事だったから』

「そんな……」


 涙は乾いていなかったが、鷹司七星の目からは強い意志が感じられた。


『いいの。その代わり、お兄様を必ず助けてね? 命を狙われていたのは、私だけとは限らない』

「えっ? 月也さまも命を狙われているかもしれないってこと?」


 てっきり「助けて」とは晩餐会のことを指しているのかと思ったが、事態は更に深刻なようだ。


『わからない。でも、嫌な予感がするの。だから、お願いね』


 そういって鷹司七星はするりと七星の腕から離れる。心なしか、彼女の色彩が薄くなっているような気がした。


『約束よ。お兄様を助けて』

「ま、待って! 行かないで、ななちゃん」

『その、ななちゃんって呼び方、嬉しかった。なんだか初めてできた友達みたいで』


 放つ言葉とは裏腹に、照れ隠しなのか、わざとぶっきらぼうに言ってそっぽを向いた。

 ますます薄くなって白い空間に溶けてしまいそうな彼女に、七星は手を伸ばしながら叫ぶ。


「『みたい』じゃなくて、私たちもう友達だから! また絶対会おうね、ななちゃん!」


 その言葉に、鷹司七星は歓喜の表情を浮かべた。もう声は聞こえなかったが、満面の笑みでうなずくのが辛うじて見える。


 白い空間には、いつの間にか霧が立ち込めていた。その霧に飲み込まれるように、鷹司七星が消えていく。

 七星も同様に霧に包まれ、足元にあった床の感覚がなくなり、身体がふわりと浮かび上がる。


 自分もこの場所から消えていくのだと悟り、七星は静かに目を閉じた。

 またいつか鷹司七星に会えるだろうか。

 心の中で投げかけた問いに、誰かが答える。

 

『大丈夫。また必ず彼女に会えるよ』


 男性とも女性とも判断がつかない中性的な声が、予言めいた言葉を告げる。

 その声に安心感を覚え、七星は白い霧に身を任せた。


 いつかと同じように、遠くから、チリンと鈴の音が聞こえた。

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