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『やーっと起きた。私と話せる時間はちょっとしかないのよ? 無駄にしないでちょうだい!』


 ほんのり紫がかった艶やかな黒髪。最高級のベルーガキャビアみたいな潤んだ瞳。えんじ色の袴に同色の大きなリボン。

 見間違えるはずがない。


「な、ななちゃん……!」


 そう呼びかけられて、それまでツンツンしていた鷹司七星が大きく目を見開き、両手で自分の頬を押さえた。


『ななちゃんですって!? それってまさか、わ、私のこと?』

「あっ、ごめんなさい。馴れ馴れしかったですよね……今後はちゃんと、七星様とお呼びします」


 つい、いつもの癖で心の中での呼び方をしてしまった。初対面でいきなり愛称で呼ばれては、気分を害されても仕方ないなと反省する。

 しかし鷹司七星は「えっ」と慌てた表情になった。


『べ、別に構わないわ。特別に許してあげる。これからも『ななちゃん』って呼びなさいよ』

「いいんですか? じゃあ……ななちゃん、ここは一体どこなんでしょう?」


 そう尋ねてから、七星は改めてぐるりと周囲を見回した。壁があるのかないのか、どこまでも真っ白な空間が広がっている。七星の見た目も、どうやら本来の大人の姿に戻っているようだ。


『さぁ。私にもわからない。あなたの夢の中かもしれないし、もっと別の場所かもしれない。……そんなことよりも』


 そこで言葉を区切った鷹司七星は、ビシッと人差し指を突き立てて、思い切り七星を睨んだ。


『ズルいじゃない! お兄様とあんなに仲良くするなんて!! 私、一度もお兄様と一緒にお茶を飲んだことなんてない!!』


 言っている側から、鷹司七星の両目にみるみる涙が溜まる。


『ズルい! ズルい! 白虎神獣まで護衛に付けてもらって!』


 床をダンダン足で踏みつけて、遂にわぁわぁ声を上げて泣き出した。


『私だって、お兄様ともっと仲良くしたかったのに!!』


 地団太を踏みながら大声で泣き喚く少女の姿に、七星の胸は押し潰されそうになる。


「ななちゃん……!」


 思わず両手を伸ばし、すっぽり包み込むように鷹司七星を抱きしめた。ビクッと彼女の小さな肩が震えたが、振り払われることはなかった。


「そうだよね。もっと仲良くしたかったよね」


 七星が改めて声に出して同意すると、鷹司七星はしゃくりあげながら「でも」と、しがみついてきた。


『でも、お兄様は、私のこと、嫌いじゃなかったよね?』

「うん。ちゃんとななちゃんのこと、考えてたよ」

『それなのに私、どうやって仲良くなればいいのか、わからなかったの。だから、怒るか泣くかして、注意を引くしかできなかったの』

「そっか……そっか」


 どんな慰めも薄っぺらくなりそうで、かける言葉が見つからない。鷹司七星の頭を撫でながら、「どうか」と心の底から願う。


「お願い。私とななちゃんの魂をもう一度入れ替えて……! ななちゃんを元の場所に帰してあげて!」


 どうしてだか、叫べば誰かに届くような気がした。

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