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そんなやり取りをしながら遠ざかっていく女性たちを、七星と呼ばれた少女は呆然としつつ見送った。
「なんなのあの人たち。でも、どうして私の名前を知ってるんだろ」
首を傾げつつ、七星は廊下に腰かけて、言われた通りに雑巾で足を拭う。
「やっぱり、これも夢なのかな」
ふうっと溜め息をつき、ぼんやりと庭を眺める。
梅の甘い香りがふわっと漂い、池では金色の鯉がパシャンと跳ねた。夢にしてはやけにリアルだ。七星はうーん、と考え込むように腕を組む。
そうこうしていると、先ほど女性たちが立ち去った廊下の奥から、ドタドタと慌ただしい幾つもの足音が聞こえてきた。
五、六人ほどの女性の集団が、列をなしてこちらに向かってくる。その中には、先ほど雑巾を投げつけた女もいた。
先頭にいるのは四十代くらいの女性で、彼女だけは草木模様の入った濃い紫色の着物を着ている。「女中頭に報告しなきゃ」と言っていたが、彼女がそうなのかもしれない。
「あらあら、本当に起きているのね。半月も寝込んでいた癖に、月也様のお帰りに合わせて目が覚めるなんて図々しいこと」
女中頭は仰々しく扇いでいた扇子を、威嚇するようにパチンと閉じた。
「とは言え、こんな小汚い格好でウロウロされたら、七星様の世話をしていなかったのかと私が責められてしまいますわ」
女中頭は自分の後ろに控えている女たちに、顎をクイッと上げて合図を送る。
すると水の張った大きなタライを持った女たちが前に出てきて、そのタライを廊下にドンと置いた。何をするのだろうと思っていると、小柄な七星はひょいっと持ち上げられ、水の中に放り込まれる。
そこからはもう、洗濯機で滅茶苦茶にかき混ぜられているような目まぐるしさの連続だった。
汗臭い浴衣は剥ぎ取られ、頭を押さえつけて冷たい水の中に浸される。石鹸の泡が目に入るなどお構いなしで、髪も体もゴシゴシと洗い上げられた。
春とは言え、庭先での水浴びは流石にまだ寒い。
七星はブルブル震えながら、たまらずに悲鳴を上げる。
「つ、冷たい! やめてっ!」
「お黙り。アンタなんか見捨てても良かったのに、こうして手入れしてやるんだから感謝しなさいよ」