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第九話 人を呪わば穴二つ

「どうした。なぜ泣く。どこか苦しいのか」


 月也にそう問われ、初めて頬が濡れていることに気が付いた。

 七星に涙を流した自覚はない。

 もしかするとこの体にはまだ、鷹司七星の余韻のようなものが残っていて、涙腺が勝手に反応したのかもしれない。

 彼女はきっと、月也に頭を優しく撫でて貰ったことなどなかっただろうから。


「いえ、どこも苦しくありません。明日のために、もう寝ます」


 自分の頬を拭いながら、七星は「大丈夫」と笑って見せた。月也は(いぶか)しそうに眉間に皺を寄せ、少し逡巡した後、部屋の隅で寝そべる白い虎に目をやる。


「白虎」


 月也に名前を呼ばれた白虎が、体をすくっと起こした。


「お前はこの部屋に残り、七星を守護しろ」

「えっ! 白虎神獣を貸して頂けるのですか?」


 嬉しそうにすり寄ってきた白虎の大きな体を撫でながら、七星もはしゃいだような声を出す。


「ああ。呪いをかけた犯人は捕まえたが、お前を呪った理由がまだわからん。他に仲間がいないとも限らないし、用心に越したことはないだろう」

「私を呪った理由……? ただの嫌がらせではないのですか」


 七星が思うより月也が呪いの件を警戒していることを知り、ゾクッと背中が冷えた。あれで終わりと言うことではないのだろうか。


「『人を呪わば穴二つ』という言葉を知っているか?」

「はい。人を呪うと自分に返ってくる……というような、戒めのことわざですよね」


 七星の答えを肯定するように、月也が「ああ」とうなずく。


「穴の一つは呪い殺す相手の墓。残るもう一つは、その報いを受ける自分のための墓。他人の不幸を願うなら、自分も不幸になる覚悟がなくてはいけない。お前を虐めていた女中頭どもは、保身ばかりを考えるような奴らだ。自分の命と引き換えにしてまで、嫌がらせでお前を呪うだろうか」


 月也の考えを聞き、確かにそうかもしれないと七星は身震いした。


「火傷を負った女中は、何か別の目的があったのかもしれない。いずれにせよ、捜査が進めば明らかになるだろう。それまでは、お前も一人で行動しないようにな」

「はい……」


 緊張気味にうなずく七星に、月也はよく見なければ気づかないほどの小さな笑みを浮かべる。


「油断は出来ないが、そう怯えるな。今日から隣の部屋を墨怜の個室とした。何かあったら直ぐに呼べ」

 

 そう告げてから退出するため障子戸を開けた月也が、ふと思い出したように振り返った。


「そう言えば……呪いのかかった形代を破いたのは、あの黒猫だと言ったな?」

「は、はい。それが、何か……」


 月也が難しい顔をして考え込んだので、七星が恐る恐る尋ねた。

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